蓮華

鎌目 秋摩

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島国の戦士

第25話 幼き精鋭たち ~麻乃 2~

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 振り返って離れた茂みの奥を、麻乃はジッと見つめた。森の奥から気配に加えて殺気があふれてくる。

(馬鹿な子たちだ。気配どころか殺気が丸だしじゃないか)

 大きく息をつき、脇差しを鞘に納めると、呼吸を整え直して意識を集中した。
 六人全員でくる。二人ずつ、三手に別れている。前に二組、少しだけ離れて一組。少しずつ間合いが詰められていく。

「もういいよ。まどろっこしいのは嫌いだ。手前の二組とも出てきなよ。その後ろの木陰にいる二人もね」

 大きな声で呼びかけると、前方の茂みから先の二組が姿を見せた。四人とも、もう刀を抜いている。

「後ろの二人も早く出といでよ」

 四人から目を逸らさず、さらに声をかけると、奥の木の陰から残りの二人が姿を見せた。

「あんたたちねぇ……やる気なのはいいんだけど、気配が強すぎるんだよ。相手に姿を見せる前に殺気を放つなんてもってのほかだ。ご丁寧に自分の居場所を相手に教えて、倒しにきてくれって言ってるようなもんじゃないか」
「オバサンの癖に、まるでもう私たちを倒したような口ぶりじゃん」

 女の子の言葉に麻乃はカチンときた。どうやら目の前の子どもたちは、たいそう腕前に自信を持っているらしい。
 麻乃の立場を知ってのこの口調。ほんの少しだけ、意地悪な気持ちがムクムクとわいてくる。
 麻乃は脇差しを抜きもせず、挑発的に素手のまま手招きをした。

「それから、ついでに言うと、目上に対する態度も悪い。もうね、面倒だから。全員でまとめてかかっておいで」
「あんまり俺たちを舐めないほうがいいぜ、オバサン!」

 先の四人が一斉に斬りかかってきた。
 サッと横に走りだし、四人が追いかけてきたのを確認してから間合いを開けて振り返る。先頭の男の子が振りかぶった懐に入り込むと、手首と襟首をつかみ、背負い投げた。

「ほら~。隙を見せない相手に大きく振りかぶるから。懐ががら空きになると、こうやって投げられるんだよ」

 すばやく抜いた脇差で、仰向けに倒れた子の組ひもを斬った。
 三人の足が一瞬だけ止まったけれど、一人目のすぐ後ろにいた女の子が怯むこともなく横流しに斬りつけてきた。わざと木を背後にして屈んでかわす。思ったとおり、刃が背後の木に当たり幹に食い込んだ。

「くそっ!」
「自分の間合いをしっかり把握していないから、そういうことになる」

 幹から刀を抜こうと焦る女の子の左腕に、切っ先を当てて組みひもを斬り弾く。残りの二人は目配せをしてうなずき合い、左右から麻乃に斬りかかってきた。
 左半身を退いて斜に構え、一歩下がった瞬間、一番奥にいた二人が後ろから回り込んできて、その片方が左腕を絡み取ってきた。

「腕を取った! 洸! 今だ! 組みひもを斬れ!」
「……甘いよ」

 冷静につぶやき、腕を曲げて重心をかけ、みぞおちに肘を打ち込んだ。洸と呼ばれた子がそれを見て躊躇ちゅうちょして踏みとどまる。
 うっ、とむせて屈んだ隙に左腕を振り解いた。右手で左右の子どもたちの刀をさばきながら、左手で修治の脇差しを抜いた。ズキン、と左肩の傷が痛んだ。
 目の前の二人に、今度は麻乃のほうから打ち込んでゆく。左右からわざと大きく刀身を打つと、完全に受け切れないのか、二人の力が徐々に弱まっていくのがわかった。子どもたちが焦って受け流そうとしている姿に向かって言い放つ。

「ほらほら、腰がすわってないよ。そんなんじゃ、受け切れなくなって刀を弾かれる」

 ――ガキン!
 音を立てて二人の刀が、ついにその手を離れた。

「こんなふうにね。脇差一本で刀を弾かれるなんて、恥ずかしいことじゃないか」

 二人をひと睨みすると、そのあいだを駆け抜け、まずは右側の子の組ひもを斬り落とし、振り返って左側の子の後から組みひもを斬った。
 ハタリ、とひもが落ち、二人は呆然と立ち尽くしている。

「速い……なんだ今の?」

 顔をあげた視線の先で、残りの二人も唖然として麻乃を見ている。右に握った脇差で残りの二人を指し、その目を見すえた。

「さて……あんたたち、大した自信があるようだけど……舐めているのはあたしか? あんたたちか?」

 残った二人は背筋を正して刀を構え直すと、麻乃の左腕を目がけて踏み込んできた。
 脇差を十字に構えて受け、力のこもったところで弾き返す。一瞬、ふらつきながらも、二人ともすぐにまた構え直して打ち込んできた。

「振りが大きい。手首でさばこうとするから簡単に弾かれるんだよ」

 さっき腕を取った子どもの鍔近くに打ち込み、そのまま切っ先に向けて刀身を右にすり流した。
 鋼のすり合う音が響き、勢いで万歳をするような格好になったところを、左に握った脇差しで、組みひもを斬った。

(あと一人――)

 洸と呼ばれていた子だ。刀を下段に構え、麻乃を睨みつけている。
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