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第1章
第60話 蛙のオモチャ
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「きゃっ。」
少し離れた場所でシェリル嬢が小さく悲鳴をあげたのが聞こえた。ハロルド君が素早くシェリル嬢の背中を支えている。
「あ、ありがとう。ハロルド。」
「この辺、ぬかるんでいるよ。気をつけて。」
「はい……。」
ぬかるみに足を滑らせただけみたいだ。スライムに攻撃されたのでなくて良かった。シェリル嬢はハロルド君に助け起こされた後顔を赤らめて俯いた。
「……。」
「……。」
ハロルド君も目を伏せていて、しばし沈黙の間ができていた。
少し間を置いてからハロルド君が顔を上げて、シェリル嬢に何か言いかけた時、ぬっと横から手が伸びて、ピョンと小さい何かが飛んだ。
「うわ!」
「きゃっ!」
ハロルド君とシェリル嬢が驚いた様子でちょっとのけぞった。バランスを取るように数歩後ろ後退した
「あはは!ハロルドの驚いた顔ったら!」
いつの間にか二人のすぐそばまで来ていたネイサン殿下がケラケラ笑っている。手には小さな箱を持っていた。
「真面目なハロルドでもそんなびっくり顔するんだな。」
「よして下さい!揶揄うのは!」
「あはは!」
シェリル嬢は殿下に釣られたのか大笑いしている。
ハロルド君はズレた眼鏡を直しながらネイサン殿下に呆れた声で言った。
あれ、この光景……。昨日の夜、脳裏に浮かんだ場面にそっくりだ……。
「あ、なんだ。」
シェリル嬢は地面を見下ろしてからそう言って身を屈めた。
「蛙のオモチャじゃないの……。」
ふぅっと大きく息を吐くシェリル嬢。悪戯が成功してニマニマしているネイサン殿下。無表情だけどちょっとムッとした様子のハロルド君。
「こういう場所で出すと、本物っぽいだろう?」
「こんな場所で揶揄わないでほしいです。」
ハロルド君は、小さくため息をついてから、指先で帰るのおもちゃを摘み上げて、ハンカチで拭いている。
ハロルド君の手元を見つめながら、ネイサン殿下が肩をすくめた。そして少し首を傾げて訊ねた。
「ねえ……、ハロルドとシェリルは婚約しないの?」
「……どうして急にそんなことを?」
「二人、仲が良いから。」
「!!」
ネイサン殿下にそう訊かれてハロルド君とシェリル嬢はハッとして顔を上げた。ハロルド君は訝しげにネイサン殿下を見た。ネイサン殿下はニッと笑みを浮かべている。
シェリル嬢が耳まで真っ赤になった。バタバタと手を横に振って慌てたように言う。
「わ、私は一人娘で家の後継ぎなので……!その……。」
シェリル嬢の声が少し悲しげだった。ハロルド君は蛙のおもちゃを箱の中に戻して両手でネイサン殿下に押し付けた。
「……こんな場所でする話題じゃないと思います。」
「そうなんだけどさぁ。仲良さそうだったからさぁ。」
ネイサン殿下が悪びれない笑顔を二人に向けている。
ーーー私は一人娘で、ナスタチウム辺境伯家を継がないといけないと思っていたのに。両親にもそう言われて育ったのに……!
ーーーシェリル……。
ーーーだから……!テッセン伯爵家の後継者のハロルドとは結婚できないって……!そう思ってたのに!……諦めていたのに……!
ーーーシェリル、もう僕は婚約者がいる……。
ーーーそれはわかっているわ。だけど、どうしても考えてしまうの。弟が生まれるのがもう少しだけ早ければって……。それか、弟が生まれなければ諦めがついたのにって…‥。
河原で三人の様子を眺めていたのに、急に脳裏に絵が浮かぶ。声も聞こえてきた。
今度はどこかの舞踏会だろうか。豪奢な衣装で踊っている人達がフロアで踊っている姿を背にして話をしている光景だ。
舞踏会か何かだろうか。
シェリル嬢は明るい青色のドレスを着て、胸元にも青い宝石を身につけていた。
少し離れた場所でシェリル嬢が小さく悲鳴をあげたのが聞こえた。ハロルド君が素早くシェリル嬢の背中を支えている。
「あ、ありがとう。ハロルド。」
「この辺、ぬかるんでいるよ。気をつけて。」
「はい……。」
ぬかるみに足を滑らせただけみたいだ。スライムに攻撃されたのでなくて良かった。シェリル嬢はハロルド君に助け起こされた後顔を赤らめて俯いた。
「……。」
「……。」
ハロルド君も目を伏せていて、しばし沈黙の間ができていた。
少し間を置いてからハロルド君が顔を上げて、シェリル嬢に何か言いかけた時、ぬっと横から手が伸びて、ピョンと小さい何かが飛んだ。
「うわ!」
「きゃっ!」
ハロルド君とシェリル嬢が驚いた様子でちょっとのけぞった。バランスを取るように数歩後ろ後退した
「あはは!ハロルドの驚いた顔ったら!」
いつの間にか二人のすぐそばまで来ていたネイサン殿下がケラケラ笑っている。手には小さな箱を持っていた。
「真面目なハロルドでもそんなびっくり顔するんだな。」
「よして下さい!揶揄うのは!」
「あはは!」
シェリル嬢は殿下に釣られたのか大笑いしている。
ハロルド君はズレた眼鏡を直しながらネイサン殿下に呆れた声で言った。
あれ、この光景……。昨日の夜、脳裏に浮かんだ場面にそっくりだ……。
「あ、なんだ。」
シェリル嬢は地面を見下ろしてからそう言って身を屈めた。
「蛙のオモチャじゃないの……。」
ふぅっと大きく息を吐くシェリル嬢。悪戯が成功してニマニマしているネイサン殿下。無表情だけどちょっとムッとした様子のハロルド君。
「こういう場所で出すと、本物っぽいだろう?」
「こんな場所で揶揄わないでほしいです。」
ハロルド君は、小さくため息をついてから、指先で帰るのおもちゃを摘み上げて、ハンカチで拭いている。
ハロルド君の手元を見つめながら、ネイサン殿下が肩をすくめた。そして少し首を傾げて訊ねた。
「ねえ……、ハロルドとシェリルは婚約しないの?」
「……どうして急にそんなことを?」
「二人、仲が良いから。」
「!!」
ネイサン殿下にそう訊かれてハロルド君とシェリル嬢はハッとして顔を上げた。ハロルド君は訝しげにネイサン殿下を見た。ネイサン殿下はニッと笑みを浮かべている。
シェリル嬢が耳まで真っ赤になった。バタバタと手を横に振って慌てたように言う。
「わ、私は一人娘で家の後継ぎなので……!その……。」
シェリル嬢の声が少し悲しげだった。ハロルド君は蛙のおもちゃを箱の中に戻して両手でネイサン殿下に押し付けた。
「……こんな場所でする話題じゃないと思います。」
「そうなんだけどさぁ。仲良さそうだったからさぁ。」
ネイサン殿下が悪びれない笑顔を二人に向けている。
ーーー私は一人娘で、ナスタチウム辺境伯家を継がないといけないと思っていたのに。両親にもそう言われて育ったのに……!
ーーーシェリル……。
ーーーだから……!テッセン伯爵家の後継者のハロルドとは結婚できないって……!そう思ってたのに!……諦めていたのに……!
ーーーシェリル、もう僕は婚約者がいる……。
ーーーそれはわかっているわ。だけど、どうしても考えてしまうの。弟が生まれるのがもう少しだけ早ければって……。それか、弟が生まれなければ諦めがついたのにって…‥。
河原で三人の様子を眺めていたのに、急に脳裏に絵が浮かぶ。声も聞こえてきた。
今度はどこかの舞踏会だろうか。豪奢な衣装で踊っている人達がフロアで踊っている姿を背にして話をしている光景だ。
舞踏会か何かだろうか。
シェリル嬢は明るい青色のドレスを着て、胸元にも青い宝石を身につけていた。
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