転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
327 / 334
第2章

第327話 気になる魔獣

しおりを挟む
黒ローブたちのことはお父様に任せることにして、少し落ち着いたけど、まだ少し不安な感じがする。朝に兄上とボブと一緒に泉に行って、泉の水を汲んだり、毒耐性の魔石を持っている魔獣を倒したりするのが、ほぼ日課みたいになっているんだけど、他にも黒ローブがいて毒を撒いているかもしれないとか、呪いの毒を作ろうとしているのかもとか考えると、毒耐性の魔石や泉の水が十分にあるのか心配になっちゃうんだ。

「……足りるかなぁ」

いつもより少し多めに瓶を持って泉の水をたくさん汲んではいるけど、川に流れている水を全部解毒できるのかは分からないよね。

最後の瓶を泉の水で満たしてから、呟くように言ってしまう。

「足りなきゃまた汲みにくれば良いさ」

兄上は、不安に思っていないのか、なんでもなさそうに言いながら、魔獣の遺骸に泉の水をたっぷりとかけた。

「川に毒が広がっているって知らせれば、川の水を飲んだり、川の魚を食べないようにしたりすると思うよ」

兄上にそう言われれば、「そうかも」とも思う。幸いなことに、「流行病」が広がっていると言われていたエリアでは寝込む人は多くても、死者や重い症状の患者は出ていないらしい。
具合が悪くなった人達も、シャル叔父さんの商会の人達が運んでくれた、支援物資で回復してきているというし、川の毒が原因だと言うことが伝わっているのなら、慌てる必要はないとのことだ。

「黒ローブのことの方は気になるけどな……」

兄上は少しだけ眉を歪めた。黒ローブのことはやっぱり気になるよね。

ゲンティアナとアンソラ男爵領の領境に毒を撒くとか言っていたし、可能なら今すぐ行って捕まえたいよ。

「……領境までって、半日はかかるの?」
「馬を飛ばしてもかなり時間はかかるはずだよ。近くにいる人に任せるしかないよ。ああ……、電……、連絡できる魔道具とか領境とかに配置できるようになると、もう少しスムーズなんだろうけどな」

「呪いの毒」で黒く爛れた魔獣の遺骸を解毒後に土に埋め終わって、泉の水で満たした瓶を「収納」にしまうと、兄上は近くに置いてあったリュックをヒョイと背負った。
もう引き返すタイミングかと、僕もリュックを背負った。

帰りは乳白色の魔石を持った魔獣を探すので、行きと違う道を通ってみたりする。白い蛇魔獣が居れば狩るけど、それ以外でも光魔法を使うような魔獣が居ないかも探しながら歩いている。

「あ、なんか光ってないか?」

薮をかき分けて、その先を見回した兄上が言う。

「ほぉ、光ってますなぁ。木の上に何匹かいるんでさぁ」

ボブが小声で返事をした。

《ツノヒカリトカゲ》
《毒なし》

「ツノヒカリトカゲ?」

兄上とボブの視線を追いかけて、光っている場所を見てみると、毒鑑定が作動した。木の枝や葉っぱが陰担って、全身が見えないけど、名前からすると光っているのはツノのようだ。

「光ってるのはツノか」
「仕留めましょうか」
「うん。光ってるってことは、光魔石の可能性があるよな」

ボブの申し出に兄上が頷くと、ボブは近くの虫を払うかのような、何でもなさそうな動作でナイフを投げた。

「キュェェ!!」

ボブのナイフはツノヒカリトカゲに命中したけど、近くで別の魔獣の声が聞こえた。声と同時に魔法陣が浮かび上がる。何か魔法を放ってくる?

シュッ

隣の木から、何かが飛び立った。鳥じゃない。広げた四肢に膜が張られていて、四角形の布みたいな姿だ。

《フユウモモンガ》
《毒なし》

ツノヒカリトカゲが落ちる音が聞こえたけど、ボブはフユウモモンガの方にも狙いを定めていた。

ザシュッ!

「キエェェエ!!」

ボブのナイフがフユウモモンガの皮膜を切り裂くと、フユウモモンガは甲高い声をあげて、錐揉みするようにクルクルと回転した。次の瞬間、魔法陣が浮かび上がり、フユウモモンガはクルクルと回ったまま垂直方向に上昇した。

「え?変な動き!」
「仕留め損なったでさぁ」

ボブのナイフが今度は、フユウモモンガの頭に刺さり、フユウモモンガはナイフと共に落ちていった。

あの魔法陣、気になる!
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

処理中です...