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エルウィンが目覚め、アリアドネを連れ去られて悔しがっていた頃――。
マクシミリアン一行は『ウルス』の宿場村に隣接する『ラザール』という宿場町に到着していた。
「アリアドネ。今夜はここの村で一晩泊まり、明日の朝また出発することにしよう。今から移動すると野営をすることになってしまうからね」
馬車から降りるアリアドネをエスコートしながらマクシミリアンが笑顔で語りかけてきた。
「はい、分かりました……」
アリアドネは暗い気持ちのまま、返事をした。
そこへスティーブを叱責した近衛兵が現れ、マクシミリアンに声を掛けてきた。
「マクシミリアン様、宿の手配をして参りました。身分を隠すようにと言われておりましたので、宿屋の主人には身分を偽っております」
「分かった。それでは案内してくれ」
「はい、こちらです」
「では行こうか?アリアドネ?」
マクシミリアンはアリアドネの右手を握りしめた。
「はい、マクシミリアン様」
アリアドネは寂しげに笑みを浮かべた。
近衛兵が手配した宿屋はこの宿場村で1番大きな宿屋であった。
「こちらになります。この宿屋は全て我々で貸し切りましたので、怪しい人物は排除致しました。ご安心下さい。すぐに食事の用意もするように伝えてます」
「分かった。それでは中へ入ろう。アリアドネ」
「はい」
マクシミリアンはアリアドネの肩を抱くと、宿屋の中へ入っていった――。
****
「いいですか?エルウィン様。何があっても絶対今夜は安静にしていて下さい。いくらエルウィン様と言えど、今は毒のせいで傷口が塞がりにくくなっているのですから」
シュミットがベッドの上にいるエルウィンに言い聞かせている。
「分かったと言っているだろう?同じことを何度も何度もくどくど言うんじゃない!一度言えば理解くらい出来る!」
エルウィンは機嫌の悪さを隠しもせずに、シュミットに言い返した。
「大将、絶対に約束ですからね?!」
スティーブもエルウィンに念を押す。
「しつこいぞ!お前達!それより村人たちが折角食事を用意してくれているのだろう?早く行って来い。俺の分の食事はお前達が終わった後に持ってきてくれればいい」
「分かりましたよ」
「では行ってきます、大将」
シュミットとスティーブが部屋から立ち去ると、エルウィンは痛みを堪えてベッドから起き上がると周囲を探った。
「……よし、誰もいないな……。今のうちに……」
エルウィンはマントを身につけ、剣を携えると足音を立てないように宿屋の裏口へ向かった――。
****
宿屋の裏口には幸い、見張りの騎士はいなかった。
「よし、これなら行けるな……」
馬繋場にいた馬から自分の愛馬を見つけ出したエルウィンは早速馬に跨がろうとした時――。
「!」
不意に人の気配を感じ、エルウィンは身構えた。すると、建物の陰から1人の人物が現れた。その人物はカインだった。
「エルウィン様、どちらへ行かれるおつもりですか?」
「カインか……決まっているだろう?」
「アリアドネ様の後を追うつもりですか?」
「ああ、当然だ……邪魔立てするなら、いくらお前でも容赦しないぞ」
エルウィンはカインを睨みつけた。しかし、カインの口からは意外な言葉が出た。
「いいえ、そのような真似はしません。ですが、追いかけるなら急がれた方が良いですよ」
「何だって……?お前、本気で言ってるのか……?」
「ええ。勿論です。アリアドネ様はエルウィン様にとって大切な方なのですよね?」
「ああ、そうだ」
隠すことも無く、頷くエルウィン。
「なら引き留めるなんて真似は致しません。すぐにアリアドネ様を追って下さい。手遅れになる前に」
「言われなくたって分かっている!」
そしてエルウィンは手綱を握りしめると馬を走らせ、あっという間に遠ざかって行く。
その後姿をカインが見届けていると、背後から声を掛けられた。
「エルウィン様は行かれたのだな?」
建物の影から出て来たのはエデルガルトだった。他にシュミットにスティーブ、そしてマティアスも一緒だ。
「はい、たった今出発されました」
「大将……間に合ってくれよ」
「何事も無ければいいが……」
スティーブとシュミットが交互に呟く。
「ですが……本当にエルウィン様を行かせても宜しかったのでしょうか?」
マティアスが不安げに口を開いた。
「何、いざとなったら覚悟は出来ている。そうだろう?お前達」
エデルガルトの言葉に、いつの間にか集まっていた騎士達は全員大きく頷くのだった。
一方その頃……。
月明かりを頼りに、エルウィンは背中の激痛に耐えながら平原を馬で駆け続けていた。
マクシミリアンからアリアドネを取り戻す為に――。
マクシミリアン一行は『ウルス』の宿場村に隣接する『ラザール』という宿場町に到着していた。
「アリアドネ。今夜はここの村で一晩泊まり、明日の朝また出発することにしよう。今から移動すると野営をすることになってしまうからね」
馬車から降りるアリアドネをエスコートしながらマクシミリアンが笑顔で語りかけてきた。
「はい、分かりました……」
アリアドネは暗い気持ちのまま、返事をした。
そこへスティーブを叱責した近衛兵が現れ、マクシミリアンに声を掛けてきた。
「マクシミリアン様、宿の手配をして参りました。身分を隠すようにと言われておりましたので、宿屋の主人には身分を偽っております」
「分かった。それでは案内してくれ」
「はい、こちらです」
「では行こうか?アリアドネ?」
マクシミリアンはアリアドネの右手を握りしめた。
「はい、マクシミリアン様」
アリアドネは寂しげに笑みを浮かべた。
近衛兵が手配した宿屋はこの宿場村で1番大きな宿屋であった。
「こちらになります。この宿屋は全て我々で貸し切りましたので、怪しい人物は排除致しました。ご安心下さい。すぐに食事の用意もするように伝えてます」
「分かった。それでは中へ入ろう。アリアドネ」
「はい」
マクシミリアンはアリアドネの肩を抱くと、宿屋の中へ入っていった――。
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「いいですか?エルウィン様。何があっても絶対今夜は安静にしていて下さい。いくらエルウィン様と言えど、今は毒のせいで傷口が塞がりにくくなっているのですから」
シュミットがベッドの上にいるエルウィンに言い聞かせている。
「分かったと言っているだろう?同じことを何度も何度もくどくど言うんじゃない!一度言えば理解くらい出来る!」
エルウィンは機嫌の悪さを隠しもせずに、シュミットに言い返した。
「大将、絶対に約束ですからね?!」
スティーブもエルウィンに念を押す。
「しつこいぞ!お前達!それより村人たちが折角食事を用意してくれているのだろう?早く行って来い。俺の分の食事はお前達が終わった後に持ってきてくれればいい」
「分かりましたよ」
「では行ってきます、大将」
シュミットとスティーブが部屋から立ち去ると、エルウィンは痛みを堪えてベッドから起き上がると周囲を探った。
「……よし、誰もいないな……。今のうちに……」
エルウィンはマントを身につけ、剣を携えると足音を立てないように宿屋の裏口へ向かった――。
****
宿屋の裏口には幸い、見張りの騎士はいなかった。
「よし、これなら行けるな……」
馬繋場にいた馬から自分の愛馬を見つけ出したエルウィンは早速馬に跨がろうとした時――。
「!」
不意に人の気配を感じ、エルウィンは身構えた。すると、建物の陰から1人の人物が現れた。その人物はカインだった。
「エルウィン様、どちらへ行かれるおつもりですか?」
「カインか……決まっているだろう?」
「アリアドネ様の後を追うつもりですか?」
「ああ、当然だ……邪魔立てするなら、いくらお前でも容赦しないぞ」
エルウィンはカインを睨みつけた。しかし、カインの口からは意外な言葉が出た。
「いいえ、そのような真似はしません。ですが、追いかけるなら急がれた方が良いですよ」
「何だって……?お前、本気で言ってるのか……?」
「ええ。勿論です。アリアドネ様はエルウィン様にとって大切な方なのですよね?」
「ああ、そうだ」
隠すことも無く、頷くエルウィン。
「なら引き留めるなんて真似は致しません。すぐにアリアドネ様を追って下さい。手遅れになる前に」
「言われなくたって分かっている!」
そしてエルウィンは手綱を握りしめると馬を走らせ、あっという間に遠ざかって行く。
その後姿をカインが見届けていると、背後から声を掛けられた。
「エルウィン様は行かれたのだな?」
建物の影から出て来たのはエデルガルトだった。他にシュミットにスティーブ、そしてマティアスも一緒だ。
「はい、たった今出発されました」
「大将……間に合ってくれよ」
「何事も無ければいいが……」
スティーブとシュミットが交互に呟く。
「ですが……本当にエルウィン様を行かせても宜しかったのでしょうか?」
マティアスが不安げに口を開いた。
「何、いざとなったら覚悟は出来ている。そうだろう?お前達」
エデルガルトの言葉に、いつの間にか集まっていた騎士達は全員大きく頷くのだった。
一方その頃……。
月明かりを頼りに、エルウィンは背中の激痛に耐えながら平原を馬で駆け続けていた。
マクシミリアンからアリアドネを取り戻す為に――。
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