蓮華

鎌目 秋摩

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大切なもの

第123話 新たなる刻 ~麻乃 1~

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 冬のあいだじゅう、クロムとサムがひっきりなしにやってきた。
 術師としてのトレーニングだの、能力の底上げのための体力づくりだのと、鴇汰と梁瀬を連れ出している。

 いろいろやらされて、毎日クタクタだと鴇汰も梁瀬もぼやいていた。
 そのくせ、二人とも「大陸でやらされるよりはマシだ」という。
 それを聞いた穂高が大笑いをし、徳丸と巧は渋柿でも食べたような顔をみせた。
 どうして大陸よりマシなのかは、理由を教えてくれないから、わからないままだ。

 今日は久しぶりにレイファーが泉翔へ来ていた。
 どうやら大陸のほうは、庸儀もロマジェリカも新たな王が決まり、改めて四つの国と国王さまとの会談を行ったらしい。

 庸儀は国を四つにわけ、ジェの側近だった男たちが、それぞれを管理していく形を取ると聞いた。
 一国をまとめるだけの人物がいなかったからだと、レイファーはいう。

「あんたもいろいろと大変だねぇ」

 麻乃がそういうと、レイファーはかすかに笑った。
 庸儀の四人と引き合わされて挨拶を交わす。

 この四人は、リュの墓を作ったときに手を貸してくれた連中だった。
 コウ、チェ、ユン、ハンと名乗った。
 慣れないながらもレイファーやサムに助言されながら、庸儀を取りまとめているらしい。

「先だって、リュの墓をロマジェリカ領から庸儀へ移してきたんだ」

「そうなの? なんでまたそんなことを?」

 ロマジェリカ領にあっては、なかなか訪ねていくこともできないからだという。
 ジェを生まれた村へ埋葬する際に、その隣に移したそうだ。

「墓を暴くのはどうかと思ったけど……そういう理由なら納得だね。リュもあの女……ジェと一緒なら、きっと安心だろうし嬉しいんじゃあないかな」

「あんたにしてみれば関わりたくない相手だろうが、大陸へ足を延ばした折には、立ち寄ってくれるとヤツも喜ぶと思う」

「わかった。そのときは案内を頼むよ」

 今はまだ泉翔も含めてどの国も慌ただしい。
 春までには落ち着かせて、泉翔から農業などの技術を学びたいと、レイファーたちは言っている。
 大陸では時に不穏な動きもあるようで、それを抑えるためにも長く滞在はできず、明日にもそれぞれの国へ帰るそうだ。

「クロムとサムが、来月には大陸で例の術を試すと言っていたが、藤川もくるのか?」

「まあね。ホラ、鴇汰はそのときは完全に一人になるでしょ? だから一応、ついていないと」

「お守も大変だな」

「いいんだよ。あたしがそうしたいんだから。それにクロムさんやサムにも、ほかのみんながつくんだし」

 術に集中しているところを襲われてはいけないからと、国王さまの指示で数日は蓮華が全員、海を渡る。
 周辺は各国……主にジャセンベルの兵が警護してくれるらしい。

 ひと月などあっという間だ。
 こんなにも短いあいだに大陸に渡るのは初めてだけれど、前回は修治と岱胡以外はみんな、これまでにないほど長く滞在している。
 慣れたわけではないのに、違和感を覚えない。
 だんだん、これが当たり前になっていくんだろうか。

 少しずつ大陸からも植物や生きもののことを学びに人々が渡ってくるらしい。
 いろいろな容姿の人が増えれば、麻乃の姿もそう目立たなくなるだろう。
 思ったより生きにくさはないけれど、まだ人目に触れるのは避けたい気持ちもある。

 レイファーやコウたちを見送り、家へ戻る。
 マルガリータに出迎えられて中へ入ると、今日はクロムと梁瀬のほかに多香子がきていた。
 鴇汰とクロム、多香子の三人でレシピの交換をしながら料理を作っていたらしい。

 広くなったことと、珍しさもあってか、住み始めてから誰かしら訪ねてくる。
 おとといは、穂高と比佐子が遊びに来てくれた。
 またあの濃紺のコートをプレゼントしてくれて、今度は鴇汰のぶんもある。

 麻乃の第七部隊や鴇汰の第五部隊からも、二、三人ずつ入れ替わり立ち替わり様子をみに来てくれる。
 
「隊長の家が散らかっていないなんて……」

「大地震が起きたらどうしてくれるんです?」

 矢萩と豊浦が失礼なことをいう。
 片付けのほとんどは鴇汰がやってくれているけれど、最近は麻乃も少しだけ手伝うようにしている。
 前の家より広さも部屋数も増えたから、鴇汰一人に押し付けるのは心苦しくなったから。

 鴇汰は人の出入りで落ち着かないと、ブツブツ文句を言っているけれど、それでも、三人で楽しそうに料理をしているところをみると、これはこれで悪くないと思っているんじゃあないだろうか。
 敵襲もなくなり、平和とはこんな感覚なんだと思いながらも、いささか腰の座りが悪い。
 早く新人の演習が始まればいいのに、と思う。

「それじゃあ鴇汰くん、麻乃ちゃん、来月にまた向こうで」

「ああ。前日にはジャセンベルに入って海岸近くの街に泊まるから」

「そうか。時間になったら迎えをやるから、いつでも出られる準備だけはしておくように」

「わかってるよ」

 梁瀬はクロムと一緒にこのまま大陸へ行くという。
 麻乃は術のことがまったくわからないけれど、いろいろな準備があるらしい。
 二人揃って大きな鳥の式神を出している。

「麻乃さん、鴇汰さんのことお願いね」

「うん。梁瀬さんも気をつけてね」

 飛び立っていく姿に手を振って別れた。
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