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蕾から咲き誇る花へ
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妃教育の授業を終えたカトリアナが護衛や侍女たちと共に王城の回廊を移動していると、木陰を抜けて側門に向かう見知った顔に気づいた。
久しぶり、というほど会っていない訳でもないのだが、やはり大好きな友人の顔を見るのはいつであっても嬉しいもので、カトリアナは弾んだ声で呼びかけた。
「ごきげんよう、エレアーナさま」
声に気づいたエレアーナは、側門へ続く道から回廊へと足の向きを変える。
「カトリアナさま、ごきげんよう。お会い出来て嬉しゅうございますわ。・・・まぁ、シュリエラさまもいらしたのですね。こんにちは」
カトリアナの後ろに立つシュリエラに気づいたエレアーナは、そちらにも会釈をする。
「今、午前のお勉強が終わったところですの。エレアーナさまはケインバッハさまのところへ?」
エレアーナの手に大きな籠があるのを見て、どうやら昼食の差し入れだと気付いたようだ。
「ええ、そうなんですの。色々と作っていたら、約束の時間よりも遅くなってしまいました。今頃、迷子になったかと心配してるかもしれませんわ」
そう言ってふふ、と笑む姿は、いつもの如く華やかであったのだが、今日のそれは、結婚したせいなのか、そこに匂いたつような艶やかさが加わって。
カトリアナも、シュリエラを含む侍女たちも、後ろに控えていたアッテンボローも、皆が思わず息を呑んだほどの美しさだった。
「・・・どうかなさいまして?」
「あ、い、いえ。なんでもありませんわ」
「そうですか? では、わたくしは急ぎますので、今日はこれで失礼させていただきますわね」
そう言ってまたふわりと微笑むと、回廊から王城内へと続く扉へと歩き出す。
「・・・ダイスヒル夫人。そちらは宰相閣下の執務室のある方向ではありませんよ」
進む方向に気づいたアッテンボローが慌てて声をかける。
「ありがとうございます。ですが、こちらで大丈夫なのです。この時間は王太子殿下の執務室にいるのでそちらに来るようにと言われておりまして」
「そう・・・だったのですね」
「ええ、そこでケインさまと落ち合う約束ですの」
少し急ぎ足で立ち去る後ろ姿をじーっと見ていたアッテンボローは、脇腹に何か当たったような感覚を受ける。
その方向を見れば、少しむうっとした表情のシュリエラがアッテンボローを見つめている。
「お付き合いしている女性の目の前で、他の女性に見惚れるものではありませんよ」
あまりに『らしい』言葉に、思わずぷっと吹き出すと、シュリエラは更にしかめっ面になる。
「わたくし、気が多い殿方は嫌いです」
「いや、これは気が多いとかそういうんじゃなくて・・・」
「なくて?」
「殿下とケインバッハで何の話をしてるのかってちょっと思っただけで」
「ふうん、そうですか。まあ、それならいいですけど」
と、そこで後ろからの視線に気がついて、はっと振り返れば、カトリアナがにこにこと嬉しそうに微笑んでいて。
「まあまあまあ、お二人はお付き合いしてらっしゃるの? いつからですか? この間まで、そんな素振りもありませんでしたわよね? 特にアッテンボローさまの方が」
ぐぬぬ、となりながらも、そう言えばこの方はこういう事に目ざといんだった、と思い出したアッテンは、先日シュリエラとお見合いをしたことを報告した。
「まあまあまあ、黙っているなんて水臭いですわ、シュリエラさま。ちょうどこれからお昼ですもの、食事を頂きながらお話を聞かせてくださいませ」
「・・・カトリアナさま。今のわたくしは侍女という立場にありますので、お食事をご一緒するのは・・・」
「そんなこと仰らないで。ああ、でも、どうしても嫌だとお思いでしたら、側で控えながらでもお話は出来ましてよ?」
「カトリアナさま。侍女に敬語は不要で・・・」
シュリエラは頑張って粘るが、こういう時のカトリアナに勝てる人間などそうはいない。
早々に降参して、後で打ち明けることを約束したシュリエラだった。
「エレアーナ・ダイスヒル夫人がいらっしゃいました」
ノックの音と共に、内側から扉が開かれる。
中には、執務室の主、レオンハルト王太子殿下とエレアーナの夫、ケインバッハ・ダイスヒル、そして護衛のライナスバージが待っていた。
「いらっしゃい、エレアーナ嬢・・・じゃなくてダイスヒル夫人か。結婚式以来だね。元気だった?」
「レオンハルト王太子殿下、わたくしたちの式にご出席下さり、ありがとうございました。この通り元気にしております」
にこりと笑うその姿に、やはりレオンハルトもライナスバージも一瞬、呆けて。
どこからともなく聞こえてきた、こほん、という咳払いと共に、はっと我に返って居住まいを正す。
「なんか、人妻の色気が・・・」
ぽつりと呟いたライナスは、即効でどつかれていた。
怒気の源から視線を外し、ちら、とエレアーナの腕の中にある籠に目をやったレオンハルトは、申し訳なさそうな表情を浮かべつつ口を開いた。
「ケインと一緒にお昼を食べる予定だったんだよね? 申し訳ないけど、もう少し時間をもらってもいいかな。君の耳にも入れておいた方がいいかもしれないと思ってね」
「はい?」
エレアーナは、そっと視線を夫に送る。
ケインもこくりと頷いた。
「君のところにまで何か手が及ぶとは考えにくいんだけど・・・。以前の事件は君を狙ったものだから、絶対に接触がないとも言い切れないものでね」
何か不穏な響きの言葉がその会話に含まれていることに気づき、エレアーナは顔を曇らせた。
「まさか・・・」
「うん、・・・そのまさかなんだ」
レオンハルトは机の上で両腕を組むと、思案するように顎に添えた。
「賢者くずれを手に入れようとする動きがあるという報告が上がってるんだよ」
久しぶり、というほど会っていない訳でもないのだが、やはり大好きな友人の顔を見るのはいつであっても嬉しいもので、カトリアナは弾んだ声で呼びかけた。
「ごきげんよう、エレアーナさま」
声に気づいたエレアーナは、側門へ続く道から回廊へと足の向きを変える。
「カトリアナさま、ごきげんよう。お会い出来て嬉しゅうございますわ。・・・まぁ、シュリエラさまもいらしたのですね。こんにちは」
カトリアナの後ろに立つシュリエラに気づいたエレアーナは、そちらにも会釈をする。
「今、午前のお勉強が終わったところですの。エレアーナさまはケインバッハさまのところへ?」
エレアーナの手に大きな籠があるのを見て、どうやら昼食の差し入れだと気付いたようだ。
「ええ、そうなんですの。色々と作っていたら、約束の時間よりも遅くなってしまいました。今頃、迷子になったかと心配してるかもしれませんわ」
そう言ってふふ、と笑む姿は、いつもの如く華やかであったのだが、今日のそれは、結婚したせいなのか、そこに匂いたつような艶やかさが加わって。
カトリアナも、シュリエラを含む侍女たちも、後ろに控えていたアッテンボローも、皆が思わず息を呑んだほどの美しさだった。
「・・・どうかなさいまして?」
「あ、い、いえ。なんでもありませんわ」
「そうですか? では、わたくしは急ぎますので、今日はこれで失礼させていただきますわね」
そう言ってまたふわりと微笑むと、回廊から王城内へと続く扉へと歩き出す。
「・・・ダイスヒル夫人。そちらは宰相閣下の執務室のある方向ではありませんよ」
進む方向に気づいたアッテンボローが慌てて声をかける。
「ありがとうございます。ですが、こちらで大丈夫なのです。この時間は王太子殿下の執務室にいるのでそちらに来るようにと言われておりまして」
「そう・・・だったのですね」
「ええ、そこでケインさまと落ち合う約束ですの」
少し急ぎ足で立ち去る後ろ姿をじーっと見ていたアッテンボローは、脇腹に何か当たったような感覚を受ける。
その方向を見れば、少しむうっとした表情のシュリエラがアッテンボローを見つめている。
「お付き合いしている女性の目の前で、他の女性に見惚れるものではありませんよ」
あまりに『らしい』言葉に、思わずぷっと吹き出すと、シュリエラは更にしかめっ面になる。
「わたくし、気が多い殿方は嫌いです」
「いや、これは気が多いとかそういうんじゃなくて・・・」
「なくて?」
「殿下とケインバッハで何の話をしてるのかってちょっと思っただけで」
「ふうん、そうですか。まあ、それならいいですけど」
と、そこで後ろからの視線に気がついて、はっと振り返れば、カトリアナがにこにこと嬉しそうに微笑んでいて。
「まあまあまあ、お二人はお付き合いしてらっしゃるの? いつからですか? この間まで、そんな素振りもありませんでしたわよね? 特にアッテンボローさまの方が」
ぐぬぬ、となりながらも、そう言えばこの方はこういう事に目ざといんだった、と思い出したアッテンは、先日シュリエラとお見合いをしたことを報告した。
「まあまあまあ、黙っているなんて水臭いですわ、シュリエラさま。ちょうどこれからお昼ですもの、食事を頂きながらお話を聞かせてくださいませ」
「・・・カトリアナさま。今のわたくしは侍女という立場にありますので、お食事をご一緒するのは・・・」
「そんなこと仰らないで。ああ、でも、どうしても嫌だとお思いでしたら、側で控えながらでもお話は出来ましてよ?」
「カトリアナさま。侍女に敬語は不要で・・・」
シュリエラは頑張って粘るが、こういう時のカトリアナに勝てる人間などそうはいない。
早々に降参して、後で打ち明けることを約束したシュリエラだった。
「エレアーナ・ダイスヒル夫人がいらっしゃいました」
ノックの音と共に、内側から扉が開かれる。
中には、執務室の主、レオンハルト王太子殿下とエレアーナの夫、ケインバッハ・ダイスヒル、そして護衛のライナスバージが待っていた。
「いらっしゃい、エレアーナ嬢・・・じゃなくてダイスヒル夫人か。結婚式以来だね。元気だった?」
「レオンハルト王太子殿下、わたくしたちの式にご出席下さり、ありがとうございました。この通り元気にしております」
にこりと笑うその姿に、やはりレオンハルトもライナスバージも一瞬、呆けて。
どこからともなく聞こえてきた、こほん、という咳払いと共に、はっと我に返って居住まいを正す。
「なんか、人妻の色気が・・・」
ぽつりと呟いたライナスは、即効でどつかれていた。
怒気の源から視線を外し、ちら、とエレアーナの腕の中にある籠に目をやったレオンハルトは、申し訳なさそうな表情を浮かべつつ口を開いた。
「ケインと一緒にお昼を食べる予定だったんだよね? 申し訳ないけど、もう少し時間をもらってもいいかな。君の耳にも入れておいた方がいいかもしれないと思ってね」
「はい?」
エレアーナは、そっと視線を夫に送る。
ケインもこくりと頷いた。
「君のところにまで何か手が及ぶとは考えにくいんだけど・・・。以前の事件は君を狙ったものだから、絶対に接触がないとも言い切れないものでね」
何か不穏な響きの言葉がその会話に含まれていることに気づき、エレアーナは顔を曇らせた。
「まさか・・・」
「うん、・・・そのまさかなんだ」
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