蓮華

鎌目 秋摩

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動きだす刻

第14話 再会 ~修治 1~

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 道場へ着いたのは、八時近くなってからだった。
 すっかり遅くなってしまったせいで、みんなもう避難したあとだろうと思っていた。
 車を停めると表門のところにあわてた様子の房枝と、何人かの師範が駆け出していくのが見えた。

「お袋! まだ残っていたのか?」

「修治! あんた今ごろ……大変なんだよ、多香ちゃんの姿が見えないんだ」

「見えないって……いないのか?」

「そうなんだよ、夕方からずっと……今、みんなで手分けして探しているんだけど、あんた、心当たりはないかい?」

「心当たりったって……そうだ。麻乃の家は見に行ったのか?」

「麻乃の家? だってあそこは誰もいないじゃないの」

「多香子のことだ。麻乃の荷物を持ち出しに行ったのかもしれないだろ! すぐに行って確かめてくる」

 房枝の返事を待たずに車へ駆け戻ると、アクセルを踏み込んで麻乃の家へ向かった。
 行き違いにならないように、暗闇の中、目を凝らし集中して気配を手繰る。
 緩いカーブの手前で麻乃の家の方角が変に明るく見えた。

(あれはなんだ――?)

 嫌な予感がしてスピードを上げた。
 麻乃の家に続く曲がり道で、それが炎の明るさだとわかった。

(あんな場所が燃えてる……ってことは麻乃の家か!)

 予感は当たっていて、家から少し離れた場所に車を停めて飛び出した。
 勢い良く燃え盛る家の前に、多香子の姿を見つけた。

「多香子!」

「――シュウちゃん!」

 立ち尽くす多香子の向こう側に、男が四人、倒れているのが目に入った。
 炎のせいでその姿がハッキリとわかる。
 緑の軍服、ということは庸儀の兵だ。

「一体なにがあった! なんだって庸儀の兵が……おまえ、なにもされちゃいないだろうな! これはやつらの仕業か! それになんだってやつらは倒れてるんだ! まさかおまえが――」

「あ……麻乃ちゃんが……たった今……ほんの二、三分前までここにいたの! 私を助けてくれて……早く追いかけて!」

「……麻乃が戻ってるのか?」

 まるで状況が掴めない。
 なんだって庸儀の兵がこんな場所にいるのか。
 麻乃までもが戻っているとはどういうことなのか。

「あの子……瞳も髪も紅かった……ねぇ! 覚醒してるのよ! 早く追いかけてあげて!」

 察するに庸儀の兵に捕まった多香子を、麻乃が倒したのだろう。
 倒れた男たちは全員、事切れているようだ。
 青ざめている多香子の肩に手をかけ、まずは落ち着くように言い聞かせ、なにが起こったのかを聞き出した。

「多香子、麻乃のやつがここを離れるとき、なにか言ったか?」

「泉の森に避難したら、そこから出るなって……それから私が麻乃ちゃんを恨むだろうけど、いつか正しいのがわかるから、って……」

「それだけか?」

「あの子、忘れものを取りに来たって言ったわ。やり残したこともあるって……なにか急いでいる様子で、もう来たから、って走っていってしまったのよ」

「もう来たから……? 確かにそう言ったのか?」

「言ったからなんだって言うのよ! どうして早く追いかけないの!」

 すがりついて訴えてくる多香子は、ひどく興奮している。
 庸儀の兵に襲われたうえに覚醒した麻乃の姿を見れば、当然の反応だろう。
 そっと抱き締めて背中を撫でてやった。

「落ち着け、あいつが覚醒しているなら、俺がどんなに急いで追ったところで追いつけやしない」

「でも――!」

「それよりおまえはもう泉の森へ向かえ。あとのことは俺がなんとかするから。道場でみんな心配して待っているんだ、早く戻ろう」

「私……そう言えば黙って出てきちゃって……麻乃ちゃんの大切にしてるものだけでも持っていこうと思って……」

「そんなことだろうと思ったよ。だけど家が燃えてしまっている。なにも持ち出せなかったんだろう?」

「ううん、いくつかはもう持ってきているのよ」

 見れば多香子の足もとに、五つほど大きな紙袋が置かれている。
 それを車に積み込み、燃え崩れていく麻乃の家を名残惜しそうに見つめている多香子をなだめ、車に乗せると急いで戻った。

 無事に帰ってきた多香子の姿を見て、房枝は涙ぐんで喜んだ。
 それは微笑ましくもあるけれど、敵兵が上陸していることを考えると、そうは言っていられない。
 すぐに中央へ向かうように言い含め、師範の何人かに同行を頼んだ。

「お袋、高田先生はまだ中にいるのか?」

「そうよ、高田さんももう出るんだろう? あんた、ちょっと呼んできてちょうだい」

「わかった。話しがあるからちょうどいい。長くはかからないから、少しだけ待っていてくれ」
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