転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第2章

第279話 シャル叔父さん登場

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屋敷までの緩い坂道に六台程続く馬車の列。馬車のそばにピッタリついている冒険者達。
少し前には騎士が並走する馬車の列を見たけれど、今回の隊列は雰囲気が全然違う。

「やあやあ!元気だったかい?」

唾を両脇に折りたたんだ帽子を被り、縞々のマントを翻した人物が馬車から降りてきて、手を振った。

「シャル叔父さん!」
「お久しぶりです!」

正門前でシャル叔父さんが率いる商隊を出迎えた。シャル叔父さんは兄上と僕を見た。

「ローレンもクリスもちょっと見ないうちに背が伸びたんじゃない?」
「えへへ……」

シャル叔父さんに背が伸びたと言われて僕は嬉しくて顔をニヤつかせた。

「元気そうじゃないか。急に呼ばれたから何かあったのかとちょっと心配してたんだよぉ」

僕と兄上の顔を交互に見て安心したような笑みを浮かべた後、シャル叔父さんは本館の玄関前に立っている父上達に目を向けた。
父上に向き直り、帽子を取って胸に手を当てて恭しくお辞儀をする。

「ゲンティアナ卿、ご無沙汰しております。ご健勝そうで何よりです。
商業ギルド経由にてご伝言をいただき、本日馳せ参じました」
「遠くからわざわざ来てもらってすまないな。シャルル」
「……心配しましたよぉ。ゲンティアナは、元気そうなので安心しました!」

最初だけ恭しい挨拶をした後は、軽い口調に切り替え、キョロキョロと見回した。
「急がせて済まなかったが……、『ゲンティアナは?』」
「隣のアンソラ男爵領は、あちこちで流行病って噂だったよ。
 今回はアンソラ領は通り抜け目的だったから御領主様に挨拶しに行く予定はなかったんだけど
 アンソラ領で泊まった定宿で、今は領都に寄らない方が良いかもって言われたんだよ。
 念の為、少し遠回りして田舎道を通ってきたんだ」
「そうだったか……。こちらにはまだ情報が入ってきていないが……」
「じゃあ、流行り始めかねぇ。どっちにしろ気をつけて」

へらっと緩い笑みを浮かべたシャル叔父さんの様子と対照的に母様が厳しそうな表情でマーサに指示を出していた。

「申し訳ないのだけど、流行病の予防の為、手を洗ってから屋敷に入っていただけるかしら?」

母様がそう言って、玄関脇にある洗い場を指し示した。
狩りとかで汚れてた時とかに、玄関から入る前に手やら足やらを洗う場所だ。
あまり間を空けずに、マーサが大きな水差しを抱えて出てきた。

洗い場でマーサが水差しを傾け、流れ落ちてきた水でシャル叔父さんと同行してきた人が手を洗っていた。

「奥の洗面所でうがいもしてくださいね」
「えー、流行病にかかったりはしていないので、ご安心ください?」
「それでも念の為よ、護衛の方達にも手を洗うように言ってちょうだい。同行してきた人の中に体調が悪い人はいないかしら」

隣の男爵領で流行病が発生しているという噂を聞いて、急に慌しくなってしまった。
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