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第1章
第72話 酷い光景担当
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脳内に光景が浮かんでくる現象は続いていたけれど急に場面が大きく変わった。
机と椅子が沢山並んでいる場所。教室か何か?
その教室の窓際近くに座って本を読んでいたハロルド君のところに、シェリル嬢が近づいてきた。
ーーーハロルド……。あの、ちょっと相談があるんだけど……。
ーーー何だい、シェリル嬢。
おずおずとした様子でハロルド君に話しかけるシェリル嬢、ハロルド君は表情を変えずにチラリとシェリル嬢に目を向けた。シェリル嬢は深刻そうに目線を周囲に巡らせた。
ーーー……。あの……、人がいる場所ではちょっと……。空き教室か、裏庭で話がしたいのだけど。
ーーーああ……。ごめんね。シェリル嬢。僕は婚約者ができたんだ。だから、婚約者以外の令嬢と二人きりになることはできないんだ。
シェリル嬢は少し背中を丸めてヒソヒソ声で教室の外の方を指差した。ハロルド君はパタンと音を立てて本を閉じた。
来月のピクニックの誘いでも断るかのような軽い口調のハロルド君の言葉にシェリル嬢は目をまんまるくした。
ーーーえ!?
シェリル嬢が訊き返そうとするのを阻止するかのようにハロルド君が少し強めの声をだす。
ーーーそれと……。少し言いにくいのだが、婚約者が居るから今後は呼び捨てにしないでくれると助かる。名前呼びはもちろん構わないが。
シェリル嬢は一瞬凍りついた表情を浮かべた後、口元だけ強引に働かせるかのように口を開いた。
ーーーあっ……。そ、そうよね、婚約したんだものね……。で、でも、急だったのね。
ーーーああ、……母上がラミルのことで憔悴していたから、少しでも安心させてあげたくてね。
ーーーそ、そうだったのね……。
ーーーそれで。シェリル嬢からの要件の話だけれど、食堂の隅の方なら、二人きりではないが話し声が他に聞こえにくいと思うが、どうだろう。
ーーーあ!ええと……。ううん!もう、もういいの!また今度!……あ!……ご婚約おめでとう!ハロルド……様。
淡々と受け答えをするハロルド君。シェリル嬢は無理に明るく振る舞っている様子だった。
ハロルド君、婚約したのか。
後継者同士だから婚約できないっていう話だったのに、辺境伯様のところに男の子が生まれて、シェリル嬢は辺境伯家の後継者じゃなくなってしまった?
何それ、酷い。
ハロルド君に相談しに行ったら、ハロルド君はもう他の誰かと婚約していた。
酷い。
婚約できないって話だったから、ハロルド君が他の人と婚約をしてしまうのは仕方ないことかもしれないけど、シェリル嬢可哀想……。
ちょっと脳内の光景担当さん、なんとかしてください。
筆を筆洗から取り出して布で拭いた後、くるくると所在なげに筆を回した。
悲しい場面を描くのは気が重い。
「うーん……。でも……。」
とりあえず、脳裏に浮かんだ場面は書留めておく。台詞一緒に。朝起きたら忘れちゃってるかもしれないからね。
昼間に思い浮かんだことも、描いておかないと……。
文字がよく見えるように、白っぽく塗料を塗った板に浮かんできた台詞を書き留めながら、シェリル嬢のことを少し考えた。
スライム河原にいるときも「婚約」だとか「一人娘」という会話をしていた。
脳裏に浮かんだ光景が未来に起こることかどうかは判断つかないけれど、シェリル嬢は、今の時点では辺境伯家の唯一の子供で、後継という立場なのは本当のことなんだと思う。
シェリル嬢の家の辺境伯家に子供がシェリル嬢一人なら、将来の結婚相手は婿養子に入ってくれる人ということになるんだろう。
家を継ぐから他の家の後継の人とは結婚は出来ないんだ。
未来の話は別として今の時点では状況的には現実のシェリル嬢も、脳裏に浮かんだ光景のシェリル嬢も一緒だ。
机と椅子が沢山並んでいる場所。教室か何か?
その教室の窓際近くに座って本を読んでいたハロルド君のところに、シェリル嬢が近づいてきた。
ーーーハロルド……。あの、ちょっと相談があるんだけど……。
ーーー何だい、シェリル嬢。
おずおずとした様子でハロルド君に話しかけるシェリル嬢、ハロルド君は表情を変えずにチラリとシェリル嬢に目を向けた。シェリル嬢は深刻そうに目線を周囲に巡らせた。
ーーー……。あの……、人がいる場所ではちょっと……。空き教室か、裏庭で話がしたいのだけど。
ーーーああ……。ごめんね。シェリル嬢。僕は婚約者ができたんだ。だから、婚約者以外の令嬢と二人きりになることはできないんだ。
シェリル嬢は少し背中を丸めてヒソヒソ声で教室の外の方を指差した。ハロルド君はパタンと音を立てて本を閉じた。
来月のピクニックの誘いでも断るかのような軽い口調のハロルド君の言葉にシェリル嬢は目をまんまるくした。
ーーーえ!?
シェリル嬢が訊き返そうとするのを阻止するかのようにハロルド君が少し強めの声をだす。
ーーーそれと……。少し言いにくいのだが、婚約者が居るから今後は呼び捨てにしないでくれると助かる。名前呼びはもちろん構わないが。
シェリル嬢は一瞬凍りついた表情を浮かべた後、口元だけ強引に働かせるかのように口を開いた。
ーーーあっ……。そ、そうよね、婚約したんだものね……。で、でも、急だったのね。
ーーーああ、……母上がラミルのことで憔悴していたから、少しでも安心させてあげたくてね。
ーーーそ、そうだったのね……。
ーーーそれで。シェリル嬢からの要件の話だけれど、食堂の隅の方なら、二人きりではないが話し声が他に聞こえにくいと思うが、どうだろう。
ーーーあ!ええと……。ううん!もう、もういいの!また今度!……あ!……ご婚約おめでとう!ハロルド……様。
淡々と受け答えをするハロルド君。シェリル嬢は無理に明るく振る舞っている様子だった。
ハロルド君、婚約したのか。
後継者同士だから婚約できないっていう話だったのに、辺境伯様のところに男の子が生まれて、シェリル嬢は辺境伯家の後継者じゃなくなってしまった?
何それ、酷い。
ハロルド君に相談しに行ったら、ハロルド君はもう他の誰かと婚約していた。
酷い。
婚約できないって話だったから、ハロルド君が他の人と婚約をしてしまうのは仕方ないことかもしれないけど、シェリル嬢可哀想……。
ちょっと脳内の光景担当さん、なんとかしてください。
筆を筆洗から取り出して布で拭いた後、くるくると所在なげに筆を回した。
悲しい場面を描くのは気が重い。
「うーん……。でも……。」
とりあえず、脳裏に浮かんだ場面は書留めておく。台詞一緒に。朝起きたら忘れちゃってるかもしれないからね。
昼間に思い浮かんだことも、描いておかないと……。
文字がよく見えるように、白っぽく塗料を塗った板に浮かんできた台詞を書き留めながら、シェリル嬢のことを少し考えた。
スライム河原にいるときも「婚約」だとか「一人娘」という会話をしていた。
脳裏に浮かんだ光景が未来に起こることかどうかは判断つかないけれど、シェリル嬢は、今の時点では辺境伯家の唯一の子供で、後継という立場なのは本当のことなんだと思う。
シェリル嬢の家の辺境伯家に子供がシェリル嬢一人なら、将来の結婚相手は婿養子に入ってくれる人ということになるんだろう。
家を継ぐから他の家の後継の人とは結婚は出来ないんだ。
未来の話は別として今の時点では状況的には現実のシェリル嬢も、脳裏に浮かんだ光景のシェリル嬢も一緒だ。
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