蓮華

鎌目 秋摩

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大切なもの

第48話 女戦士たち ~穂高 2~

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 中央へ向かう途中の脇道を入ると、演習場を沿って東区へ向かう道がある。
 舗装されていない目立たない道だけれど、古い坑道を利用してトンネルが作られていて、ここを使うと通常の半分の時間で辿り着ける。
 トンネルを抜けたところで森の向こうに煙が上がっているのが見えた。

「あの様子だと、大分燃えてるな……」

「襲撃されてるとなると、消火もままならないかもしれない。手早く敵兵を押さえないと被害が広がる」

「安心しろ、俺の兵たちがいればすぐに方がつく。それに、空を見ろ。雨が降れば手順次第で消火も楽になるだろう」

 レイファーに言われて空を仰いだ。
 いつの間にか重い雲に覆われ、今にも雨粒を落としそうだ。

 荒々しい面と、時折見せる細やかな配慮との差に、穂高はしばしば戸惑わされる。
 思惑があって、穂高と一緒に行動していた癖に、簡単にそれを手放してしまえる、行動力も凄い。

「こうまでしてくれて凄く助かるけれど、本当は、俺よりもおまえのほうが残りたかったんじゃあないのか?」

「急にそんなことを言い出すなんて一体なんだ?」

「おまえが西浜にこだわったのには理由があるんだろう? 手に入れたいものがあると言ったそれじゃあないのか?」

「……藤川が暗示によって泉翔とジャセンベルが手を組んでると思い込まされているのなら、あの場に俺がいるのはまずいだろうと判断した」

 穂高の問いかけには答えず、レイファーはそう言った。
 確かに、次に麻乃と接触したときにレイファーの姿があれば、言い訳は難しいだろう。
 修治や鴇汰がなにを言おうと聞き入れないと思う。
 砦に着いたときに見た麻乃は、穂高がレイファーといることに憤り、修治めがけて脇差を投げつけた。

「残ってもすることがない以上、いても仕方がない。それならば襲撃をされて危ういおまえの家族を助けるほうを優先させる。それだけだ」

「……すまない。本当にありがとう」

「礼を言われるようなことじゃない。当然のことをしたまでだ」

 フン、と鼻を鳴らしたレイファーは、直後、表情を険しくした。
 正面から車が数台、向かってくる。
 どちらもスピードを出しているせいですれ違ったのは、ほんの一瞬だった。

 先頭の車に乗っていたのは、庸儀の赤髪の女だ。
 この道を、穂高たちと反対へ向かっているということは、西浜へ行くつもりなのか。

「あの女……! 西浜へ向かっているとしたらマズイ、急いで戻らないと……」

「駄目だ。あの女が絡んでいたなら、火の手が上がったのも納得が行く。向こうのことは安部と長田がどうにかするだろう。今は一刻も早く東側を押さえることを考えろ」

「くそっ!」

 思わず車のドアをたたいて舌打ちをした。
 やらなければならないことや、考えなければならないことが次々に押し寄せてきて頭が回らない。

 比佐子のことが心配だ。
 麻乃ももちろん、鴇汰も、まだ怪我を負ったままの修治、それに浜で応戦している自分の隊員たちのことも。

「上田、今は目の前のことだけを考えろ。なにもかもには対応などできやしない。一つずつ確実にクリアしていく、それしかないだろう?」

 一瞬、巧に言われたかと錯覚して、ハッとレイファーを見た。
 ただ、前だけを向いている。
 そうだ。
 今はとにかく東区を守らなければ。
 西浜にはまだ梁瀬もいる。

「今、走っている森を抜けたら左へ向かってくれ。そのすぐ先が、東区だ」

 レイファーが更にスピードを上げた。
 森を抜けて左に曲がると、東区の入口に火の手が見えた。
 争っている喧騒も耳に届く。
 目に入った敵兵は緑の軍服をまとっていた。

「やはり庸儀だな。数もいるようだ。このまま突っ込むか?」

「それは駄目だ。一般の人が避け切れない。ここで降りよう」

 まだ車が止まりきる前に飛び降りて走り出した。
 東区はほとんどが顔見知りだ。
 誰かを捕まえて、まずはジャセンベルが敵ではないと知らせなければ。

 混戦した中で、幸いにも一番初めに目に入ったのは、穂高と鴇汰が通った道場の師範だった。
 穂高を見てひどく驚いていたけれど、事情を伝えるとすぐに伝令を回してくれた。

 各道場の師範方も、ジャセンベルの姿に驚きながらも、自分たちに敵意はないと理解したのか、庸儀の兵だけを相手にしている。
 周囲をぐるりと見回した。

(比佐子は……無事でいるのか?)

 居住区へ向かうわかれ道のところで、敵兵を相手に苦戦している比佐子の姿を見つけた。

「レイファー、妻が危ない。この辺りの対応を頼む」

「行け! ここを片づけたらすぐに向かう!」

 うなずいて走り出した。
 比佐子はもう、肩で息をしている。
 昔に比べると体力が落ちたんだろう。
 鍔迫り合いをしている背後に敵兵が迫っている。

 必死で走りながら、武器が槍で良かったとつくづく思った。
 刀や斧だったら間に合わなかった。
 手にした槍を握り締めると、思い切り敵兵めがけて突き抜いた。
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