蓮華

鎌目 秋摩

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待ち受けるもの

第167話 評定 ~岱胡 1~

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 鴇汰がなにか作る気なのは、買い出しの材料を見てわかったから、急いで買い物を済ませて宿舎に戻ってきた。
 打ち合わせまでの時間を考えると、そう時間のかかるものは作らないだろう。

 でも、買い物を頼まれたということは、なにか御馳走してもらえるに違いない。
 階段を駆け上がって部屋のドアをノックする。

 ――返事がない。

「あれ?」

 もう一度、そう思ったとき、階段のほうから鴇汰の声がした。

「なんだ、もう戻ってきたのか、早かったな」

「だって、もう出かけるまでそんなに時間がないじゃないッスか。頼まれたもの、全部買って来ましたよ」

「悪いな。簡単なものしか作れないからさ、おまえ、食堂で飯だけもらってこいよ」

 部屋に入ると、鴇汰はそう言った。
 要するにご飯を炊いてる時間がないから、おかずだけ作るってことか。
 考えてみると、手間になるから食堂で食べたほうがいいような気もするけれど……。

 戻ってきたときの麻乃の隊員たちの反応を見ると、一緒に食べる、って選択肢はなさそうだ。
 少なくとも、嫌な雰囲気の中で食べるよりは、ちょっとくらい手間がかかっても、ここにいるほうが気持ち的に楽なのかもしれない。

 言われたとおり、食堂でご飯だけ調達して戻ってくると、鴇汰はもう調理に取りかかっていて、手際良く動いていた。
 チラッと横目で見ると、炒め物と汁物を作っているようだ。
 岱胡は椅子に腰を下ろして黙って待った。

「……そうだ。おまえさ、レイファーのやつらとどうやって連絡を取り合ったんだよ?」

 調理を続けながら、突然、鴇汰が問いかけてきた。

「え?」

「だからさ、なんだって月島なんかで、あいつらと落ち合ったわけ? こんなときにあんな場所で、偶然会ったなんてわけがないだろ?」

「ああ……あのときは俺たち北浜にいたんですけど、鳥の式神が来て、そいつに呼び出されたんスよ。俺のことを名指しで呼ぶから、無視もできないし……」

「式神が……? おかしいな」

 鴇汰は炒め物をしている手を止めて考え込んでいる。

「おまえさ、この島に式神は入れないって話し、知ってるか?」

「えぇ、そりゃあもちろん知ってますけど、それは外からは入れないって話しで、月島も枇杷島も泉翔の範囲内だから送って来れるんじゃないんスかね?」

「うちの叔父貴が言うにはな、枇杷島からでも式神は入り込めないらしいぞ。泉翔本島に上陸してからじゃないと使えないって話しだ」

「だってそれじゃあ、月島からも送れないってことですよね?」

「あぁ……一体どういうことなんだ……?」

「ちょ……! 鴇汰さん! 火!」

 炒め物から焦げくさい臭いが漂い始め、隣のコンロで煮詰められていた鍋に駆け寄ると、そっちの火を止めた。

「悪い。考えごとをしてたらつい、な。ちょっと焦げちまったけど……味はまぁ、そこそこだ」

 味見をしながら皿に移して鴇汰はそう言った。
 鍋のほうは吹きこぼれることもなく、ホッとした様子で味付けを整えて水筒に詰め替え、残りのぶんを器に注ぎ、こちらに手渡してきた。

「いただきます」

 恐る恐る口に運ぶ。
 ちょっと焦げた苦みがあったけれど、確かに味は悪くない。
 食べながら、鴇汰と式神のことについて考えた。

「上層と神殿の態度がおかしいって話しがあったろ? なにがあったのかは修治に聞いたんだけどな。そいつが関係してるかもしれないな」

「でも……そうなると今、泉翔には結界が張られてないってことになりません?」

「だよな? 本当にどういうことなんだろうな」

「サツキさまを呼び出してもらったときに聞いてみたらどうッスかね?」

 さっさと食事を済ませた鴇汰は、そうするのが一番なのかな、と呟いた。
 片づけを手伝い、出かける準備をした。

 鴇汰に促されて談話室へ向かうと、もう麻乃の隊員たちは全員集まっていた。
 次々に車に乗り込み、出発の準備をしていく中、詰所の玄関先で小坂と鴇汰がなにかを話しているのが目に入った。
 小坂のことだから、安易に鴇汰を責めるようなことは言わないだろうと思っても不安がよぎる。

 タイミングが良いのか悪いのか、鴇汰の隊員たちも出てきてしまい、二人の間に相原が割って入っていた。
 時間にはまだ余裕はあるけれど揉めることがなによりも怖い。
 岱胡も割って入って、さっさと鴇汰を引き離してこようかと思った矢先、杉山の声が響いた。

「小坂! こっちの準備はできたぞ! 長田隊長、そろそろ出ます、そちらも準備お願いします!」

 その声に三人が振り返り、それぞれの向かう先に足を進めた。
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