奴隷女と冷徹貴族が、夫婦になるまでの物語

blueblack

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2章

2-7

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 日が落ちて、夕食と湯浴みも終わり、夜遅く。
 ケアラとノアは二人で向かい合っていた。

「初期学力調査ね」

 ノアも見知った数枚の紙がテーブルに並ぶ。
 ほう、と思わず息が漏れた。

「いびつな成績だな」

 初等教育に関しては、ほとんど満点に近かった。
 だが一方、貴族に求められるレベルの、言うなれば中等、上等教育の内容はまっさらの零点。

「あと、もう一個はこっちね」
「……なんだそれは?」
「簡単にいうと常識力チェックかな。平均的な物価はどれぐらいでしょうか? 王都の地図は頭に入っていますか? 求人はどう探したらいいでしょうか? 通るだけで誘拐されかねない、特に危険な道は知っていますか?」
「私の知らないところでそんなものを作ってくれていたのか。それで、結果は?」
「零点」

 本当はもっと長い問題群だったのだが、カオルが泣きそうになったので切り上げた。

「あと、ペンもほとんど握ったことがなかったみたいよ。ペンだこ無かったし、字もよれよれしてた」
「その割には、基礎は固いな」
「そこなんだよねー、不思議なところは。孤児院にはないパターンだね。まあ、想像はつくけどさ」

 ああ、想像はつく。全く最低なことだが。
 肘をテーブルに乗せて、ノアは合わせた手の甲に額を乗せる。ふぅー、と長い息が自然に漏れ出た。腹の底に、怒りとも哀れみともつかない不快な塊が溜まっていた。

「生まれて最初は、貴族として育てられた。だが成長過程でなんらかの問題が発生し、徹底的に冷遇されて、今に至る。……そんなところか」
「たぶんね。それも、並大抵の虐げられかたじゃないと思う。あたしの口からは言えないけど、きっとその……あの……」
「わかっている」

 ケアラから、最初に報告を受けていた。指のサイズを調べるように、というのと、もう一つ。
 ノアが気になっていたこと。

「カオルの身体は、どうだった」
「あの家の特徴なのか、カオルちゃん個人の特徴なのかはわからないけど、その、感度が、……すごい高い」
「…………気に留めておいたほうが良いな」

 感度が高いだけなら問題はないが、カオルの場合はそれがマイナスの記憶に結びついているのかもしれない。
 励ますつもりが逆効果、なんて目も当てられない。

「ありがとう」
「うん、じゃああたしは寝るよ」
「…………寝られるのか?」
「なに? 文句ある?」

 昼過ぎまで寝ていたくせに、早くもケアラは目をしばたかせていた。

    ◇

 夢だと、すぐにわかった。
 カオルは両手と両足に鉄の枷を嵌められて固定されていた。大の字とも、星形ともとれる格好。当然、衣服の類はない。
 カオルを囲むように、顔を隠して手袋を嵌めた使用人たちが立っている。
 叫びたいのに、声は出なかった。
 何本もの手が体の上を踊り、がちゃがちゃと枷が鳴る。

「ひっ、い……っ、ああ……っ、んん……っ!」

(夢、これは夢……っ! なのに)
 起きることも、逃げることもできない。女の手による的確な愛撫で、感度だけが上がっていく。
 探るようだったいくつもの手が、段々と上がってくる。
 膨らんだ胸を握られ、首筋や脇、耳を擦られる。内腿を撫でられたときに、くちゅ、と音がして、ぎゅっと目を瞑った。

「逃げられないわよ」

 冷たい声をかけられて、閉じたばかりの目を見開く。
 青い目に、白い髪。

「御当主、様……っあん!」

 カオルが固定されている台座に乗り上げたヘレナが、そのしなやかな指を秘部に当てる。
 中まで突き入れられて、腰が浮き上がった。

「あ、ああ……っ。いやっ、私はもう、家を、出ました……」
「それが、なに?」
「っ~~~っ! ん、ううっ……!」

 もう片方の手で乳首を摘まれて、体内で燻っていた熱が爆発する。ノアが与えてくれた暖かさが、最悪の形で発散される。

「んうっ、……あ、んっ、あんっ……!」
「どこまで逃げても、知識をつけても、しょせんは展示品。不妊症の疫病神。貴方みたいな汚れきった欠陥品をあてがわれた旦那様に、申し訳ないと思わないの?」
「………………っう、ぅう」

 跳ねつけたかった。ヘレナ様とノア様は違う、そう言いたかった。
 だけど、わからない。不妊症だと明かした途端に、ノアもまた冷たくなってしまうかもしれない。

「んっ……はああ……っ! い、あ、んううっ」

 ヘレナの指が膣の奥を手前側に押し込み、暴力的な快楽に埋め尽くされる。胸責めも、使用人たちの全身愛撫も止まらない。

「果てなさい。とびきり下品に」

 白い身体を桃色に染めて、カオルは背を反らした。
(抗えない……っ。いや、いやなのに……っ! 我慢、できな――っ!)

「……っあ、あん……っ! あんっ! イく、イきます! ……っく、イくぅぅうあああっ!」


「あああああっ!」

 それで、目が覚めた。
 浅く息を吐いて、かたかたと身体を震わせる。額に溜まっていた汗がぽたぽたと落ちた。
 はだけた掛け布団の中から漂う、甘酸っぱいにおいに、気分が地の底まで落ちていく。

「…………最低だ、私」

 上等なベッドで淫らな夢を見て、シーツに染みを作るほどみっともなく果ててしまった。

「…………こんな、身体……っ」

 自分の首に手をかける。
 子供も産めない。
 そのくせ無駄に感度だけは高い。
 ほんの数日、展示と称した調教が無くなっただけでこの有様。
 迂闊に触れ合うこともできやしない。

「……っぐ、んうっ……ぐうぅ……っ!」

 息が苦しい。頭がぼうっと熱くなって、なぜだろう、口の中がほのかに甘くなる。
 でも、それだけだった。
 非力なカオルでは、自分の気道を完全に塞ぎ切ることはできなかった。
 自殺もできない。

「……欠陥品」

 跳ねつけ、たかったけど。
 ああその通りだなあ、と思ってしまう自分がいた。
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