転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
62 / 334
第1章

第62話 魔魚釣り?

しおりを挟む
ーーー旦那様にお手紙を出しましょう。このままではお嬢様がお倒れになってしまいます。
ーーーお父様はお仕事がお忙しいから手紙を読んでくださるかわからないわ。それに……、新しいお母様に私が反発しているだけってお考えになるんじゃないかしら。
ーーーそんな……!

脳裏の絵の中のリネリア嬢は沈んだ様子でずっと俯いたままだ。そんなリネリア嬢をメイドのノンナさんが懸命に励ましているようだだk。

ーーー先月お帰りになった時も、『新しいお母様の言うことをよく聞きなさい。妹とも仲良くしなさい。』っておっしゃっただけだったもの。
ーーー……旦那様ともっとお話しをなさって下さい。そうしたらきっと……!
ーーーそうね……。ノンナにも心配をかけてしまってごめんなさいね。
ーーー謝らないで下さい!お嬢様!

リネリア嬢が少し顔を上げて、震える唇で笑みを作った。
お団子頭のノンナさんが、目の端を指で拭う。

そんな光景が脳裏をよぎって消えて行った。目の前のお団子髪のメイドさんが水の入った木桶を両手で受け取ろうとしているところに声をかけた。

「あの、ノンナさん。そのお水、馬車まで運びましょうか?」
「え、そんな。あれ?なぜ私の名前を?」
「……ノンナさんで合ってましたか。」
「はい。誰かが私のことを呼んでいるのをお聞きになられたのですね!水は一人で運べます!私見た目より結構力が強いのです!」

ノンナさんはえいっと軽くガッツポーズをした後、木桶を受け取り小走りに馬車の方に戻って行った。確かに、水の入った木桶を持った状態なのに軽やかな足取りだ。

「ノンナさん」と言う名前は、脳裏に浮かんだ名前と一致した。
思い浮かんだ光景は、リネリア嬢のお母上が亡くなって、継母と欲しがり妹がやってきた後の話なのかな。

これは単なる僕の妄想なんだろうか。それとも、これから起きる未来の話なのか……?

バシャン!
川の方から水を叩くような音が聞こえてきた。川の水面近くに赤い大きな影。魔魚だ。

反射的に弓をつがえて、矢を射る。魔魚を獲るつもりで、さっき矢に結びつけていたロープがビヨーンと伸びる。

「あ!おい!」

兄上の手がこちらに差し出された。
矢が刺さった魔魚が跳ねたのとほぼ同時に、兄上が僕のリュックから出ていたロープの端を掴んだ。

「あ!そうだった!」

ロープの端をどこにも結びつけないまま矢を放ってしまったことに気がついた。慌てて僕もロープに飛びつく。
ピーンと張ったロープがグッと川の方に勢いよく引っ張られる。ロープを引かれる勢いに尻餅をつきそうになる。

駆け寄ってきた人影。数人の騎士の手がロープに伸びた。
ジャンさん達だ。

「おおー!大物じゃん!」
「ロープを切らすなよ!網か何かないか?」

ジャンさん達以外にもわらわらと人が集まってきた。

「引っ張れー!」

掛け声と共に何人もの騎士達に加勢されてロープが引っ張られ、魔魚が宙を飛んだ。
ダーンと魔魚が地面に打ち付けられた時、ふわっと熱いものがロープを伝って入ってきた。

歓声が沸き起こる。あれ?何か騒ぎになっちゃってない?

「おお!これが、魔魚か?」

ネイサン殿下がこちらに向かって駆けてくる。シェリル嬢やハロルド君もその後ろに続いている。
兄上は魔魚のところに駆けて行って、魔魚の背中に突き刺さった矢を引き抜いた。矢は歪んでいた。折れてたら、魔魚には逃げられてロープを結んだところだけになってたかもしれない。ギリギリだね。

「……矢を使った釣りだったのね……。」

レオノールさんが矢を覗き込んで呟くように言った

兄上が魔魚の尻尾を掴んで持ち上げたのを見て、僕は急いで兄上の方に駆け寄った。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...