転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第89話 匂い

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空気中に溶け込んでいくように消えていく魔法陣の光の粒を見守った後、僕は兄上にもう一度訊ねてみた。

「ね。魔法陣、見えた?」
「いや。リュックが出てきたのは見えたけど。」
「ええー?」

ボブにも聞いてみたけど魔法陣は見えなかったらしい。もう一度試してみたけど、やっぱり魔法陣が見える。二回試してみたら、何となくだけど魔法陣の意味がわかったような気がした。

「魔法陣は魔力が流れた跡なんだと思う。」
「なるほど。クリスは魔力に敏感だから見えたのかもな。」
「そうなのかもね。……ねえ、魔法陣が出るってことは、魔力が見える人からすると『収納』したことがバレバレってこと?」

人が多い町の中とかで、大きな魔法陣が思いっきり浮かび上がったりしたら、目立つよね……。

「どうだろ。母上が『収納』を使う時に魔法陣が見えたことあったか?」
「うーん。わからない。見たことはないと思う。」
「もしかしたら『収納』を使うのに慣れたら他の人には見えなくできるとかあるのかもしれないぞ。今は慣れてなくて魔力を過剰に使ってるから見えたのかも。」
「そうかも?」
「検証は、夕方帰ってからとかにしよう。とりあえず『収納』獲得おめでとう。」
「兄上もおめでとう!」

兄上と「収納」スキル獲得のお祝いを言い合った。ずっと欲しかったスキルだから本当に嬉しい。二人でほぼ同時に「収納」スキルを得たのは、強い魔獣を一度に複数狩ったからじゃないかと言うのがボブの推測だ。
強い魔獣を倒すと魔力が増えたりするし。
確かに泉の向こう岸の魔獣を狩ると、普段より「何か」を得たような感覚があっ

ボブも同じくらい魔獣を狩ったけど、ボブの場合はもっと別の方向で進化したみたいだとのことだ。「運搬」スキルが強化されたっぽいのと、魔獣を狩る度にフック投げの威力が増したのを感じたそうだ。
フック投げは格好いいから僕も強化したい!

念願の「収納」を得ることが出来たけど、魔力を沢山消費するかもしれないことは心配なので今はとりあえず「収納」は使わずに「運搬」をして帰ることにした。

一応属性に合わせた魔石水を飲んで魔力の補給もしておいた。

「収納」を使わずに「運搬」でも重みを感じなく出来るので帰り道は苦にならない。リュックからこぼれ落ちないようにとかを気にすれば良いだけだ。
新しく「収納」スキルを得たことを考えると、気持ちがウキウキする。
早く、午後の狩り案内も終わらせちゃって「収納」の検証がしたいなぁ。

足取り軽く、と言っても実際に歩いているのは馬の方だけど、森の中を来た道を戻る。
もうしばらくしたら森を抜ける一本道に出ると言うところで、兄上が急に馬の速度を落として、周囲を見まわし始めた。

「……何か……匂わないか?」

兄上に言われて、意識を周囲に向けると、荒々しく浮き足だったみたいな気配というか残滓のようなものを感じた。それに何となく焦げ臭い。

「焚き火みたいな感じ?」
「そう。何か焦げたみたいな匂い。」

クンクンと息を吸い込み周囲の匂いを嗅いでみると木を燃やしたような匂いがする。

「……誰か火魔法を使ったんじゃないですかねぇ。」

ボブも訝しげに周囲を見回す。

「森の中で火魔法を使うのか?」

兄上が険しい顔をして馬を進めながら周囲を注意深く見回した。

行きで右の道に進んだ時の分岐点に辿り着いて一度馬を止めてから、3人揃うのを待ってから行きの時に進まなかった方の道に進んだ。

道なりに進むとオオトカゲの沼地の方面だ。
オオトカゲの沼地は、少し先に進んだ後に道を逸れて藪を抜けたところにある。

普段なら馬を適当な木に繋いでおいて徒歩で藪を越えていくのだけど、警戒して馬に乗ったまま進む。近くに人がいるような気配は感じないのだけど、念の為だ。
藪を越えず、少しだけ迂回をして木々の間を通り抜けた。

沼地に近づくとはっきりと焦げ臭い匂いがしてきた。
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