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賢者くずれを狙う者
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「賢者くずれを・・・」
薄れかけていた恐怖の記憶が、その言葉で蘇る。
「ごめんね、賢者くずれには嫌な思い出しかないだろうに、こんな話を聞かせてしまって」
レオンハルトは申し訳なさそうにエレアーナの表情を窺う。
「いえ、わたくしは大丈夫です。ただ、このところ名前を聞くこともなかったので、少し驚いてしまって」
そう言いながら俯いたエレアーナの肩を、ケインが心配そうにそっと抱き寄せる。
「うん、驚くよね。僕も、こんな報告がなければ君に一生聞かせることがない話だと思っていた。実際に攻撃の対象とされた事がある君にとっては、ただただ恐ろしいだけかもしれないしね」
そこで、少し考え込むように言葉を切った。
「でもね、安心してほしい。全ては完全な管理下にある。誰が何をしようと、賢者くずれが世に出ることはないから」
そのあまりにも確信のこもった言葉に、エレアーナは少しの疑問が湧き上がる。
「完全な管理下、ですか」
「うん、でもこれは国家機密にもあたることだからね、これ以上の詳しい説明は出来ないんだ。ただ一つだけ言っておくよ。これはラファイエラスさまが残してくれた国家安全のための策なんだよ」
「ラファイエラスさまが?」
「ああ、君なら分かるだろう? あの方が提案する策に穴などない、と」
エレアーナは、こくりと頷く。
「だから安心して。あの男が世に放たれることは決してない。ただ、これから何か起きても動揺しないでほしい。そのために、君にこの話をしたんだ」
「わかりました。ご配慮に感謝いたします」
「ケインもね。君の奥さんをしっかり守ってよ」
「ああ」
再び籠に視線を送ったレオンハルトは、ふふ、と笑いながら退出を促した。
「じゃあ、後は二人でゆっくりお昼を楽しんでおいで。新婚さん」
揶揄いまじりの別れの挨拶に、エレアーナは赤くなりながらも、言い忘れていたお礼の言葉を口にした。
「あの、結婚祝いの贈り物をありがとうございました。とても貴重で珍しい物を贈っていただきまして」
「気に入ってくれたかな?」
「はい、その日のうちに庭に植えましたわ。花が咲くのが今から楽しみです」
「そう、それはよかった」
嬉しそうに微笑むレオンハルトの後ろから、ライナスバージが「オレのは?」と、声を上げる。
「凄い切れ味の剣でしょ? 鞘も柄も凄い凝った作りだったでしょ? 魔剣みたいで格好良かったですよね? ね、夫人」
と、ぐいぐい来られてエレアーナも何と答えたらいいのか戸惑ってしまう。
「あの、剣のことはよく分からなくて・・・」
「ええ~?」
「あ、でも、鞘に施されていた彫刻は確かに素晴らしかったです」
「だよねー? やっぱり分かります? あそこね、もの凄いこだわったんだよ」
「淑女にそんなこと分かるわけないでしょ」
そうぼそりと呟いたレオンハルトの正面から、「分かる」と小さく答える声がした。
「え?」
「・・・格好よかった」
「ええ? ケイン?」
「だろ? そうだろ? ケイン、やっぱ、お前はよく分かってるな!」
感動したライナスバージが、名剣とは何ぞや、ととうとうと語り始めたのを見て、冷めても大丈夫な物ばかり用意してきてよかった、とは心の中で安堵するエレアーナだった。
「すまない。話し込んでしまって」
王城の外庭の一画。
設置されたテーブルに広げた食事を口に入れながら、ケインバッハはしゅん、と謝った。
「いいのですよ。ケインさまも楽しそうにしてらっしゃいましたもの。本当に、ライナスさまとは兄弟のように仲がよろしいですね」
「ああ、俺のもう一人の剣の師ではあるが、兄のように慕っている」
会話をしながら、ぱくりと一口食べる。
好きな味付けだったようで、ぱあっと表情が明るくなって。
一言も発せずとも、その料理がとても気に入ったことがわかる。
ふふ、成人した男性なのに、こういう所は本当に可愛らしいのね。
もぐもぐと無心に食べ物を頬張る姿は、虎を餌付けしているような気分だ。
「・・・心細くはないか?」
「え?」
「賢者くずれの話だ」
何でもないような顔をして。
やっぱり心配してくださってるのね。
「・・・今回は、わたくしが狙われている訳ではありませんから」
そう。今回は、関係者の一人として情報を共有しただけ。
・・・それに。
以前、窓から見た風景を思い出す。
真夜中、護衛の一人として屋敷の前に立ち続けてくれたケインバッハが、エレアーナの部屋の窓明かりの下、祈るように跪いていたことを。
賢者くずれが捕まるまで、毎夜毎夜、警護に加わってくれた姿を。
「もし何かあっても、貴方が守ってくれるでしょう?」
ふわりと笑う。
咲き誇る薔薇のような、艶やかで艶やかな微笑みで。
思わず、見惚れて。
ケインバッハは言葉を失う。
「・・・」
「ケインさま?」
「・・・ああ」
はっと我に返って、頷いてみせた。
あの時と変わらぬ、二心のない思いで。
「勿論だとも。前に約束した通り、何があろうと必ず君を守り、俺も生き抜いてみせるさ」
薄れかけていた恐怖の記憶が、その言葉で蘇る。
「ごめんね、賢者くずれには嫌な思い出しかないだろうに、こんな話を聞かせてしまって」
レオンハルトは申し訳なさそうにエレアーナの表情を窺う。
「いえ、わたくしは大丈夫です。ただ、このところ名前を聞くこともなかったので、少し驚いてしまって」
そう言いながら俯いたエレアーナの肩を、ケインが心配そうにそっと抱き寄せる。
「うん、驚くよね。僕も、こんな報告がなければ君に一生聞かせることがない話だと思っていた。実際に攻撃の対象とされた事がある君にとっては、ただただ恐ろしいだけかもしれないしね」
そこで、少し考え込むように言葉を切った。
「でもね、安心してほしい。全ては完全な管理下にある。誰が何をしようと、賢者くずれが世に出ることはないから」
そのあまりにも確信のこもった言葉に、エレアーナは少しの疑問が湧き上がる。
「完全な管理下、ですか」
「うん、でもこれは国家機密にもあたることだからね、これ以上の詳しい説明は出来ないんだ。ただ一つだけ言っておくよ。これはラファイエラスさまが残してくれた国家安全のための策なんだよ」
「ラファイエラスさまが?」
「ああ、君なら分かるだろう? あの方が提案する策に穴などない、と」
エレアーナは、こくりと頷く。
「だから安心して。あの男が世に放たれることは決してない。ただ、これから何か起きても動揺しないでほしい。そのために、君にこの話をしたんだ」
「わかりました。ご配慮に感謝いたします」
「ケインもね。君の奥さんをしっかり守ってよ」
「ああ」
再び籠に視線を送ったレオンハルトは、ふふ、と笑いながら退出を促した。
「じゃあ、後は二人でゆっくりお昼を楽しんでおいで。新婚さん」
揶揄いまじりの別れの挨拶に、エレアーナは赤くなりながらも、言い忘れていたお礼の言葉を口にした。
「あの、結婚祝いの贈り物をありがとうございました。とても貴重で珍しい物を贈っていただきまして」
「気に入ってくれたかな?」
「はい、その日のうちに庭に植えましたわ。花が咲くのが今から楽しみです」
「そう、それはよかった」
嬉しそうに微笑むレオンハルトの後ろから、ライナスバージが「オレのは?」と、声を上げる。
「凄い切れ味の剣でしょ? 鞘も柄も凄い凝った作りだったでしょ? 魔剣みたいで格好良かったですよね? ね、夫人」
と、ぐいぐい来られてエレアーナも何と答えたらいいのか戸惑ってしまう。
「あの、剣のことはよく分からなくて・・・」
「ええ~?」
「あ、でも、鞘に施されていた彫刻は確かに素晴らしかったです」
「だよねー? やっぱり分かります? あそこね、もの凄いこだわったんだよ」
「淑女にそんなこと分かるわけないでしょ」
そうぼそりと呟いたレオンハルトの正面から、「分かる」と小さく答える声がした。
「え?」
「・・・格好よかった」
「ええ? ケイン?」
「だろ? そうだろ? ケイン、やっぱ、お前はよく分かってるな!」
感動したライナスバージが、名剣とは何ぞや、ととうとうと語り始めたのを見て、冷めても大丈夫な物ばかり用意してきてよかった、とは心の中で安堵するエレアーナだった。
「すまない。話し込んでしまって」
王城の外庭の一画。
設置されたテーブルに広げた食事を口に入れながら、ケインバッハはしゅん、と謝った。
「いいのですよ。ケインさまも楽しそうにしてらっしゃいましたもの。本当に、ライナスさまとは兄弟のように仲がよろしいですね」
「ああ、俺のもう一人の剣の師ではあるが、兄のように慕っている」
会話をしながら、ぱくりと一口食べる。
好きな味付けだったようで、ぱあっと表情が明るくなって。
一言も発せずとも、その料理がとても気に入ったことがわかる。
ふふ、成人した男性なのに、こういう所は本当に可愛らしいのね。
もぐもぐと無心に食べ物を頬張る姿は、虎を餌付けしているような気分だ。
「・・・心細くはないか?」
「え?」
「賢者くずれの話だ」
何でもないような顔をして。
やっぱり心配してくださってるのね。
「・・・今回は、わたくしが狙われている訳ではありませんから」
そう。今回は、関係者の一人として情報を共有しただけ。
・・・それに。
以前、窓から見た風景を思い出す。
真夜中、護衛の一人として屋敷の前に立ち続けてくれたケインバッハが、エレアーナの部屋の窓明かりの下、祈るように跪いていたことを。
賢者くずれが捕まるまで、毎夜毎夜、警護に加わってくれた姿を。
「もし何かあっても、貴方が守ってくれるでしょう?」
ふわりと笑う。
咲き誇る薔薇のような、艶やかで艶やかな微笑みで。
思わず、見惚れて。
ケインバッハは言葉を失う。
「・・・」
「ケインさま?」
「・・・ああ」
はっと我に返って、頷いてみせた。
あの時と変わらぬ、二心のない思いで。
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