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異変
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バザーは順調だった。
子どもたち手作りの木工品販売の売れ行きも上々。
屋台も盛況で評判も良く。
たくさんの人が来て賑わって。
子どもも大人も、みんな笑顔で。
そう、順調だった。
……午後の休憩時間に入る少し前までは。
最初に変調に気付いたのは護衛のライナス。
会場内に、挙動の怪しい人物が複数いる、と。
そう僕にさりげなく耳打ちしてきた。
ライナスの言葉に驚いた僕は、辺りに気付かれないように視線だけを巡らせる。
でもバザーで人の出入りが激しいせいか、それともライナスとの実力の差が大きすぎるのか、僕にはだれが不審な人物なのかもわからない。
背筋に緊張が走る。
なぜ、こんな場所で。
目の前を走る子どもたち。
屋台の軽食を頬ばる親子連れ。
静かにお茶を楽しむ老夫婦。
一緒にテントを張ったホルヘ孤児院の先生たち。
手伝いに来てくれたマスカルバーノ侯爵家の令嬢たち。
そして。
……人のことしか頭にないエレアーナ。
ライナスが大きく伸びをしながら、自然に僕の前に立つ。
気が付くと隣にはケインが来ている。どうやら先にライナスが知らせたらしい。
ちらりと横を見る。この相変わらずの無表情男は、いつもの顔で立っている。
……悔しいな。
君って奴は、なんでこういう時までかっこいいんだよ。
「……令嬢たちが連れてきた護衛らにはもう知らせてあります。なるべく騒ぎにしたくないので、彼らとも協力し、できるだけ周囲に気づかれないよう迅速に確保していくつもりですが」
ライナスは、こちらに目を向けることなく、やっと聞き取れるほどの小さな声で囁いた。
「……ケイン、オレが殿下の側を離れたら……」
「わかっている、任せろ。ライナス」
最後まで言わせることなくきっぱりと答えを返すケインに、ライナスの口から微かな笑い声が漏れる。
それから。
ライナスは、朝の散歩にでも行くかのような軽い足取りで前に歩を進めて。
数秒遅れて、エレアーナ嬢やアリエラ嬢に付いていた警護の者たちもそれぞれ散っていく。
孤児院の入り口近く、ライナスはすれ違いざまにふと気が付いた様子で、一人の男に声をかける。
「あ、ちょっと失礼。上着の裾に泥が付いてますよ」
「え?」
「ああ、後ろなんで見えないと思います。ちょっと動かないでくださいね」
そう言うとポケットからハンカチを取り出し、怪訝そうに立ち止まった男の背に手を置いて、ポンポンと汚れを叩き落とすふりをして。
そしてそのまま……腕を背中でねじり上げて、自然に隣に並び立つ。
傍から見れば、仲良く話でもしているかのような立ち位置で。
「声、出すなよ」
男にしか聞こえないくらいの微かな声で低く囁く。と、一転。
「あーあ、やっぱ、これじゃ落ちませんね。あ、そうだ。あっちに水道があったっけ」
少し大きめの声で談笑しているかのように話し続けるライナスが、腕を取られて固まる男を、そのまま裏庭の方へと連れて行く。
「おお、鮮やか……」
感心して思わず呟きが漏れてしまう。
ライナスの鮮やかな手並みに気を取られているうちに、他の見知った護衛たちも仕事をこなしてくれたようで、見回せば護衛の者たち全員が周囲から一切気取られることなく、不審な男たちを会場から同じ裏庭の方角へと連れ出している。
それでも、1人につき1人という処理速度だ。
あちらの人数が多ければ、確保時のラグが出てしまう。
それはつまり、こちらの動きが知られてしまうことでもあり、その間、向こうに自由に動く時間を与えてしまうことでもある。
どうだろう?
素早く周囲を観察する。
何人いたのかな?
怪しい奴はいないか。本当に大丈夫か。
目を凝らせ。
……あ。
花壇の向こう。ひとりの男が、不自然に周囲を伺いながら、こちらの会場中央に向かって歩いて来る。
どうかな。あの男も仲間の1人だろうか?
確証が持てないまま、その男を目で追う。……と、そのとき。
風で男の上着の前あわせがふわりと広がって。
一瞬、男の胸元が、……内ポケットのあたりだろうか、きらりと光った。
太陽の光を反射したのだ。何かが。
……何が?
刹那、ケインが僕の前に飛び出した。
子どもたち手作りの木工品販売の売れ行きも上々。
屋台も盛況で評判も良く。
たくさんの人が来て賑わって。
子どもも大人も、みんな笑顔で。
そう、順調だった。
……午後の休憩時間に入る少し前までは。
最初に変調に気付いたのは護衛のライナス。
会場内に、挙動の怪しい人物が複数いる、と。
そう僕にさりげなく耳打ちしてきた。
ライナスの言葉に驚いた僕は、辺りに気付かれないように視線だけを巡らせる。
でもバザーで人の出入りが激しいせいか、それともライナスとの実力の差が大きすぎるのか、僕にはだれが不審な人物なのかもわからない。
背筋に緊張が走る。
なぜ、こんな場所で。
目の前を走る子どもたち。
屋台の軽食を頬ばる親子連れ。
静かにお茶を楽しむ老夫婦。
一緒にテントを張ったホルヘ孤児院の先生たち。
手伝いに来てくれたマスカルバーノ侯爵家の令嬢たち。
そして。
……人のことしか頭にないエレアーナ。
ライナスが大きく伸びをしながら、自然に僕の前に立つ。
気が付くと隣にはケインが来ている。どうやら先にライナスが知らせたらしい。
ちらりと横を見る。この相変わらずの無表情男は、いつもの顔で立っている。
……悔しいな。
君って奴は、なんでこういう時までかっこいいんだよ。
「……令嬢たちが連れてきた護衛らにはもう知らせてあります。なるべく騒ぎにしたくないので、彼らとも協力し、できるだけ周囲に気づかれないよう迅速に確保していくつもりですが」
ライナスは、こちらに目を向けることなく、やっと聞き取れるほどの小さな声で囁いた。
「……ケイン、オレが殿下の側を離れたら……」
「わかっている、任せろ。ライナス」
最後まで言わせることなくきっぱりと答えを返すケインに、ライナスの口から微かな笑い声が漏れる。
それから。
ライナスは、朝の散歩にでも行くかのような軽い足取りで前に歩を進めて。
数秒遅れて、エレアーナ嬢やアリエラ嬢に付いていた警護の者たちもそれぞれ散っていく。
孤児院の入り口近く、ライナスはすれ違いざまにふと気が付いた様子で、一人の男に声をかける。
「あ、ちょっと失礼。上着の裾に泥が付いてますよ」
「え?」
「ああ、後ろなんで見えないと思います。ちょっと動かないでくださいね」
そう言うとポケットからハンカチを取り出し、怪訝そうに立ち止まった男の背に手を置いて、ポンポンと汚れを叩き落とすふりをして。
そしてそのまま……腕を背中でねじり上げて、自然に隣に並び立つ。
傍から見れば、仲良く話でもしているかのような立ち位置で。
「声、出すなよ」
男にしか聞こえないくらいの微かな声で低く囁く。と、一転。
「あーあ、やっぱ、これじゃ落ちませんね。あ、そうだ。あっちに水道があったっけ」
少し大きめの声で談笑しているかのように話し続けるライナスが、腕を取られて固まる男を、そのまま裏庭の方へと連れて行く。
「おお、鮮やか……」
感心して思わず呟きが漏れてしまう。
ライナスの鮮やかな手並みに気を取られているうちに、他の見知った護衛たちも仕事をこなしてくれたようで、見回せば護衛の者たち全員が周囲から一切気取られることなく、不審な男たちを会場から同じ裏庭の方角へと連れ出している。
それでも、1人につき1人という処理速度だ。
あちらの人数が多ければ、確保時のラグが出てしまう。
それはつまり、こちらの動きが知られてしまうことでもあり、その間、向こうに自由に動く時間を与えてしまうことでもある。
どうだろう?
素早く周囲を観察する。
何人いたのかな?
怪しい奴はいないか。本当に大丈夫か。
目を凝らせ。
……あ。
花壇の向こう。ひとりの男が、不自然に周囲を伺いながら、こちらの会場中央に向かって歩いて来る。
どうかな。あの男も仲間の1人だろうか?
確証が持てないまま、その男を目で追う。……と、そのとき。
風で男の上着の前あわせがふわりと広がって。
一瞬、男の胸元が、……内ポケットのあたりだろうか、きらりと光った。
太陽の光を反射したのだ。何かが。
……何が?
刹那、ケインが僕の前に飛び出した。
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