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何かが
オスカーとシャルロッテが2回続けて踊った後、父ジョナスと交代して1曲踊った。
その頃にはもうリベット第二王女の姿は会場から消えていて、壇上の王族の席には王太子アレックスと国王夫妻だけになっていた。
それから少し休憩を挟んで長兄ランツと1曲、そして次兄イグナートと1曲。
合計で5曲も踊れば、シャルロッテの足は生まれたての子ギーゼア(こちらの鹿に似た動物)よろしくガクガク状態となっていた。
まさしく疲労困憊の状態、しかしシャルロッテに断るという選択肢はなかった。というか、断りたくなかった。
デビュタントという事ももちろんあるが、シャルロッテはもうすぐオスカーと離縁して国を離れる予定だ。
そうなったら、もう二度とこんな風に夜会で家族と踊る機会はない。
家族もきっとそう思っているから、申し訳なさそうな顔をしつつも、ダンスの申し込みを取り消すことはしない。
「綺麗だねぇ、シャル」
ジョナスは、目を潤ませながらステップを踏んだ。
「思った以上にオスカー殿がお前を大切にしてくれて驚いたよ。よかったな」
ランツは、ブルーグリーンのドレスと白銀のお飾りに視線を走らせ、そう言った。
そしてイグナートは・・・
「シャルに会わせたい人がいるんだ。うちに来るのは難しいだろうから、そっちの屋敷に連れて行くよ」
薬を全部飲み終えたこと、爪の色が戻り始めたことを伝えると、イグナートはそうかと安心したように笑って、次回の訪問の約束をした。
会わせたい人とは誰だろう、なんて思いながら、シャルロッテは最後の力を振り絞って、ラストのターンを決めた。
シャルロッテが家族とのダンスを終えるまで、令嬢たちのダンスの誘いをひたすら拒否しながら待っていたオスカーは、妻が少し足元をふらつかせたのを見て、すかさず横抱きにかかえ上げた。
「ひゃっ!? オ、オスカーさま?」
「もう歩くのも辛いだろう」
周囲の目が一気に集まるのも気にせず、あちこちで悲鳴が上がるのも意に介さず。
オスカーはシャルロッテを抱えたまま、最後まで会場中の注目を集めた状態で会場を後にした。
ケイヒル伯爵家も時を同じくして退出。下手に残って、人に囲まれても敵わない。
「・・・オスカー殿は女性嫌いではなかったっけ」
馬車に乗り込んだ後、ジョナスが隣に座る妻にぽつりと尋ねた。
「確か、そう聞いてましたけどねぇ。ずいぶんと仲がよさそうに見えましたねぇ」
頬に手を当て、おっとりと答えるラステルの横で、ランツもまた首を捻る。
「シャルの思い出作りにってオスカー殿に協力を仰いだけど、あれって何か育ちつつある? ような・・・?」
「確実に育ってるだろ・・・全く、もう障害は取っ払えたも同然だってのに、まだシャルは死んだふりをするつもりか」
「告白って勇気がいるからね。シャルが怖がるのも分からなくはないんだけど・・・難しいよね」
頭をがしがしかきながら呆れ声で話すイグナートに、ランツがなだめるように言った。
―――ちなみにその夜会から1週間後。
リベット第二王女の婚約が発表された。
なんでもお忍びで夜会に出席していた隣国の公爵令息が、オスカーとシャルロッテに絡むリベットを見て、躾がいがあると大層気に入ったらしい。
すぐにでも国に連れ帰りたいと言うほどの執心ぶりで、彼の帰国に合わせて同行する事が決まった。
当初、国王夫妻はこの縁談に難色を示したが、隣国の公爵令息はあちらの国で王太子の側近として、主に外交を担当しており、リベットとの婚姻が叶うなら、と貿易上の優遇措置を提案した。
それでも国王夫妻は渋ったが、その後2人が揃って体調を崩し、慌ただしく王太子に譲位の手続きがなされた。
前国王夫妻は、離宮での静養が決定。
病気故に、前国王夫妻が隣国のリベット王女の結婚式への参列する事も叶わず、祝福の声明を出して終わったのだった。
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