転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

第1章

第80話 午前の集中訓練

……ルドおじさんがこの地に行くと決めた時、ルドおじさんの奥さんやお子さんはついてきてくれなかったんだなぁ……、と考えるとちょっと寂しい気持ちになる。色々事情はあったのかもしれないけど。

ルドおじさんの奥さんやお子さんがいつかゲンティアナに来たら良いのになぁ、などと考えながら屋敷に戻った。あまり時間に余裕はなかったので着替えたりとかせずすぐに訓練場に向かう準備をする。

荷物を部屋に置いてから昨日と同じようにリンゴを半分に割って、兄上と分け合って食べる。今日は厨房でジャックから木苺も貰ったのでそれも食べた。すごい酸っぱい！！でも瑞々しくて美味しい！

訓練場に沢山気配がするなと思ったら昨日より沢山の騎士が待機していた。
殿下は最初から木剣を手にしている。

「昨日のスライム狩りが不甲斐なかったので、午前中はここで集中して稽古をすることにした！」

殿下はそう言って爽やかな笑顔を見せた。
殿下の後ろに控えていたゴーシュさんも口の端を上げた。

「朝食の後もこの場所を使わせてもらいたい。訓練のサポートは我々が行うのでその点は気にしないでくれ。」

どうやら午前中は訓練場で訓練をすることになって、僕達の案内は不要と言うことだ。それならこの後午前中一杯は自由にしていて良いってことだね。それなら先に言って欲しかったなあ、と思うけど仕方ないのかな

兄上も同じことを考えていたの皮なかをらないけどキョロキョロと訓練場を見回してから僕の耳元で囁いた。

「設備も問題なさそうだから、出ていようか。」
「うん！……あ、リネリア嬢に魔石水を渡しておくよ。」

殿下とシェリル嬢とハロルド君は剣術エリアにいて、剣の稽古を始める準備をしていたけれど、リネリア嬢は一人だけ的場の所に立っていた。
リネリア嬢は魔法の練習をするようだ。

「リネリア嬢、おはようございます！」
「おはようございます。」

僕と兄上が近づくと、リネリア嬢は側に居た騎士との会話を止めてこちらを向いてくれたので元気よく挨拶をした。
リネリア嬢も挨拶を返してくれる。

「午前中一杯、ここで訓練だそうですね。」
「そうなのよ。少しでも上達したいから魔法の練習をするわ。」
「魔力不足に気をつけてください。魔石水を置いておきますので良かったらどうぞ。」
「ありがとう！助かるわ！」

リネリア嬢は弾けるような笑顔を見せた。喜んでくれて良かった！

ハーブ入りの魔石水である程度魔力を回復させることはできるけれど、魔法を使い放題できるわけじゃない。回復にも限度があるので、頭が痛くなったり魔力不足の方向が出てきたら無理しないようにと伝えておいた。用法容量を守ってお使いください。

「ふふ。お医者様みたい。」

くすくすとリネリア嬢が口元に手を添えて笑った。それから、的の方に目を向ケルト一瞬息を止めてから、小さくため息をついた。

「さあ、今日も練習しなくっちゃ。」

さっきまで元気だったの的を見たら急に憂鬱そう。

「魔法、好きじゃないんですか？」

気になって訊いてみたら的に向かって伸ばしかけていた手を止めて、リネリア嬢が僕の方を振り向いた。

「あ、すみません。邪魔しちゃって……。」
「いいえ。良いのよ。」

僕が謝るとリネリア嬢は、少し微笑んで首を横に振った。

「魔法は……、特に好きでも嫌いでもないわ。お勉強と一緒よ。」

お勉強でも好きな科目とかあると思うけど……、それは言わずに次の言葉を待った。