【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
91 / 256

泣かないで

しおりを挟む
レオンハルトが、シュリエラを真っ直ぐに見つめながら口を開いた。

「ファーブライエンが賢者くずれを呼び寄せて、エレアーナ嬢に害をなそうとした。そして、その事に対して僕の父、シャールベルム国王から彼に沙汰が下ったことは知ってる?」

口調は穏やかなまま。

「お恥ずかしいことですが、実は殆ど聞かされていないのです。わたくしが知っていることといえば、父が賢者くずれと接触を図ったこと、最近になって王城より使者が何度も邸を訪れていること、兄が父に代わって当主となったことだけでございます。・・・あとは、先ほどこちらで伺ったお話くらいでしょうか」
「そうか」

相槌を打ち、少し思案してからレオンハルトが再び口を開く。

「実はね、ファーブライエンは陛下のご判断に納得していないようなんだ」
「・・・え?」

どう説明しようかとレオンハルトは、しばし言葉を選ぶように首を捻る。

「うーん、何というか・・・。賢者くずれを呼んだのは、陛下や・・・僕の間違った判断を正すためだったって言ってるらしい。だから、主君の過ちを正そうとした自分こそが真の忠臣だって言い張ってるそうなんだ」
「そんな、父は、なんて愚かなことを・・・」

シュリエラの顔が、さっと青ざめる。

「申し訳ありません。エレアーナさまたちに大変なご迷惑をおかけするに留まらず、王家の裁定にまで異を唱えるなど・・・!」

慌てて謝罪しようとしたシュリエラを、レオンハルトが手を上げて制した。

「いや、シュリエラ嬢が係っていないことは皆知ってるから謝らなくていいんだよ。・・・ただ、当主を代え、ファーブライエンには蟄居を命じることで事を納めようとした陛下の温情が、よりによって当人に通じなかったからね・・・」

とんでもない対応だが、あの父ならばやりかねない、とシュリエラは思った。
ファイやケインバッハのおかげで、父の呪縛からようやく逃れることが出来たシュリエラにとって、かつて支配下に置かれていた父の思考回路など容易に想像がつく。

きっとまた、騒いでごね続ければ、周囲が諦めて折れてくれると期待しているのだろう。

でも・・・今回は、きっと。
そう。きっと、もう。

父に、次などないのだろう。

「そう、なのですか・・・。では、ではファイは、そのために父のところに・・・」

言葉が途切れた。
涙が零れそうで。

行って何をするかなんて分かりきっている。

口をきゅっと引き結んで、じっと堪えた。

・・・ファイ、ごめんなさい。

シュリエラは心の中で、呟いた。

ごめんなさい。
嫌な役目を、負わせてしまって。

私のことを、あんなに気にかけてくれて。
おしゃべりに付き合ってくれて。

いつも励まして、笑って、叱って、からかってくれた。

私はずっと、父のように頼って、甘えて、我儘ばかり言って。
ずっと、ずっと、助けてもらうばかりで。

ファイのおかげで、私はようやく、自分の足で立てるようになったのに。

「・・・」

俯いて必死に涙を堪えるシュリエラを慰めなければと思いつつも、以前の婚約者探しの経緯もあり、自分では誤解を与えかねないと考えたレオンハルトは、周りを見回す。

ケイン・・・は、駄目だ。エレアーナに悪い。
アイスケルヒ・・・は、うわ、横のご令嬢の圧が凄いな。

となると・・・。

斜め後ろの自分付きの護衛にちらっと視線を送る。

「ライナス、ちょっと慰めてあげて」

小さな小さな声で、ぽそぽそとライナスに囁いた。

「え? オレ? オレですか? なんでオレ?」

やはり小さな声で、ぽそぽそと返したが、レオンにぐいっと手を引っ張られ、前へと突き出されてしまう。

よろよろと前に出たライナスは、焦ってレオンハルトの方を何度も振り返るが「行、け」と口パクされて、すごすごとシュリエラの前まで歩み出る。

「あ、あの、シュリエラ嬢・・・。どうか、泣かないで、くだ、さ・・・」

ライナスが言葉をかけた瞬間、シュリエラの目から涙がぽろぽろと堰を切ったように溢れ、わぁっと声を上げて泣き出した。

「え? あ、ちょっ・・・」
「ファイ~ッ! ファイ~ッ! ごめんなさい、ファイ! いやだ、ファイがお迎えに来てくれなきゃやだ~っ!」

うわぁぁぁんっと泣きながら、ライナスの胸に顔を埋める。
男ばかり四兄弟の家で育ったライナスは、白状するのも恥ずかしいが女の子に触れるのはこれが初めてで。

胸にぎゅううっとしがみつかれて、ライナスの顔は真っ赤になって。
体は緊張でぴしっと硬直するものの、レオンやアイスケルヒが遠くから手振り身振りで何かを指示していることに気付き、こうか? と恐る恐る手を伸ばしてシュリエラの頭の上に置いた。

そろ~っとぎこちなく頭を撫でるライナスの大きな手。
剣だこが出来ていて、ごつごつした男らしい手が、優しく優しく、壊れ物に触るように、そっと頭を撫でる。

その感触に安堵を覚え、泣き止もうと思っても勝手に涙が溢れてきて、なかなか止まらない。

「まあまあ、ライナスさまったら。女の子は、泣かないでって言われると泣いてしまうものですわよ・・・」

そうぽつりと呟いたアリエラの声は、きっと隣にいたアイスケルヒにしか聞こえなかっただろう。

しばらくの間泣き続けたシュリエラは、後になってようやく落ち着いた頃、ライナスの騎士服の胸元をびしょびしょに濡らしてしまったことに気づき、また泣きそうな顔になってライナスに平謝りするのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...