蓮華

鎌目 秋摩

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待ち受けるもの

第175話 評定 ~鴇汰 3~

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 次々と細かな流れが確定していき、各区の道場の師範のあいだで様々な指示が飛び交っている。

「それから藤川だが……あれが上陸した浜のものたちは、必ず対峙は避けるんだ」

「あれはその辺の雑兵どころか、上級の兵以上と考えるべきだからな」

「西浜であるなら安部が対応するが、ほかでは抑え切れないだろう。手は出さず、藤川だけは必ず中央へ向かわせるよう、誘導だけに留めるように」

「それから東区。上陸する浜がないとは言え、泉の森とも違って神殿からの特別な結界もない。あの区が狙われることはまずないとは思うが、念のために控えるものは腕に覚えがあるものを他より多く割り当てよう」

 要点、注意点が指示されたところで、集まっていたものたちは次々と道場を出ていく。

「現役のおまえたちがいながら話し合うどころか、我々で取り決めを進めてしまってすまないな」

 背後から、高田がそっと声をかけてきた。
 鴇汰は修治、岱胡とともに改めて高田に膝を向けた。

「こんなときだ。もはや誰もが黙ってみてなどいられないのだ。納得は行かないだろうが、ここは彼らの意思も汲んでやってくれまいか?」

「けど……俺はやっぱり……」

「長田くんの思いは良くわかるつもりだ。私とて、かつてはその思いが強かった……だが、今は彼らも戦士であり仲間だ」

「早ければもう四、五日の猶予しかないのだろう?」

 高田の後ろから尾形が顔を覗かせた。

「はい。叔父の情報ではそのようです」

「あの様子では、浜や演習場の準備はすぐにでも整いそうだ。逃げ道もうまく確保できる。そう悪いほうにばかり考えるものじゃない」

 膝頭の上に乗せた手が震える。
 今度のことはなにもかもが、鴇汰にとってひどく重い。
 鴇汰の中で、麻乃を助けることを一番優先したいのに、他のことばかりが気になってどうしようもなく、胸がざわめく。

 いい方法を思いついたと思ったら、一般の人々が関わってきてしまったのもそうだ。
 入口にいた遥斗が、いつの間にかすぐ後ろに立っていた。

「長田、皆をもっと信じていいんじゃないかな? 良くないことばかりを考えていては、知らず知らずのうちに流されてしまう。こんなときだからこそ、すべてがうまく運ぶのを信じて進もうじゃないか」

 こんな間近で初めて話す遥斗の口調は、どこか穂高に似ていて、妙に落ち着く。
 そういえば穂高にも、豊穣に出る前に似たようなことを言われた。
 みんなを信じていないわけじゃない。
 けれど、焦る気持ちばかりが先行してしまう。

「そうですね……俺、至らないことばかりですけど、絶対に負けない、そんな思いでこれまでやって来ました。今回もみんなと連携を取って必ず勝ちます」

 一般の人々に突然印があらわれたのは、彼らの手を借りなければならないほどの事態が起こると、女神さまが感じたからだろうか。
 彼らも戸惑いながらも国を守ることに対して、積極的に動いているように見える。

「どうしたって、俺たちだけじゃ行き届かない部分はある。いつもと違ってトクさんや巧がいないしな」

 見れば修治も岱胡も、どこか迷いを思わせる顔色をしていた。

(俺だけじゃないんだ……不安なのも迷っているのも、ここにいる全員が同じ思いなんだ……)

 なにもかもを自分が背負わなければいけないような、そんな気になっていたのかもしれない。
 独りよがりでおこがましい考えかたに、自分を恥じた。

 それを察したように修治が肩を軽くたたいて、いつもの調子で鼻で笑った。
 それを見て、少しだけホッとする。
 気がつけば、道場に残っているのは鴇汰たち三人と高田、尾形に遥斗だけだった。

「やるべきことは決まったし、皆も既に準備で各浜や詰所へ向かってしまったな」

 空になった道場を見回して尾形が立ち上がった。
 高田が腕時計に視線を落とし

「さて……もう十二時になるか……」

 そう言って遥斗を見た。

「時間はちょうどいいころだな。では高田、三人を借り受けるよ。そうだな……昼前にはそれぞれを持ち場に送れるだろう」

 高田がうなずくと、遥斗に促されて道場を出た。

「あの……一体、なんなんスか?」

 おずおずと岱胡が問いかけると、遥斗の代わりに尾形が答えた。

「長田が黒玉を持ち帰ったそうじゃないか。おまえたちは、これからサツキさまに会いに行くのだ」
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