【完結】君は私を許してはいけない ーーー 永遠の贖罪

冬馬亮

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荒ぶる者

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ドガンッ

ものが打ち付けられたような大きな音が、室内に響き渡る。

囁かな呻き声をかき消すかのように、再び何かをぶつけるような音が響く。

「も・・・おやめ、く・・・だ、さい・・・シャイ・・・ク、さま・・・っ」
「聞こえねぇなぁ」

微かな嘆願が聞こえたか聞こえないか、そんな僅かな時間の後に大きな音が鳴る。

床にうずくまる男を前に、息を切らし、肩を大きく怒らせながら怒り狂う姿に、テーブルの隅で様子を見ていたもう一人の男が呆れたような声を上げる。

「シャイラック、そんなに痛めつけちまうと、また何も聞けなくなるぞ? そのせいでこれまで会った奴らからは話を聞きそびれたってのに」
「煩ぇ、雇われの分際で俺に指図するな」

後ろの男を振り返る事なく、シャイラックは苛立たしげに言葉を返した。

「・・・余計に時間がかかるだけだぞ?」
「・・・」
「身体にも負担がかかる」
「・・・分かったよ」

男を踏みつけていた足をどけ、一歩、後ろに下がる。

「もう一度聞く」

半端な箇所で不自然に途切れたシャイラックの腕の先には、ぐるぐると包帯が巻かれており、興奮したせいか、所々、血が滲んでいる。

「親父とおふくろを何故、殺した?」
「ヒッ・・・! で、ですから、私たちではありませ・・・ぐぁっ!」

否認を口にしかけた元使用人の腹を、シャイラックが容赦なく蹴りつける。

「嘘、吐くなよ。まあ、奴隷たちを解放しちまったのは確かにあの男だろうがよ? 親父たちを殺したのはお前らだろ? あ?」
「い、いえ、そんな・・・事は」

またしても言葉を言い終える前に、シャイラックの足が男に向かって蹴りつけられる。

「うっ・・・ぐ・・・」
「あの男、青い髪のヤツな。俺の両腕を切り落としやがったけどよ。たんまり持ってた懐の金には一切、手をつけなかったんだよ」
「う・・・お、お助けを・・・」
「なのによぉ、何でだろうなぁ? 親父たちの金は、きれいさっぱり取られちまってんだぜ?」

歪んだ笑みを浮かべ、元使用人に、ずいっと顔を近づける。

「店の奥にある筈の売上金も、番号式の金庫の中身もぜーんぶ空っぽ。おまけに使用人たちもみーんな居なくなっちまっててさ」
「あ、あ,わ、私は、何も、知りません。知りま・・・」

シャイラックは、今度はゆっくりと足を上げた。
思わず口をつぐんだ男の顔に向かって、それをゆっくりと近づけていく。

「ひっ・・・っ!」

そして静かにその顔に靴底を当てた。
それから、ゆっくりと、ゆっくりと、力を込めていく。

「確かに、親父たちの身体にも剣の刺し傷はあったよ? ・・・肩に一つだけな」
「うっ・・・あ、わ、私ではありませんっ・・・」
「へぇ・・・じゃあ、だれ?」

男の顔に靴底が少しずつめり込んでいく。

「うぁっ、やめっ・・・やめてっ・・・話すっ! ・・・ぜんぶ話しますからっ!」

足に込められていた力が、ふっと抜ける。

「最初から素直に吐きゃいいんだよ」

ギラついた眼でそう言い放つと、後ろにあった椅子にどかっと腰を下ろした。

「・・・で?」
「は、はい。・・・青の髪の男は、奴隷たちを解放してからエイダだけを連れて立ち去りましたが・・あの、その後、手当を求めた旦那さまたちにバルとニクラスが襲いかかったんです。今なら売上金を奪える、と言って・・・」
「・・・」
「そ、そしたら、他の使用人たちも、金を寄越せと言い出して・・・お、奥さまたちを殴り始めて・・・」
「・・・ふうん」
「わ、私と・・・あとチルトは、怖くて動けず・・・」

頭を床に擦り付けるようにして、震える声でそう話す男を、シャイラックは冷ややかな眼で見下ろした。

「お前は手は出さなかった・・・ね。でも金は貰ったんだろ? 口止め料として」

男の体がビクッと震える。

それを見たシャイラックは口元を綻ばせた。

「まあ、頷くしかないよな。そこで断ったら、お前も殺されちまうもんな。うん、仕方ない、仕方ない。そうするしかないよな」

その言葉にほっと安堵の息を吐き、男は顔を上げた・・・が、自分の目に映り込んだ狂気の男の表情に、一瞬で青ざめる。
狂気と凶悪に彩られたその男は、笑いながら言葉を継いだ。

「・・・でも結果は変わんなかったな」

頭上に振り上げられた足。
それが元使用人が最後に見た景色だった。

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