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動きだす刻
第111話 謀反 ~レイファー 2~
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「レイファーさま、そろそろ着きますが」
途中、何度か休憩を挟み、運転もジャックからピーターへと代わっていた。
あたりは暗くなり始め、いつの間にか城が目の前まで迫っていた。
いろいろと考えているうちにウトウトしていたようだ。
「正面からは目立つ、西側の通用門から入ろう。そこからなら末兄の部屋が近い」
「そうですね、わかりました」
城の中はひっそりと静まり返っていた。
下働きをしてる者たちを少しずつ城から出すようにと、幹部たちに指示してある。
だから今は、王と兄たちの世話をする従者が残っているだけだ。
今、城内の軍部に詰めているのは幹部が選んだ信頼のおけるものたちだけで、まずはそこへ向かうとジャックとピーターを中心にして二手にわけ、今夜の手順をしっかりと決めた。
廊下を早足で歩き、末兄の部屋の前まで来た。
案の定、部屋の前には近衛が三名、控えている。
やつらとは普段から行動を共にしないうえに、それぞれが兄たちから聞かされている話しのせいで、レイファーに対する覚えも良くない。
近づいた瞬間に殺気を感じた。
「兄上に話しがある。今後にも影響を与えることになりそうで、いささか急ぐ。数分で構わない、今、時間を設けていただけないか話しを通してくれ」
「皇子はもう寝所に入られている、出直してくることだな」
「そんな時間がないから言っているのだ。他の兄上たちに勘づかれる前に……」
恐らくレイファーが来たのを察して中で聞き耳を立てていたのだろう。
扉が細く開いた。
「人目がある。早く入れ」
ボソボソと末兄の声が聞こえ、レイファーは控えていた兵の体を押し退け、中へ入った。
末兄は本当にもう寝るつもりだったのか、部屋の中は暗い。
寝具をまとい、椅子に腰を下ろしていた。
レイファーに対して椅子を勧めるわけもなく、テーブルを挟んで向かい側に立った。
「――それで? なにをそんなに急ぐというのだ」
「実は今夜、庸儀の部隊が国境沿いで動くと情報が入りました。先だって王より言いつけられていたおかげで我が軍の兵数は十分過ぎるほどあります」
「だからなんだ?」
「今日こそ庸儀を落としてみせます、兄上には是非とも一緒にその場にいていただきたい。勝てる戦争です。前線にさえ出なければなんの問題も起こりません」
「私に? 馬鹿な……私は戦場になど……」
「兄上、これは他の兄上たちを出し抜くチャンスです。戦線に出て一国を落としたとなれば、王だけでなく国民からの覚えも良くなる」
「…………」
「王ももう歳です……いずれ兄上たちの誰かがそのあとを継ぐでしょう」
「それがなんだと言う」
「失礼ながら、これまで兄上たちは誰一人、戦場へ赴くことはなく、当然戦果も上げられていません。そんな中で、兄上だけが戦果を上げて戻られたら……完全に他の兄上たちを抜きん出ることができます」
末兄の口調はそっけなくありながらも、目が忙しなく動いている。
頭の中では他の兄を出し抜いたときのメリットを計算しているのだろう。
「それを言ったら、一番の戦果を上げているのはおまえだろう? おまえこそ、我らを出し抜く算段でもつけているんじゃあないのか?」
「いいえ。私はこうして軍に身を置いて戦場へ赴くほうが面白い。兄上が次期国王となった際にも、是非私を軍に置いていただければ、それ以上はなにも望みません」
「ふん……口ではなんとでも言えよう?」
「ですがそれが現実です。私の器では王には向きません」
自嘲気味に笑ってみせると、末兄はニヤリと厭らしい笑いを浮かべた。
兄たちはみんな同じだ。
レイファーが自分の立場をわきまえて卑屈に見せれば見せるほど喜ぶ。
そんなことをしてまでも降りかかる火の粉を払うつもりなど昔はなかった。
無益な争いに巻き込まれ、なんの縁もないものと無駄に命を奪い合うくらいなら、そうやってやり過ごすのが得策だと、中村にそう教えられた。
確かにレイファーが対応を変えたことで、以後、兄たちの卑劣な行為はかなり減った。
「兄上、今度の件は他の兄上たちも感じ取っているでしょう。庸儀如きであれば簡単に落ちる、と。手柄を欲して横槍を入れられては、私には止めようもありません。時間がないのです」
確かにそうかも知れぬと眉間にシワを寄せ小さく唸った末兄を、レイファーは強引に口説いた。
時間がないのは本当だ。
なかなか重い腰を上げない末兄にジレンマを感じる。
どうあっても動かないのであれば、この場で手を下さなければならない。
できるなら室内ではなく城の外でことを済ませたい。
人手を減らしているとは言え、すべてが終わる前に誰かがここを訪れたら終わりだ。
それに、あとの始末も外のほうが楽になる。
末兄が立ち上がったのは、レイファーが部屋を訪れてから一時間も過ぎてからだった。
途中、何度か休憩を挟み、運転もジャックからピーターへと代わっていた。
あたりは暗くなり始め、いつの間にか城が目の前まで迫っていた。
いろいろと考えているうちにウトウトしていたようだ。
「正面からは目立つ、西側の通用門から入ろう。そこからなら末兄の部屋が近い」
「そうですね、わかりました」
城の中はひっそりと静まり返っていた。
下働きをしてる者たちを少しずつ城から出すようにと、幹部たちに指示してある。
だから今は、王と兄たちの世話をする従者が残っているだけだ。
今、城内の軍部に詰めているのは幹部が選んだ信頼のおけるものたちだけで、まずはそこへ向かうとジャックとピーターを中心にして二手にわけ、今夜の手順をしっかりと決めた。
廊下を早足で歩き、末兄の部屋の前まで来た。
案の定、部屋の前には近衛が三名、控えている。
やつらとは普段から行動を共にしないうえに、それぞれが兄たちから聞かされている話しのせいで、レイファーに対する覚えも良くない。
近づいた瞬間に殺気を感じた。
「兄上に話しがある。今後にも影響を与えることになりそうで、いささか急ぐ。数分で構わない、今、時間を設けていただけないか話しを通してくれ」
「皇子はもう寝所に入られている、出直してくることだな」
「そんな時間がないから言っているのだ。他の兄上たちに勘づかれる前に……」
恐らくレイファーが来たのを察して中で聞き耳を立てていたのだろう。
扉が細く開いた。
「人目がある。早く入れ」
ボソボソと末兄の声が聞こえ、レイファーは控えていた兵の体を押し退け、中へ入った。
末兄は本当にもう寝るつもりだったのか、部屋の中は暗い。
寝具をまとい、椅子に腰を下ろしていた。
レイファーに対して椅子を勧めるわけもなく、テーブルを挟んで向かい側に立った。
「――それで? なにをそんなに急ぐというのだ」
「実は今夜、庸儀の部隊が国境沿いで動くと情報が入りました。先だって王より言いつけられていたおかげで我が軍の兵数は十分過ぎるほどあります」
「だからなんだ?」
「今日こそ庸儀を落としてみせます、兄上には是非とも一緒にその場にいていただきたい。勝てる戦争です。前線にさえ出なければなんの問題も起こりません」
「私に? 馬鹿な……私は戦場になど……」
「兄上、これは他の兄上たちを出し抜くチャンスです。戦線に出て一国を落としたとなれば、王だけでなく国民からの覚えも良くなる」
「…………」
「王ももう歳です……いずれ兄上たちの誰かがそのあとを継ぐでしょう」
「それがなんだと言う」
「失礼ながら、これまで兄上たちは誰一人、戦場へ赴くことはなく、当然戦果も上げられていません。そんな中で、兄上だけが戦果を上げて戻られたら……完全に他の兄上たちを抜きん出ることができます」
末兄の口調はそっけなくありながらも、目が忙しなく動いている。
頭の中では他の兄を出し抜いたときのメリットを計算しているのだろう。
「それを言ったら、一番の戦果を上げているのはおまえだろう? おまえこそ、我らを出し抜く算段でもつけているんじゃあないのか?」
「いいえ。私はこうして軍に身を置いて戦場へ赴くほうが面白い。兄上が次期国王となった際にも、是非私を軍に置いていただければ、それ以上はなにも望みません」
「ふん……口ではなんとでも言えよう?」
「ですがそれが現実です。私の器では王には向きません」
自嘲気味に笑ってみせると、末兄はニヤリと厭らしい笑いを浮かべた。
兄たちはみんな同じだ。
レイファーが自分の立場をわきまえて卑屈に見せれば見せるほど喜ぶ。
そんなことをしてまでも降りかかる火の粉を払うつもりなど昔はなかった。
無益な争いに巻き込まれ、なんの縁もないものと無駄に命を奪い合うくらいなら、そうやってやり過ごすのが得策だと、中村にそう教えられた。
確かにレイファーが対応を変えたことで、以後、兄たちの卑劣な行為はかなり減った。
「兄上、今度の件は他の兄上たちも感じ取っているでしょう。庸儀如きであれば簡単に落ちる、と。手柄を欲して横槍を入れられては、私には止めようもありません。時間がないのです」
確かにそうかも知れぬと眉間にシワを寄せ小さく唸った末兄を、レイファーは強引に口説いた。
時間がないのは本当だ。
なかなか重い腰を上げない末兄にジレンマを感じる。
どうあっても動かないのであれば、この場で手を下さなければならない。
できるなら室内ではなく城の外でことを済ませたい。
人手を減らしているとは言え、すべてが終わる前に誰かがここを訪れたら終わりだ。
それに、あとの始末も外のほうが楽になる。
末兄が立ち上がったのは、レイファーが部屋を訪れてから一時間も過ぎてからだった。
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