転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第37話 青銅色の髪の騎士

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「おや、先客がいたのか。」

逆光でよく見えないけど、マッチョだ。胸筋が立派で均整が取れたマッチョ。

「扉が少し開いていたから、中に入れるのかと思ってね。ここは訓練場かな。」
「あ。はい。そうですけど。」

男性が訓練場の中に足を踏み入れてきた。騎士服を着ている。本館に泊まった騎士の人かな。
青銅色の短髪で、日に焼けた肌をしている。

ーーーレオン!血が!
ーーーゴーシュ、殿……、……殿下。は?
ーーーご無事だ。レオン動くな。今、止血する!
ーーー多分……、ダメ……だ。私は、もう……。毒、だ……。ゴホッ……。
ーーー毒だと!?

青銅色の髪色の騎士がこちらに歩いてくると、また脳裏にセリフと絵が浮かんできた。
レオノールさんが血を流して倒れている。青銅色の髪色の騎士がレオノールさんを助け起こそうとするけれど、レオノールさんは口から血を吐いた。
何だこの光景。レオノールさんが死んじゃう?


「ここで訓練をしても良いのかい?」

脳裏に浮かんだ光景に僕が動揺していると、目の前の騎士が何か言ったみたいだった。
キョロキョロと訓練場の中の様子を見回して、僕と兄上を交互に見てから兄上の方に視線を向けた。

「すみません。この後、殿下をここにご案内する予定なんです。」
「ああ、そうだったのか。これは失礼。」

兄上が青銅色の騎士に応対している。脳裏に流れる光景からは一旦目を逸らして、目の前の騎士を見た。
青銅色の騎士が片手を胸に当ててお辞儀をして言った。

「ゲンティアナ男爵のご子息達かな。私はゴーシュ・アキレア。ネイサン第二王子殿下の護衛をしている者だ。
殿下の安全の確保の為、中を見て回っても構わないだろうか。」

「えーと……。」

兄上がチラリと僕の方を見た。あれ?僕が判断するの?僕は、ゴーシュさんと名乗った騎士を改めて見つめた。
青銅色の髪色のこの騎士の人。ゴーシュさんって名前だった!妄想の通り?もしかかしてどこかで名前を聞いたのかも。

じっとゴーシュさんを見つめてみる。「害意」は感じない。「敵意」もない。少しだけ「警戒」の気配。まあ、殿下の安全の為の警戒かな。
悪い人ではなさそうなので、兄上の方を見て小さく頷く。
兄上は、視線を僕からゴーシュさんに戻して頷いた。

「はい。どうぞ。的は調整済みなので、動かさないでいただけると助かります。
俺はローレン・ゲンティアナです。こっちは弟のクリストファーです。」
「よろしく。協力、感謝する。」

ゴーシュさんはお礼を言うとゆっくりと訓練場を一周し始めた。木剣とか槍とかめちゃくちゃ見てる。それと何気なく足元の土の状態も確認しているっぽい。

ゴーシュさんが僕達に背を向けて歩き始めたら、少し緊張が解けたのかまた脳裏に絵と台詞が浮かんできた。

ーーー何の毒だ。どんな症状だ。今、解毒剤を!
ーーーたぶ、ん……。呪いの毒……。痺れて指の先まで、もうこんなに黒く……。息が……く……、苦しい……。
ーーー呪いだって!?


頭がクラクラする。脳裏の中にゴーシュさんの悲痛な声が響く。レオノールさんの悲しみが胸に突き刺さるようだ。
目の前のゴーシュさんは、のんびりした歩調で訓練場の中を歩いているだけなのに。

ーーーレオン!ゴーシュ、レオンは大丈夫なのか?早く治癒玉を使え!
ーーーネイサン殿下、ナイフに毒が塗られていたようです。解毒が必要です。
ーーー何?どういうことだ?解毒?
ーーー治癒玉だけでは治療ができないのです。
ーーー治癒玉が効かないだと!?

脳裏に流れる絵の中に涙ホクロがある金髪の王子が現れた。レオノールさんの様子を見て蒼白な顔になっている。
レオノールさんは左肩の肩の傷口から毒が広がったのか、首から顔の左半分が黒く変色してきていた。もう目が虚だ。

ーーーレオン!しっかりして!レオン!もう勝手に一人で街歩きなんかしないから!
ーーーネイサン……殿下……、ご、無事…で……、よかっ……ゴフッ……。
ーーーレオン!レオン!

口から血が溢れ出たと思ったらレオノールさんは首から力が抜けたようにダランとした。うっすら目を開けていたけれど、もう何も見えていないみたいだった。

ネイサン殿下が悔しげに目をぎゅっと瞑る。

少し雰囲気が違う場面。場所は同じに見える。フードを被ったネイサン殿下が楽しそうな雰囲気で歩いていて、屋台に並んでいるアクセサリーを覗き込んだ。
その時、駆け寄ってくる足音、ネイサン殿下が顔を上げた時、見えた人物は手にナイフを持っていた。
ネイサン殿下はハッとしながらもその場に凍りつく。
ナイフを遮るようにネイサン殿下の前に人影が現れネイサン殿下が突き飛ばされた。
石畳の地面に転んだネイサン殿下が顔を振り向かせる。その視線の先でレオノールさんが血を流して、ゆっくりと倒れていく。

ーーー僕がお忍びで街歩きなんてしたから!
ネイサン殿下の叫ぶような声が響いた。


「クリス?どうした?何で泣いているんだ?」
「え?」

兄上に肩を揺さぶられて、僕の目から涙が溢れていたことに気がついた。
あれ?僕って妄想で泣いてたの?大丈夫かな。

急いで袖で涙を拭いていると、ゴーシュさんが訓練場を一周して戻ってきた。あまり広くないからなぁ。
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