転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

文字の大きさ
70 / 334
第1章

第70話 ズレ

しおりを挟む
もう一つ気になったのは、殿下がレオノールさんを思い出している時の台詞だ。

ーーーあの頃、僕はマッドキャタピラ一匹倒すのも苦戦していて……。
ーーーえええ?ネイサン様にそんな頃があったんですか?
ーーーああ、後ろから跳ねてきたジャンピングラットにも気が付かなくて、レオンに助けられた。

登場した魔獣の名前は、マッドキャタピラーとかジャンピングラットだった。
今日、殿下が討伐に苦戦していたのはスライムであってマッドキャタピラーではなかった。
でも、魔獣討伐に苦戦していたと言う事と後ろから飛んできた魔獣からレオノールさんが助けたという出来事が、殿下の台詞と重なるんだよね。

……だけど、どうしてマッドキャタピラー?なんでスライムじゃないんだろう。
あの場面のネイサン殿下はレオノールさんが亡くなったと言う話をしていた。未来の話のようでいて、今日出来事とちょっと違う。

マッドキャタピラーを討伐する件は別で起きるとしても、過去を思い出して語る時にマッドキャタピラーのことは話題に出してスライム討伐の件は一言もないのは妙な気がする。

「マッドキャタピラーもスライムも」って話題に出すならわかるんだけど。スライムに苦戦した話は言いたくなかった?でも、マッドキャタピラーも、動きが鈍い魔獣だし討伐難易度はスライムと大差ない気がするんだ。

完全に僕の妄想の話だったら、殿下の回想シーンで語るのはスライム討伐の話になるでしょう?

何だかその微妙な「ズレ」がちょっとモヤモヤする。

……僕は……イメージした光景が悲しい出来事なら、実際に起きなければ良いと思う。それならいくら「ズレ」が発生したって良いんだよね!

だから、レオノールさんに「呪いの毒」の解毒剤を渡したい。
リネリア嬢のお母上が亡くなってその後に意地悪な継母や欲しがり妹がやってくるというのなら、リネリア嬢のお母上の事故自体が起きないでほしいと思う。

僕が見た光景が未来だっとして、起きてほしくないことを回避したら、未来が変わって、僕が見た光景は未来じゃなくなるんじゃないかな。

未来のことではあるだけど、悲しい出来事を回避することはできる、と思いたいのかもしれない。
どこかの地点で見た未来であるというだけ。

現時点から何か未来を回避するような行動を起こしたら、変わりうる未来だと……。

マッドキャタピラーの話は、もしかして「ある時点での起こりうる未来」だったのかもしれない。

それが「スライム」に変わったのは何故だろう。

兄上が「スライム河原」に案内したから?兄上が未来を変えた?
だけど、マッドキャタピラー狩りの場所なんて思いつかない。

マッドキャタピラーがゲンティアナ男爵領に全く生息していないわけじゃない。
でも兄上に「マッドキャタピラー狩り」か「スライム狩り」かの選択肢があって、「スライム狩り」を選んだというわけじゃない。
そもそも意図して行動を変えるようなことはしてなかったと思う


兄上が案内を頼まれた時点で、もう「ある時点からの未来」とは違う方向に進んでいたんじゃないだろうか。
ただの妄想だったのに、こじつけて考えすぎているのか?

「……色々考えすぎて眠れない……。」

グデグデとベッドの上で身をよじってから、ぐわーっと両腕を伸ばして伸びをする。深くため息をついて起き上がった。

眠れないなら、脳裏に浮かんだことを描いておこう。魔道具に魔力を通す。ぽわっと白っぽい光が文机の上を照らす。

ランプもあるともっと明るくなるだろうけど、火は起こせないんだよね。

兄上みたいに手軽に火を起こせれば良いんだけど。僕は、火魔法は得意じゃない。頑張ったら火花が出たことはあるから、全く火属性を持っていないわけじゃないとは思うけどなぁ。

うまく制御できていないから、夜に一人で部屋の中で火を起こすなんて危ないことはできない。ちょっとでも床を焦がしたりしたら母様に絶対怒られる!

小さい火だけでも失敗なく起こせるように今度練習しよう。

「誰かランプを使っていたら、火を貰ってこれるかなぁ。」

文机のところまで行って、文机の上に並べられた絵に目を落とす。

ネイサン殿下が蛙でハロルド君とシェリル嬢を揶揄っている場面だ。
改めて見ると、やっぱり昼間みた出来事は脳裏に浮かんだ光景に似ていた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。 辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

処理中です...