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16-17 すれ違う心
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「何故だ?!お前はアイゼンシュタット城でメイドとして働いているではないか?!それなのに金が無いのか?ひょっとして……タダ働きをさせられていたのか?!」
エルウィンは興奮するあまり、ここが露店街で人々が往来している事も忘れて大声を上げていた。
そしてその様子を通りすがりの人々が興味深気に見つめている。
「あ、あの……エルウィン様。ここは通りですし、人の目もありますので……あまり大きな声を出されては……」
「あ……すまない。つい驚いて大きな声をあげてしまった。よし、とりあえずは……おい!店主!」
エルウィンは鋭い眼光で老女を見た。
「は、はい!何でございましょう?!」
老女は丸まっていた背筋をピンと伸ばし、返事をした。
「とりあえず、ここからここまで並んでいる品物を全部くれ!」
エルウィンは指先で、並べられていた品物をビシッと指をさした。
「はい、ありがとうございます!」
「え?えええっ?!」
満面の笑みを浮かべる老女に対し、驚くアリアドネ。
「すぐに、ご用意致しますね」
老女は、気が変わられでもしたら大変だと言わんばかりにセカセカと品物を包み始めた。一方焦っているのはアリアドネだ。
「エルウィン様。何もここに並んでいる品物全部だなんて……」
「何を言う?欲しいのだろう?これくらいのことなど、気にするな。今迄無給で働いていたのなら尚更だ。俺からの……そ、その今迄頑張って働いてきた褒美だと思え」
女性に自ら目の前で贈り物をしたことなど一度も経験の無いエルウィンは、どうしてもプレゼントだとは言い出せなかったのだ。
「褒美ですか……?それではお言葉に甘えて……頂きます」
「ああ、そうだ。遠慮なく受け取るがいい」
満足気に頷くエルウィンだったが、一方のアリアドネは全く別の解釈に捉えていた。
(やはり……今頑張って働いてきた褒美というのは、ここを出て行って良いと言うことなのね……)
少しはエルウィンとの距離が近付いたと思っていたアリアドネ。このまま城に残っても良いのだろうかという気持ちになっていた矢先だけに、エルウィンからの言葉が胸に刺さった。
「はい、ありがとうございます」
アリアドネは少しだけ寂しげにエルウィンに笑みを浮かべた――。
****
「エルウィン様。こんなに沢山褒美を頂きまして、ありがとうございます」
露店の帰り道、麻袋を肩に担いで歩くエルウィンにアリアドネは礼を述べた。
「何、気にするな。これは当然の褒美なのだからな」
「はい……」
機嫌よく返事をするエルウィンだが、アリアドネはその様子から益々気分が落ち込でいく。
「どうした?何だか元気が無いようだが……嬉しくはないのか?」
「いえ。そんなことはありません。とても嬉しいです。本当に……今迄良くして頂いてありがとうございます」
「うん?そうか?別にそんなことは無いぞ?これくらい当然のことだ。ところでアリアドネ。俺に話があるそうだが……一体どんな話だ?」
エルウィンはてっきり昨夜の話のことだろうと思っていたので緊張の趣で尋ねた。
「はい、何故急ぎでお城に戻るのかを教えて頂けないでしょうか?もしや……城で何か異変があったのでしょうか?」
「え?!何だって?!い、いや!断じてそんなことではないぞ?!」
慌てて首を振るエルウィン。
「そうなのですか?では何故急ぎで出発されたのでしょう?」
「そ、それは……」
じっと見つめてくるアリアドネにエルウィンはたじろいだ。
(何故急ぎで出発したかなんて……アリアドネに言えるはずないだろう?!まさかお前に近づこうとする王太子に嫉妬したからだなんて……!)
「な、何でもない!お前がいちいち気にすることではないから案ずるな」
「そうですか?分かりました……」
(やはり私はもうアイゼンシュタット城とは無関係の者だと思われているのね……)
アリアドネは心の中でため息をつくのだった――。
エルウィンは興奮するあまり、ここが露店街で人々が往来している事も忘れて大声を上げていた。
そしてその様子を通りすがりの人々が興味深気に見つめている。
「あ、あの……エルウィン様。ここは通りですし、人の目もありますので……あまり大きな声を出されては……」
「あ……すまない。つい驚いて大きな声をあげてしまった。よし、とりあえずは……おい!店主!」
エルウィンは鋭い眼光で老女を見た。
「は、はい!何でございましょう?!」
老女は丸まっていた背筋をピンと伸ばし、返事をした。
「とりあえず、ここからここまで並んでいる品物を全部くれ!」
エルウィンは指先で、並べられていた品物をビシッと指をさした。
「はい、ありがとうございます!」
「え?えええっ?!」
満面の笑みを浮かべる老女に対し、驚くアリアドネ。
「すぐに、ご用意致しますね」
老女は、気が変わられでもしたら大変だと言わんばかりにセカセカと品物を包み始めた。一方焦っているのはアリアドネだ。
「エルウィン様。何もここに並んでいる品物全部だなんて……」
「何を言う?欲しいのだろう?これくらいのことなど、気にするな。今迄無給で働いていたのなら尚更だ。俺からの……そ、その今迄頑張って働いてきた褒美だと思え」
女性に自ら目の前で贈り物をしたことなど一度も経験の無いエルウィンは、どうしてもプレゼントだとは言い出せなかったのだ。
「褒美ですか……?それではお言葉に甘えて……頂きます」
「ああ、そうだ。遠慮なく受け取るがいい」
満足気に頷くエルウィンだったが、一方のアリアドネは全く別の解釈に捉えていた。
(やはり……今頑張って働いてきた褒美というのは、ここを出て行って良いと言うことなのね……)
少しはエルウィンとの距離が近付いたと思っていたアリアドネ。このまま城に残っても良いのだろうかという気持ちになっていた矢先だけに、エルウィンからの言葉が胸に刺さった。
「はい、ありがとうございます」
アリアドネは少しだけ寂しげにエルウィンに笑みを浮かべた――。
****
「エルウィン様。こんなに沢山褒美を頂きまして、ありがとうございます」
露店の帰り道、麻袋を肩に担いで歩くエルウィンにアリアドネは礼を述べた。
「何、気にするな。これは当然の褒美なのだからな」
「はい……」
機嫌よく返事をするエルウィンだが、アリアドネはその様子から益々気分が落ち込でいく。
「どうした?何だか元気が無いようだが……嬉しくはないのか?」
「いえ。そんなことはありません。とても嬉しいです。本当に……今迄良くして頂いてありがとうございます」
「うん?そうか?別にそんなことは無いぞ?これくらい当然のことだ。ところでアリアドネ。俺に話があるそうだが……一体どんな話だ?」
エルウィンはてっきり昨夜の話のことだろうと思っていたので緊張の趣で尋ねた。
「はい、何故急ぎでお城に戻るのかを教えて頂けないでしょうか?もしや……城で何か異変があったのでしょうか?」
「え?!何だって?!い、いや!断じてそんなことではないぞ?!」
慌てて首を振るエルウィン。
「そうなのですか?では何故急ぎで出発されたのでしょう?」
「そ、それは……」
じっと見つめてくるアリアドネにエルウィンはたじろいだ。
(何故急ぎで出発したかなんて……アリアドネに言えるはずないだろう?!まさかお前に近づこうとする王太子に嫉妬したからだなんて……!)
「な、何でもない!お前がいちいち気にすることではないから案ずるな」
「そうですか?分かりました……」
(やはり私はもうアイゼンシュタット城とは無関係の者だと思われているのね……)
アリアドネは心の中でため息をつくのだった――。
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