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第8話 潜入捜査とメイド達の噂話
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翌日――
僕と、トニーは再び馬車に乗ってシェリルの屋敷へ向かった。
ガラガラと音を立てて走る馬車の中で、向い合せに座るトニーに尋ねた。
「トニー。本当にこんな変装で僕が誰かバレたりしないか?」
今の僕の姿は伊達メガネに黒いウィッグを付けた姿をしている。
更に服装はいつもの上品ぶったスーツではなく、白いシャツに茶色の麻のジャケットに同じく麻の茶色のボトムス姿だ。
これはいわゆる、平民の御用聞きのような服装である。
「ええ、よくお似合いですよ。ローレンス様」
僕と同じ格好をしたトニーは至って大真面目に頷く。
ただ僕との違いは彼は変装をしていない、という点である。
「それにしても何故僕だけ変装をしなくてはならない?トニーだって顔が割れているんじゃないのか?」
すると、トニーはチッチッと人差し指を立てて、左右に振った。
「何を仰ってるのですか?シェリル様のお屋敷で働いている方々はローレンス様の顔を覚えているからこそ、私をセットにしているだけですよ?私個人の顔なんて覚えているはずありませんから」
やけに自身有りげにトニーは語る。
「う~ん…そんなものなのか……?」
でもまぁいい。
今更どうこう言っても始まらないだろう。何しろ、もう屋敷は目の前に迫っているのだから――。
****
辻馬車は正門ではなく、裏門に止まると僕達を降ろして走り去って行った。
「トニー」
「はい。なんでしょう?」
「何故、こんな裏門で馬車を降りるんだ?」
すると、トニーが呆れた様子で僕を見た。
「……それ、本気で仰っているのですか?」
「ああ。至って本気だ」
「ならば何故かお分かりになるでしょう?普通、使用人や御用聞きと言う者は裏口から入るものなのですよ」
「なるほど、確かにそうかもしれないな。では早速門の中へ入ろう!」
「はい!調査開始ですねっ!」
そして僕達は意気揚々と裏門から潜入した――。
****
裏門から敷地内に入ると芝生が広がり、洗濯済みのシーツが沢山干されて風になびいていた。
そして風に乗ってメイド達の楽しげな会話が聞こえてきた。
「何か話し声が聞こえていますね。もっと近付いて話を聞いてみましょう」
トニーが植え込みの陰にサッと身を縮めると声を掛けてきた。
「おい、まさか盗み聞きするつもりか?」
「人聞きの悪い言い方をしないで下さい。これはあくまで調査です。情報を集めるための常套手段なのですよ。シェリル様のことを知りたいのではないのですか?」
「そ、そうだな…これは常套手段だからな……」
しかし、ここでメイド達の話を盗み聞きしたところでシェリルの話題になるのだろうか?
密かな疑問を抱きつつ、トニーにならって植え込みの陰に隠れるとメイド達の会話に耳をそばだてた――。
すると……。
「ねぇ、知ってる?昨日シェリル様はローレンス様との顔合わせに行かなかったのよ」
早速メイド達が僕とシェリルの噂話を始めた。
「仕方ないわよ。だって具合が悪かったのだから」
え?誰が具合が悪かったって?
「そうよね……。でもお嬢様、お気の毒だわ……」
「ええ、本当。もう長くは持たないそうだから…」
「あんなに元気そうなのにね……可哀想だわ……」
メイド達のしんみりした声が聞こえてくる。
何だって……?
シェリルがもう長くは持たないだって……?!
僕とトニーが顔を見合わせたのは言うまでも無かった――。
僕と、トニーは再び馬車に乗ってシェリルの屋敷へ向かった。
ガラガラと音を立てて走る馬車の中で、向い合せに座るトニーに尋ねた。
「トニー。本当にこんな変装で僕が誰かバレたりしないか?」
今の僕の姿は伊達メガネに黒いウィッグを付けた姿をしている。
更に服装はいつもの上品ぶったスーツではなく、白いシャツに茶色の麻のジャケットに同じく麻の茶色のボトムス姿だ。
これはいわゆる、平民の御用聞きのような服装である。
「ええ、よくお似合いですよ。ローレンス様」
僕と同じ格好をしたトニーは至って大真面目に頷く。
ただ僕との違いは彼は変装をしていない、という点である。
「それにしても何故僕だけ変装をしなくてはならない?トニーだって顔が割れているんじゃないのか?」
すると、トニーはチッチッと人差し指を立てて、左右に振った。
「何を仰ってるのですか?シェリル様のお屋敷で働いている方々はローレンス様の顔を覚えているからこそ、私をセットにしているだけですよ?私個人の顔なんて覚えているはずありませんから」
やけに自身有りげにトニーは語る。
「う~ん…そんなものなのか……?」
でもまぁいい。
今更どうこう言っても始まらないだろう。何しろ、もう屋敷は目の前に迫っているのだから――。
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辻馬車は正門ではなく、裏門に止まると僕達を降ろして走り去って行った。
「トニー」
「はい。なんでしょう?」
「何故、こんな裏門で馬車を降りるんだ?」
すると、トニーが呆れた様子で僕を見た。
「……それ、本気で仰っているのですか?」
「ああ。至って本気だ」
「ならば何故かお分かりになるでしょう?普通、使用人や御用聞きと言う者は裏口から入るものなのですよ」
「なるほど、確かにそうかもしれないな。では早速門の中へ入ろう!」
「はい!調査開始ですねっ!」
そして僕達は意気揚々と裏門から潜入した――。
****
裏門から敷地内に入ると芝生が広がり、洗濯済みのシーツが沢山干されて風になびいていた。
そして風に乗ってメイド達の楽しげな会話が聞こえてきた。
「何か話し声が聞こえていますね。もっと近付いて話を聞いてみましょう」
トニーが植え込みの陰にサッと身を縮めると声を掛けてきた。
「おい、まさか盗み聞きするつもりか?」
「人聞きの悪い言い方をしないで下さい。これはあくまで調査です。情報を集めるための常套手段なのですよ。シェリル様のことを知りたいのではないのですか?」
「そ、そうだな…これは常套手段だからな……」
しかし、ここでメイド達の話を盗み聞きしたところでシェリルの話題になるのだろうか?
密かな疑問を抱きつつ、トニーにならって植え込みの陰に隠れるとメイド達の会話に耳をそばだてた――。
すると……。
「ねぇ、知ってる?昨日シェリル様はローレンス様との顔合わせに行かなかったのよ」
早速メイド達が僕とシェリルの噂話を始めた。
「仕方ないわよ。だって具合が悪かったのだから」
え?誰が具合が悪かったって?
「そうよね……。でもお嬢様、お気の毒だわ……」
「ええ、本当。もう長くは持たないそうだから…」
「あんなに元気そうなのにね……可哀想だわ……」
メイド達のしんみりした声が聞こえてくる。
何だって……?
シェリルがもう長くは持たないだって……?!
僕とトニーが顔を見合わせたのは言うまでも無かった――。
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