306 / 376
16-17 すれ違う心
しおりを挟む
「何故だ?!お前はアイゼンシュタット城でメイドとして働いているではないか?!それなのに金が無いのか?ひょっとして……タダ働きをさせられていたのか?!」
エルウィンは興奮するあまり、ここが露店街で人々が往来している事も忘れて大声を上げていた。
そしてその様子を通りすがりの人々が興味深気に見つめている。
「あ、あの……エルウィン様。ここは通りですし、人の目もありますので……あまり大きな声を出されては……」
「あ……すまない。つい驚いて大きな声をあげてしまった。よし、とりあえずは……おい!店主!」
エルウィンは鋭い眼光で老女を見た。
「は、はい!何でございましょう?!」
老女は丸まっていた背筋をピンと伸ばし、返事をした。
「とりあえず、ここからここまで並んでいる品物を全部くれ!」
エルウィンは指先で、並べられていた品物をビシッと指をさした。
「はい、ありがとうございます!」
「え?えええっ?!」
満面の笑みを浮かべる老女に対し、驚くアリアドネ。
「すぐに、ご用意致しますね」
老女は、気が変わられでもしたら大変だと言わんばかりにセカセカと品物を包み始めた。一方焦っているのはアリアドネだ。
「エルウィン様。何もここに並んでいる品物全部だなんて……」
「何を言う?欲しいのだろう?これくらいのことなど、気にするな。今迄無給で働いていたのなら尚更だ。俺からの……そ、その今迄頑張って働いてきた褒美だと思え」
女性に自ら目の前で贈り物をしたことなど一度も経験の無いエルウィンは、どうしてもプレゼントだとは言い出せなかったのだ。
「褒美ですか……?それではお言葉に甘えて……頂きます」
「ああ、そうだ。遠慮なく受け取るがいい」
満足気に頷くエルウィンだったが、一方のアリアドネは全く別の解釈に捉えていた。
(やはり……今頑張って働いてきた褒美というのは、ここを出て行って良いと言うことなのね……)
少しはエルウィンとの距離が近付いたと思っていたアリアドネ。このまま城に残っても良いのだろうかという気持ちになっていた矢先だけに、エルウィンからの言葉が胸に刺さった。
「はい、ありがとうございます」
アリアドネは少しだけ寂しげにエルウィンに笑みを浮かべた――。
****
「エルウィン様。こんなに沢山褒美を頂きまして、ありがとうございます」
露店の帰り道、麻袋を肩に担いで歩くエルウィンにアリアドネは礼を述べた。
「何、気にするな。これは当然の褒美なのだからな」
「はい……」
機嫌よく返事をするエルウィンだが、アリアドネはその様子から益々気分が落ち込でいく。
「どうした?何だか元気が無いようだが……嬉しくはないのか?」
「いえ。そんなことはありません。とても嬉しいです。本当に……今迄良くして頂いてありがとうございます」
「うん?そうか?別にそんなことは無いぞ?これくらい当然のことだ。ところでアリアドネ。俺に話があるそうだが……一体どんな話だ?」
エルウィンはてっきり昨夜の話のことだろうと思っていたので緊張の趣で尋ねた。
「はい、何故急ぎでお城に戻るのかを教えて頂けないでしょうか?もしや……城で何か異変があったのでしょうか?」
「え?!何だって?!い、いや!断じてそんなことではないぞ?!」
慌てて首を振るエルウィン。
「そうなのですか?では何故急ぎで出発されたのでしょう?」
「そ、それは……」
じっと見つめてくるアリアドネにエルウィンはたじろいだ。
(何故急ぎで出発したかなんて……アリアドネに言えるはずないだろう?!まさかお前に近づこうとする王太子に嫉妬したからだなんて……!)
「な、何でもない!お前がいちいち気にすることではないから案ずるな」
「そうですか?分かりました……」
(やはり私はもうアイゼンシュタット城とは無関係の者だと思われているのね……)
アリアドネは心の中でため息をつくのだった――。
エルウィンは興奮するあまり、ここが露店街で人々が往来している事も忘れて大声を上げていた。
そしてその様子を通りすがりの人々が興味深気に見つめている。
「あ、あの……エルウィン様。ここは通りですし、人の目もありますので……あまり大きな声を出されては……」
「あ……すまない。つい驚いて大きな声をあげてしまった。よし、とりあえずは……おい!店主!」
エルウィンは鋭い眼光で老女を見た。
「は、はい!何でございましょう?!」
老女は丸まっていた背筋をピンと伸ばし、返事をした。
「とりあえず、ここからここまで並んでいる品物を全部くれ!」
エルウィンは指先で、並べられていた品物をビシッと指をさした。
「はい、ありがとうございます!」
「え?えええっ?!」
満面の笑みを浮かべる老女に対し、驚くアリアドネ。
「すぐに、ご用意致しますね」
老女は、気が変わられでもしたら大変だと言わんばかりにセカセカと品物を包み始めた。一方焦っているのはアリアドネだ。
「エルウィン様。何もここに並んでいる品物全部だなんて……」
「何を言う?欲しいのだろう?これくらいのことなど、気にするな。今迄無給で働いていたのなら尚更だ。俺からの……そ、その今迄頑張って働いてきた褒美だと思え」
女性に自ら目の前で贈り物をしたことなど一度も経験の無いエルウィンは、どうしてもプレゼントだとは言い出せなかったのだ。
「褒美ですか……?それではお言葉に甘えて……頂きます」
「ああ、そうだ。遠慮なく受け取るがいい」
満足気に頷くエルウィンだったが、一方のアリアドネは全く別の解釈に捉えていた。
(やはり……今頑張って働いてきた褒美というのは、ここを出て行って良いと言うことなのね……)
少しはエルウィンとの距離が近付いたと思っていたアリアドネ。このまま城に残っても良いのだろうかという気持ちになっていた矢先だけに、エルウィンからの言葉が胸に刺さった。
「はい、ありがとうございます」
アリアドネは少しだけ寂しげにエルウィンに笑みを浮かべた――。
****
「エルウィン様。こんなに沢山褒美を頂きまして、ありがとうございます」
露店の帰り道、麻袋を肩に担いで歩くエルウィンにアリアドネは礼を述べた。
「何、気にするな。これは当然の褒美なのだからな」
「はい……」
機嫌よく返事をするエルウィンだが、アリアドネはその様子から益々気分が落ち込でいく。
「どうした?何だか元気が無いようだが……嬉しくはないのか?」
「いえ。そんなことはありません。とても嬉しいです。本当に……今迄良くして頂いてありがとうございます」
「うん?そうか?別にそんなことは無いぞ?これくらい当然のことだ。ところでアリアドネ。俺に話があるそうだが……一体どんな話だ?」
エルウィンはてっきり昨夜の話のことだろうと思っていたので緊張の趣で尋ねた。
「はい、何故急ぎでお城に戻るのかを教えて頂けないでしょうか?もしや……城で何か異変があったのでしょうか?」
「え?!何だって?!い、いや!断じてそんなことではないぞ?!」
慌てて首を振るエルウィン。
「そうなのですか?では何故急ぎで出発されたのでしょう?」
「そ、それは……」
じっと見つめてくるアリアドネにエルウィンはたじろいだ。
(何故急ぎで出発したかなんて……アリアドネに言えるはずないだろう?!まさかお前に近づこうとする王太子に嫉妬したからだなんて……!)
「な、何でもない!お前がいちいち気にすることではないから案ずるな」
「そうですか?分かりました……」
(やはり私はもうアイゼンシュタット城とは無関係の者だと思われているのね……)
アリアドネは心の中でため息をつくのだった――。
41
あなたにおすすめの小説
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる