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不思議な交流
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ヘルディとの不可解な交流は、毎日続いた。
昼間は容赦なく寸止め責めを与え続け、夢の中ではすべてを忘れたかのようにへらへらと話しかけてくる。
意味が分からず、手ひどく拒絶しても延々と纏わりついてくるものだから、面倒臭くなってアリアもぽつぽつと言葉を返すようになった。
それがまとまった会話になるころには、おおよそ半月が過ぎていた。
◇
「……おかしい」
能力行使に関するヘルディの申請書を流し見て、ナスチャ=レインロードは違和感に眉をひそめた。
―――妙に、申請が多い。
インキュバスの体質と人間の感性を持って生まれたヘルディは、能力をみだりに使うことを忌避する。淫気の吸収も生きる上での最低限に絞っている印象だった。
それが、この量。
ハイエルフに対する申請が毎日、それはいい。
だが、並行するように他の女への申請も通している訳がわからない。
アリアから淫気を吸い取れているなら、それ以上を求める理由はないはずだ。
「しかも……、これは、恣意的なのかしら」
申請された女が、魔法工学や技師に集中しているのはなんだ。
―――ちょっと、調べてみようかしらね。
机に広がる申請書を眺めて、ナスチャは髪を掻き上げる。艶やかな栗色がウェーブをつくって横に流れる。
……別に、最近わたしの夢に現れない腹いせとかじゃないけど、と一人で言い訳をして、立ち上がった。
◇
夢の中で目を覚ます、というのもおかしな話だが、そうとしか言いようがないのだから仕方がない。
とにかく、アリアが夢の世界で目を開けると、ヘルディが湖に浮かんでいた。
「……何をやっているんですか、あなたは」
「遊泳」
「水死体ごっこにしか見えませんが」
いっそのこと死んでくれればいいのに、という独り言を拾って、ヘルディはへらへらと笑う。
「ここではなにしても死なないよ。試しに何回か首も刎ねさせたでしょう?」
「すぐに復活しますし、そのくせ血飛沫は出ますし、良いことなかったですね」
「そこそこ痛いんだけどね。……思い出したら鳥肌立ってきた、おーこわい」
湖から上がって、さくさくとヘルディが近寄る。
軽くはたくだけで服が渇くのだから、まったく夢の世界は便利だ。
「近づかれても逃げなくなったね」
「……追ってこないならどこまでも逃げますが」
「辛辣だねぇ。もう内心、そこまで嫌でもないくせに」
はるか遠く、腐敗の収まった地平線を指さして、ヘルディは芝に寝転がった。
◇
―――いやあ、気分がいい。
勤務終わりに浴びるように酒を飲む同僚の気持ちが、今なら少しだけわかりそうだ。
わずかな淀みもない空気、暖かく包むような太陽の光、穏やかな風に揺れる芝がさわさわと頬に当たり、少しくすぐったい。だがそれも良い。
「君が病まなくて良かった良かった」
「あなたがそれを言いますか……」
口で何を言ったって、精神世界に嘘はつけない。
ぐーっ、と伸びをすると同時に腹が鳴って、そういえば夕食を食べていなかったなとヘルディは思い出す。
適当に林檎を出して齧っていると、隣からなんか目線を感じた。
「……なに?」
「そういうのできるんですね」
「どうせ幻覚の類だけど。気休めにはなるし」
「そうですか」
「欲しいの?」
「別にそんなこと一言も言っていませんが」
言っていないけど顔に出てるから聞いてるんだよ。
とは言わずに、ヘルディは寝転がったままアリアを見上げた。
「君さあ、けっこう抜けてるって言われたことない?」
「ないですよ。これでも里長に次ぐ権力者でハイエルフですから」
「立場差で黙らせてたんだ。お弟子さん大変だったろうな。はい新しい林檎」
「失礼な。あと要りません」
「面倒臭いなあ、はいあーん」
「あぐ……っ!」
見えない腕を伸ばす感覚で、アリアの口を開かせる。
小さく切った林檎を詰め込んで、強制的に顎を閉じさせてやると、もう諦めたのかもごもごと小さな口が動いた。
「んぐ、けほっ。…………強引、な」
もごもごと口を動かして、アリアは首を傾げた。
「……あまい」
「ああ。どうせ君らが普段食べてるのって、自生してるやつだろう?」
肥料も管理もなく、ただその辺に生っている林檎に比べれば、そうなるだろう。
くすくすと笑ってやる。
「自然由来と言えば聞こえはいいけど、要するに勘と運に頼ってるだけでしょ? 食糧事情とか厳しかったんじゃない?」
「同胞を愚弄するのは、しゃく、許しませんよ」
「食べながら言うの?」
「……私の夢で何をしようが私の勝手です」
「まあ、それもそっか」
気が向けば水を向ける。
何もなければ、いつまでだって黙っている。
二人きり緩やかな夢は、太陽が沈むまで続くようになっていた。
◇
「……はぁ、はぁぁ……っ、あっ、……はぁあっ!」
そして目を覚まし、アリアはとっくに限界を超えた本当の体を知覚させられる。
二週間を超える寸止めは、華奢な体躯のすべてを淫らに作り変えていた。
小ぶりな胸は張り詰めてもはやお椀というより円錐のような形になっており、中央で桜色に色づく蕾は、刺激を求めるように固く膨らんでいる。
ひっきりなしに垂れる汗は臍に溜まり、さらに毛叢まで達し、愛液と混じって重力で垂れ落ちる。愛液の線は切れることなく秘部と床を繋いでいて、内腿までぬるぬると濡らしていた。
そして、数分ごとに震える、陰核に着けられた小さな触手。
数秒だけの刺激がまた肉芽を貫いてアリアは翡翠色の髪を振り乱して叫んだ。
「ああああっ! イく、イっ………ぃ、ぁああ!」
「イきたいとは、意地でも言わないんだね」
こつん、と足音。
さっきまで間抜け面で寝転がっていたヘルディが、嗜虐者の顔をして、今日も石牢にやってくる。
昼間は容赦なく寸止め責めを与え続け、夢の中ではすべてを忘れたかのようにへらへらと話しかけてくる。
意味が分からず、手ひどく拒絶しても延々と纏わりついてくるものだから、面倒臭くなってアリアもぽつぽつと言葉を返すようになった。
それがまとまった会話になるころには、おおよそ半月が過ぎていた。
◇
「……おかしい」
能力行使に関するヘルディの申請書を流し見て、ナスチャ=レインロードは違和感に眉をひそめた。
―――妙に、申請が多い。
インキュバスの体質と人間の感性を持って生まれたヘルディは、能力をみだりに使うことを忌避する。淫気の吸収も生きる上での最低限に絞っている印象だった。
それが、この量。
ハイエルフに対する申請が毎日、それはいい。
だが、並行するように他の女への申請も通している訳がわからない。
アリアから淫気を吸い取れているなら、それ以上を求める理由はないはずだ。
「しかも……、これは、恣意的なのかしら」
申請された女が、魔法工学や技師に集中しているのはなんだ。
―――ちょっと、調べてみようかしらね。
机に広がる申請書を眺めて、ナスチャは髪を掻き上げる。艶やかな栗色がウェーブをつくって横に流れる。
……別に、最近わたしの夢に現れない腹いせとかじゃないけど、と一人で言い訳をして、立ち上がった。
◇
夢の中で目を覚ます、というのもおかしな話だが、そうとしか言いようがないのだから仕方がない。
とにかく、アリアが夢の世界で目を開けると、ヘルディが湖に浮かんでいた。
「……何をやっているんですか、あなたは」
「遊泳」
「水死体ごっこにしか見えませんが」
いっそのこと死んでくれればいいのに、という独り言を拾って、ヘルディはへらへらと笑う。
「ここではなにしても死なないよ。試しに何回か首も刎ねさせたでしょう?」
「すぐに復活しますし、そのくせ血飛沫は出ますし、良いことなかったですね」
「そこそこ痛いんだけどね。……思い出したら鳥肌立ってきた、おーこわい」
湖から上がって、さくさくとヘルディが近寄る。
軽くはたくだけで服が渇くのだから、まったく夢の世界は便利だ。
「近づかれても逃げなくなったね」
「……追ってこないならどこまでも逃げますが」
「辛辣だねぇ。もう内心、そこまで嫌でもないくせに」
はるか遠く、腐敗の収まった地平線を指さして、ヘルディは芝に寝転がった。
◇
―――いやあ、気分がいい。
勤務終わりに浴びるように酒を飲む同僚の気持ちが、今なら少しだけわかりそうだ。
わずかな淀みもない空気、暖かく包むような太陽の光、穏やかな風に揺れる芝がさわさわと頬に当たり、少しくすぐったい。だがそれも良い。
「君が病まなくて良かった良かった」
「あなたがそれを言いますか……」
口で何を言ったって、精神世界に嘘はつけない。
ぐーっ、と伸びをすると同時に腹が鳴って、そういえば夕食を食べていなかったなとヘルディは思い出す。
適当に林檎を出して齧っていると、隣からなんか目線を感じた。
「……なに?」
「そういうのできるんですね」
「どうせ幻覚の類だけど。気休めにはなるし」
「そうですか」
「欲しいの?」
「別にそんなこと一言も言っていませんが」
言っていないけど顔に出てるから聞いてるんだよ。
とは言わずに、ヘルディは寝転がったままアリアを見上げた。
「君さあ、けっこう抜けてるって言われたことない?」
「ないですよ。これでも里長に次ぐ権力者でハイエルフですから」
「立場差で黙らせてたんだ。お弟子さん大変だったろうな。はい新しい林檎」
「失礼な。あと要りません」
「面倒臭いなあ、はいあーん」
「あぐ……っ!」
見えない腕を伸ばす感覚で、アリアの口を開かせる。
小さく切った林檎を詰め込んで、強制的に顎を閉じさせてやると、もう諦めたのかもごもごと小さな口が動いた。
「んぐ、けほっ。…………強引、な」
もごもごと口を動かして、アリアは首を傾げた。
「……あまい」
「ああ。どうせ君らが普段食べてるのって、自生してるやつだろう?」
肥料も管理もなく、ただその辺に生っている林檎に比べれば、そうなるだろう。
くすくすと笑ってやる。
「自然由来と言えば聞こえはいいけど、要するに勘と運に頼ってるだけでしょ? 食糧事情とか厳しかったんじゃない?」
「同胞を愚弄するのは、しゃく、許しませんよ」
「食べながら言うの?」
「……私の夢で何をしようが私の勝手です」
「まあ、それもそっか」
気が向けば水を向ける。
何もなければ、いつまでだって黙っている。
二人きり緩やかな夢は、太陽が沈むまで続くようになっていた。
◇
「……はぁ、はぁぁ……っ、あっ、……はぁあっ!」
そして目を覚まし、アリアはとっくに限界を超えた本当の体を知覚させられる。
二週間を超える寸止めは、華奢な体躯のすべてを淫らに作り変えていた。
小ぶりな胸は張り詰めてもはやお椀というより円錐のような形になっており、中央で桜色に色づく蕾は、刺激を求めるように固く膨らんでいる。
ひっきりなしに垂れる汗は臍に溜まり、さらに毛叢まで達し、愛液と混じって重力で垂れ落ちる。愛液の線は切れることなく秘部と床を繋いでいて、内腿までぬるぬると濡らしていた。
そして、数分ごとに震える、陰核に着けられた小さな触手。
数秒だけの刺激がまた肉芽を貫いてアリアは翡翠色の髪を振り乱して叫んだ。
「ああああっ! イく、イっ………ぃ、ぁああ!」
「イきたいとは、意地でも言わないんだね」
こつん、と足音。
さっきまで間抜け面で寝転がっていたヘルディが、嗜虐者の顔をして、今日も石牢にやってくる。
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