転生モブ一家は乙女ゲームの開幕フラグを叩き折る

月野槐樹

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第1章

第120話 逃げ作戦を考える

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騎士に指示を出しに言った母様はすぐに戻ってきた。兄様と僕に順番にハグする。

「すぐに逃げてきたのは偉かったわね。怪我してなかったから良いけれど……。当分は狩りはボブと一緒に行ける時にしなさい」
「はい」
「……はぁい」

母様の口調がちょっとだけ厳しい。もしかして怪我してたら狩りに行くのは禁止になってたかもしれないのかな。
僕達が馬に乗っていなかったり、相手も馬に乗っていたらあっさり逃げることはできなかったよね。

もしも徒歩で移動中に同じようなことがあったらどうしよう。
兄上も僕もそれなりに走るのは速い方かなと思うけど、相手が大人なら追いつかれちゃうかもしれないよね。

そうなると先制攻撃をしてから逃げるのが良いかな。

「クリス、先制攻撃なんてダメよ」
「え?」

声に出てたらしい。母様が目を細めてちょっと怖い顔をした。

「そうだな。相手が盗賊とかなら、まあ、アリかもしれないけど」
「盗賊だなんて!盗賊がいるような場所には出かける許可は出さないわよ!」

兄上の言葉に母様がキッと眉を上げて兄上を睨んだ。兄上が肩を竦める。

「例えだよ。盗賊なら退治したとしても誰にも文句は言われないってこと」
「……まあ。そうね」

母様はフッと小さく息を吐いた。「怒り」みたいな気配が弱まった。兄上はちょっと首を傾けて僕を見つめた。

「いいか?クリス。今日みたいな相手だと先に攻撃をした方が悪いってされるかもしれないんだ」
「ローレン、どちらが悪いという事になるかという事だけでなくて、攻撃をすれば反撃もされる可能性があるのよ。争いがあれば怪我をする可能性があるの!」
「まあ、そうだけど……」

兄様の言葉に母様が反論する。見解の相違があるみたいだ。

兄上的には後からこちらが悪く言われる可能性があることは避けたいってことなんだろうけど、母様としてはとにかく僕達に怪我をしてもらいたくないんだろうと思う。

僕達に絡んできた人達は「お貴族様の騎士」って言っていた。多分、平民なのだろうと思うけれど、雇い主が偉いんだぞって話だよね。
うちに訓練目的で来ている家の人達だとしたらゲンティアナ男爵家より爵位が上の人達だ。うちが悪いって話になっちゃうとまずいんだと思う。

先制攻撃作戦はダメだったね。
だとしたらどうするのが良いかな。

先制攻撃って言ったけど別に戦いを有利に運ぶ為じゃなくて逃げる為なんだよね。
今日みたいにまた絡まれた時に、こちらが馬で相手が徒歩なんて逃げるのに有利な状況じゃない場合のことだ。
今日は、風魔法で砂を吹き上げて追いかけるのを邪魔したけど、もし砂が無いような場所だったらうまくいかないよね。
「収納」に砂をストックしておこうかな。

逃げる途中に落とし穴を掘るっていうのはどうだろう。
積極的に穴に落とすんじゃなくて、追いかけてきたら穴に落ちたって事にならない?
僕も兄上も土魔法は得意じゃないけど、魔獣を埋める時に使っている穴掘り用の土の魔法陣魔石をもっと用意しておこう。魔力の強い魔石を使ったら大きな穴が開けられるかもしれない。

背びれイタチの狩りみたいに、土に埋めて動かせなくできたら良いんだけど、動けなくさせたら先制攻撃になっちゃうだろうか。

「……クリス、不穏なこと考えてないよな?」
「逃げる時のことだよ」
「何か新しいことをやる前には相談しろよ」
「うん」

逃げる時は兄上と意識を合わせておかないといけないからね。
走りながら土の魔法陣魔石を投げて、一緒に穴を飛び越える練習とかしたいな。
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