87 / 90
21 リリスとの別れ、そして……
リリスが両親と一緒に帰ることになり、私はクマのぬいぐるみを手にしたアデルと一緒に馬車の前まで見送りに来ていた。
アドニス様は、リリスが怖がるといけないからと見送りには出てきていない。
「本当にリリスがお世話になった。どうか、侯爵によろしく伝えておいて欲しい」
「私からもお願いするわ」
クレイマー伯爵夫妻が御礼の言葉を述べてきた。
「はい、必ず伝えます」
「フローネ……」
リリスが涙目で私を見つめる。
「リリス……」
するとリリスが抱きついてきた。
「フローネ……ま……また会えるよね? 私に会いに……来てくれる?」
「勿論よ、必ず会いに行くわ。お手紙も毎月出すわ」
リリスを抱きしめ、髪を撫でてあげる。
「本当……? 約束よ……?」
涙目で私をじっと見つめるリリスには……もう大人の女性の表情は無かった。
本当に子供のような澄んだ目をしている。
リリスの心は壊れてしまったけれども、もしかすると本人にとっては今が一番幸せなのかもしれない。
壮絶な事件が起こる10歳以前の精神年齢に後退してしまったから……。
「リリス、これあげる。クマさんのぬいぐるみ、好きだったでしょ?」
アデルが手にしていたクマのぬいぐるみをリリスに差し出した。
「え? これ、くれるの?」
リリスが驚いたように目を見開く。
「うん、あげる」
ニコッと笑うアデル。
「ありがとう……大切にするね」
リリスはクマのぬいぐるみを抱きかかえると嬉しそうに笑った。
まさか、リリスがくまのぬいぐるみを好きだったなんて子供の頃は気付かなかった。
何しろ子供の頃のリリスは、ぬいぐるみなど一つも持っていなかったからだ。
クレイマー伯爵夫妻はクマのぬいぐるみを抱えているリリスを涙ぐんだ目で見つめている。
もしかするとリリスはぬいぐるみが欲しくても、買い与えてもらえなかったのかもしれない。
「それじゃ、そろそろ行こう。リリス」
「行きましょう?」
伯爵夫妻が穏やかな声でリリスに声をかける。
「……はい……」
リリスはクマのぬいぐるみを抱きかかえたまま、コクリと頷くと馬車に乗り込むとすぐに馬車は走り始めた。
すると、リリスが窓から顔を出すと泣きながら大きく手を振ってきた。
「フローネーッ! 絶対に会いに来てねー!」
「必ず会いに行くわーっ!」
遠ざかる馬車に手を振り続け……やがて完全に見えなくなるとアデルが声をかけてきた。
「お姉ちゃん。リリス、帰っちゃったね」
「ええ、そうね。アデル、ありがとう。リリスにクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれて」
「うん。だって、リリスのお友達だもの」
ニコリと笑うアデル。
「2人はお友達だものね。それじゃ、お部屋に戻りましょう?」
「うん!」
私はアデルの小さな手を握りしめた――
****
――その日は4日ぶりにアドニス様と一緒に夕食の席についていた。
「……そうか、リリスは無事に『マリ』へ帰って行ったんだね」
アドニス様が笑顔で頷く。
「はい、帰って行きました。アドニス様には色々ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」
「何を言っているんだい? 迷惑なんてかけられたとは少しも思っていないよ。何しろ、リリスはフローネの大切な友達だったんだろう?」
「私ともお友達だよ?」
そこへアデルも話に入ってきた。
「ええ、そうよね。アデルはリリスに自分のクマのぬいぐるみをあげたのだから」
頭をなでてあげると、アデルは嬉しそうに笑う。
「そうだったのか? 偉かったな、アデル」
「うん」
そんなアデルを見つめていたアドニス様が私に視線を移した。
「フローネ。クリフのことだが、もう彼を訴える準備を始めている。バーデン伯爵家も使用人を虐待していた容疑で通報済みだ。きっと彼らは重い罰を受けることになるだろう」
「本当ですか? クリフはリリスを壊してしまいました。とてもではありませんが、許せません。彼には重い罰を受けてもらって、心から反省してもらいたいです」
「俺もそう思うよ」
アドニス様は、私の言葉に静かに頷いてくれた……。
そして数日後――
クリフはリリスへの暴行罪で警察に逮捕され、バーデン家は使用人への虐待罪で領地没収されることが決定したことをアドニス様から教えてもらった。
これほど早く事が進んだのは、やはり侯爵家であるアドニス様の力が大きく働いていたからだろう。
こうしてバーデン家は没落することが、ほぼ確定したのだった――
アドニス様は、リリスが怖がるといけないからと見送りには出てきていない。
「本当にリリスがお世話になった。どうか、侯爵によろしく伝えておいて欲しい」
「私からもお願いするわ」
クレイマー伯爵夫妻が御礼の言葉を述べてきた。
「はい、必ず伝えます」
「フローネ……」
リリスが涙目で私を見つめる。
「リリス……」
するとリリスが抱きついてきた。
「フローネ……ま……また会えるよね? 私に会いに……来てくれる?」
「勿論よ、必ず会いに行くわ。お手紙も毎月出すわ」
リリスを抱きしめ、髪を撫でてあげる。
「本当……? 約束よ……?」
涙目で私をじっと見つめるリリスには……もう大人の女性の表情は無かった。
本当に子供のような澄んだ目をしている。
リリスの心は壊れてしまったけれども、もしかすると本人にとっては今が一番幸せなのかもしれない。
壮絶な事件が起こる10歳以前の精神年齢に後退してしまったから……。
「リリス、これあげる。クマさんのぬいぐるみ、好きだったでしょ?」
アデルが手にしていたクマのぬいぐるみをリリスに差し出した。
「え? これ、くれるの?」
リリスが驚いたように目を見開く。
「うん、あげる」
ニコッと笑うアデル。
「ありがとう……大切にするね」
リリスはクマのぬいぐるみを抱きかかえると嬉しそうに笑った。
まさか、リリスがくまのぬいぐるみを好きだったなんて子供の頃は気付かなかった。
何しろ子供の頃のリリスは、ぬいぐるみなど一つも持っていなかったからだ。
クレイマー伯爵夫妻はクマのぬいぐるみを抱えているリリスを涙ぐんだ目で見つめている。
もしかするとリリスはぬいぐるみが欲しくても、買い与えてもらえなかったのかもしれない。
「それじゃ、そろそろ行こう。リリス」
「行きましょう?」
伯爵夫妻が穏やかな声でリリスに声をかける。
「……はい……」
リリスはクマのぬいぐるみを抱きかかえたまま、コクリと頷くと馬車に乗り込むとすぐに馬車は走り始めた。
すると、リリスが窓から顔を出すと泣きながら大きく手を振ってきた。
「フローネーッ! 絶対に会いに来てねー!」
「必ず会いに行くわーっ!」
遠ざかる馬車に手を振り続け……やがて完全に見えなくなるとアデルが声をかけてきた。
「お姉ちゃん。リリス、帰っちゃったね」
「ええ、そうね。アデル、ありがとう。リリスにクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれて」
「うん。だって、リリスのお友達だもの」
ニコリと笑うアデル。
「2人はお友達だものね。それじゃ、お部屋に戻りましょう?」
「うん!」
私はアデルの小さな手を握りしめた――
****
――その日は4日ぶりにアドニス様と一緒に夕食の席についていた。
「……そうか、リリスは無事に『マリ』へ帰って行ったんだね」
アドニス様が笑顔で頷く。
「はい、帰って行きました。アドニス様には色々ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」
「何を言っているんだい? 迷惑なんてかけられたとは少しも思っていないよ。何しろ、リリスはフローネの大切な友達だったんだろう?」
「私ともお友達だよ?」
そこへアデルも話に入ってきた。
「ええ、そうよね。アデルはリリスに自分のクマのぬいぐるみをあげたのだから」
頭をなでてあげると、アデルは嬉しそうに笑う。
「そうだったのか? 偉かったな、アデル」
「うん」
そんなアデルを見つめていたアドニス様が私に視線を移した。
「フローネ。クリフのことだが、もう彼を訴える準備を始めている。バーデン伯爵家も使用人を虐待していた容疑で通報済みだ。きっと彼らは重い罰を受けることになるだろう」
「本当ですか? クリフはリリスを壊してしまいました。とてもではありませんが、許せません。彼には重い罰を受けてもらって、心から反省してもらいたいです」
「俺もそう思うよ」
アドニス様は、私の言葉に静かに頷いてくれた……。
そして数日後――
クリフはリリスへの暴行罪で警察に逮捕され、バーデン家は使用人への虐待罪で領地没収されることが決定したことをアドニス様から教えてもらった。
これほど早く事が進んだのは、やはり侯爵家であるアドニス様の力が大きく働いていたからだろう。
こうしてバーデン家は没落することが、ほぼ確定したのだった――
あなたにおすすめの小説
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【感謝】
第19回恋愛小説大賞にて奨励賞を受賞しました。
ありがとうございます。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。