蓮華

鎌目 秋摩

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島国の戦士

第210話 暗黙 ~塚本 1~

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 塚本は重い気分で詰所まできた。西詰所が、あまりにも様変わりをしていて驚いた。
 ちょっと前までは、自分たちが使っていたころと変わらず古い建物だったのが、増築、改装が成され、すっかり奇麗になっている。

 麻乃のやつが西詰所に常任になると聞いてから、突貫で工事が入ったという話しは知っていたけれど、ここまで変わっているとは思わなかった。
 入り口を開けて中へ入ると、まずは談話室へ顔を出してみることにした。

 まだ起きて談話室に残っていた中に、ちょうど大石の顔を見つけ、手招きをして呼び出す。
 廊下では誰に見られるともかぎらない。
 一番近くにあった会議室へ入った。

「おまえがここにいてくれて助かったよ」

「こんな時間に……まさか、あのことで、なにかわかったんですか!」

 大石が声を張ってつかみかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。

「まぁ、落ち着け。つい今しがたな、高田先生が戻られた。おまえと小坂、杉山を呼んでこいと言われてな」

「三人だけですか?」

「あまり大ごとにしたくないそうだ。二人だけ、呼び出して来られるか?」

「ええ、ちょうど二人は同室ですから、ほかのやつらには気づかれません。すぐに呼んできます!」

 大石が会議室のドアを思いきり開き、駆け出していこうとしたのをあわてて止めると、落ち着いて行動するようたしなめた。

 十分ほど待って揃った三人を静かに連れ出し、塚本は道場へ戻った。
 車の中で、小坂あたりがいろいろと聞いてくるかと思っていた。
 それが、誰一人として口を開かず押し黙っている。

 塚本も嫌な予感はしているが、三人が心配する気持ちも相当に大きいのだろう。
 そう思うと少しばかりかわいそうな気がした。
 道場の前まで来ると、エンジン音に気づいたのか、市原が待っていた。

「早かったな」

「ああ、大石のやつが談話室にいてな、二人もすぐに呼んで来られる状況だった」

「そうか。まぁ、とりあえず中へ入れ」

 市原にうながされてあとをついて行く三人は、緊張のせいもあってか、顔色が悪い。
 裏口のドアを開けた途端、奥からにぎやかな声が聞こえた。

「先生、三人が着きました」

 客間に入ると、もう高田たちは飲み始めていたけれど、全員が揃った途端、さっきまでのにぎやかさが消え、部屋中が緊張した空気で満ちた。

「こんな時間にすまないな、明日でも良かったのだが、少々、時間がなくてな」

「いえ、俺たちのほうは大丈夫です」

 高田の言葉に小坂が答えた。

「こちらは尾形さんと加賀野だ。顔くらいは知っているだろうが、二人とも元蓮華でな。尾形さんのほうは修治と豊穣に出ている長谷川くんの師範だ」

 小坂たちに二人を紹介してから、今度は尾形たちに向かって三人を紹介する。

「この三人が、麻乃の隊のものです。あれが隊を持ったときからずっと一緒にやっています」

 軽く頭をさげてあいさつをした小坂たちに、尾形は、そう緊張するな、と言い含めて笑ってみせてから、三人に静かに問いかけた。

「自分たちが呼ばれた理由の、見当はついているな?」

「はい、出航の日、イナミさまが海岸にいらしたときに、その場におりましたので」

「ただ……なぜ、自分たちだけが呼ばれたのか、それがわかりません」

 小坂と杉山は尾形にそう答えると、不安気な顔で高田を見つめた。

「麻乃の隊で最初から残っているやつらの中だと、おまえたちはそれなりに歳も上だ。豊浦や矢萩でも良かったんだが、あいつらでは若過ぎる」

「おまえたちなら冷静に判断ができるだろうと、高田はそう考えたんだよ」

 高田の言葉のあとを、加賀野が引き継いだ。
 確かに、三人は麻乃の隊の中でもほかのものより落ち着いていると塚本も思う。
 それに恐らく、一番、麻乃に近いだろう。

「本当なら長田くんの隊のものも含めて全員を呼び、話すのが良いのだろうが、今は時間もなければ情報も少ない。まずはおまえたちに、確実にわかっていることだけを話しておこうと思ってな」

「それにおまえたちは、誰よりも先に知っておかなければならない事情がある。わかっているな?」

 尾形が一人一人の顔をしっかりと見すえながら確認するような口調で言った。
 隣に座った大石が、ゴクリと唾を呑む音が聞こえ、塚本もついこぶしを強く握り締めた。

 考えていた以上に緊張していることを、手に掻いた汗で思い知らされる。
 不意に左の肩甲骨あたりが痺れるように痛んだ。
 つと視線を上げると、脇腹の辺りをさすっている市原の視線とぶつかった。
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