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冒険者~始まり~

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ブランカの領主邸には誘拐事件の関係者が集まっていた。
王宮への出頭を命じられたザランは、涼しい顔で理由がないと拒否し続けていたが、王都から派遣された騎士の隊長に問われた盗賊の頭領やフェリーチェたちを始めとする被害者の証言が終わる頃には、冷や汗を流しながら落ち着きなくキョロキョロしていたが、何か思い付いたようで厭らしい笑みを浮かべた。

「何度も言うが私が出頭する理由はない」
「まだ言われますか。往生際の悪い方だ。証人がいるのですよ?」
「フン!証人と言っても盗賊と平民ではないか。まさか貴様は、貴族の私の言葉より薄汚い其奴等の言葉が正しいと言うつもりか?」
「……お忘れの様ですが証人には貴方の言う貴族、公爵家の方もいらっしゃいますが?」
「貴族?ハッ!その者たちは確か養子だろう?何処の馬の骨とも知れぬ輩ではないか。本物・・の貴族である私と比べるまでもない!」

ザランは身分を持ち出しさて言い逃れをするつもりのようだが、保身に必死に成り過ぎて大切・・な弟と妹を探しに自らの足で捜索に動いた兄たちの存在と、仕事をほっぽり子どもたちを迎えに来ている父の存在をすっかり忘れているようだった。
その父と兄2人はというと、無表情なうえに黒いオーラを発している。

「「「彼奴は持ち帰ろう」」」
「……落ち着け。頼むから持ち帰るのは兄上が処罰してからにしろ」
「と、とにかく連行します!捕らえろ!」
「ふざけるな!私は行かんぞ!」

彼等の不穏な会話は聞こえていないが、不穏な気配は感じた騎士隊長は問答無用とばかりに部下に指示して拘束しようとしたが、空気の読めないザランは懐から小さな筒状の物を取り出し口に咥え息をふき込んだ。

「何を!?」
「クククッ……こうなったらここにいる全員始末してやる!」

冷静に考えれば、王都から派遣された十数人の騎士や何よりクロードたちが戻らなければどうなるか分かりそうなものだが、今のザランにはそれが最善策だと思い込んでいた。

「ねぇねぇ、アレ何かな?笛?音しなかったよね?」
「え?音ならしたよ。でも何か嫌な感じ」
「俺も聞こえなかったけど」
「「「……ん?」」」

ザランの行動を呑気に見ていたフェリーチェは、音のならない笛を不思議に思いアルベルトに聞くが彼には音が聞こえてガイには聞こえなかったらしい。
お互い顔を見合せた後、なんとなくブレイクを見た。

「アレは獣笛だ。特殊な音で、聞こえるのは獣や獣型の魔物、あと獣人くらいだな」
「「「へぇ~」」」
「アレで何が現れるか知らんが警戒しておけ」
「「は~い」」
「へぇ~い」
「何とも……緊張感がないのぉ。まぁ、いつもの事じゃがな」

呑気なフェリーチェたちと違い、騎士たちは証人たちを守るために動き出していがその時、壁をぶち壊しキメラが3体飛び込んで来た。

「グルルル……」
「な、バカな!キメラだと!?」
「ハーハッハッ!貴様らにはここで死んでもらうぞ!」
「クッ……って、貴方アホですか?」
「何!?アホだと!」
「ゴホンッ……失礼しました」

優越感に笑っていたザランは、騎士隊長の呆れたように言われた言葉に目を剥き周りを見渡すが、他の騎士や証人たちも何とも言えない顔をしていた。

「な、何だその顔は!キメラだぞ!A級魔物のキメラが3体だ!死ぬんだぞ!」
「……確かに我々だけでは危険でしたよ。我々だけならね。貴方はお忘れの様ですがここにはS級のオースティン様とそのパーティーの方々、ファウスト家の方々がいらっしゃいますので」
「………………あっ」

ザランはダラダラと冷や汗を流し、口をパクパクさせ狼狽えた。
沈黙が流れる中、オースティンが頬を掻きながら口を開く。

「あ~……俺が相手をしても良いがな~……ブレイク、メイソン、どう思う?」
「良いんじゃないか。頃合いだろう」
「そうじゃな。ただのぉ~……」
「「ただ?」」
「立ち会えんかったと知ったら五月蝿いのがいるじゃろ?」
「「あぁ……‘お母さん’」」
「あいつ過保護だからな~。まぁ、その件は置いておこう」

突然始まった話し合い?が終わったオースティンが、視線をずらしクロードが頷いたのを確認すると真剣な顔でフェリーチェを見た。

「フェリーチェ!」
「っ!?はい師匠!」

オースティンの空気が変わったのを感じたフェリーチェは、自分も気持ちを切り替えて返事をする。

「キメラの相手はお前がするんだ」
「はい?……良いんですか?」
「あぁ。レベル上げを解禁する。今回は周り人間は俺たちが守るから、お前は奴等を討伐する事に集中するんだ」
「はい!」
「アルベルトとガイは俺たちと一緒に周りを守れ」
「はい。フェリ、怪我しないでね」(傷ひとつでもつけたら塵にしてやる)
「了解。フェリ、無茶はするなよ」(いざとなったら俺が抑えるか……こいつアルを)

実はフェリーチェ、今までも修行中等に魔物と対峙する事はあったのだが、いかんせん彼女のステータスの基礎数値が低すぎたために、暫くレベルは上げない方針が師匠たちの話し合いで決められていたのだ。
彼女は戦う事はあっても相手にトドメを刺した事はなかったので、自分で魔物の討伐……命を奪うのは今回が初めてであった。
通常ならキメラをE級冒険者、しかも子どもが相手にするなど有り得ない。
現に、騎士たちを始めザランやギルドマスターは絶句している。
ただ、ヤハルかグレイたちだけはどこか遠い目をしているが。
フェリーチェは緊張しつつも冷静に作戦を考えた。

(素材もあるから、なるべく無傷が良いよね。ガイは窒息させたんだっけ?同じじゃ芸がないよね~そうだ!お父様に教えてもらったの試してみよう!)

フェリーチェは、グローブ型の魔道具から弓を取り出し構える。
ザワつく周りを他所に、フェリーチェは攻撃を開始した。
主人の命令が無く威嚇だけしていたキメラは、フェリーチェを適と認識してそれに応戦する。
素早いキメラの攻撃を更に上回る動きと弓で翻弄するフェリーチェ、お互い決定打に欠け均衡上体になっていたのだが突然フェリーチェが動きを止めた。

「無理だ!オースティン様、我々も加勢します!」
「大丈夫、大丈夫」
「なっ!?しかしっ……クロード様!」
「加勢は必要ない。勝負は着いた」
「はぁ!?」
「発動……『氷華晶―柩―』」

オースティンとクロードに詰めよっていた騎士隊長の耳に、落ち着いたフェリーチェの声が聞こえた。
彼女に視線を向けた騎士隊長の目に信じられない光景が飛び込んだ。
キメラを中心として円形に地面が発光したかと思うと、3体が一瞬で氷に覆われ絶命していた。
その氷は上から見ると花のような形をしてる。
あまりの光景に口をパクパクする事しか出きない周りを他所に、彼女たちはどこまてもマイペースだった。

「上手く発動して良かった~」
「フェリ、お疲れ~」
「お疲れさん。なぁ、あれってもしかして体内から凍ってるのか?」
「そうだよ」
「どうりで。普通に氷で覆ってもキメラのレベルならすぐ壊すだろうから不思議だったんだ。さすがフェリだな。我々も負けてなれない」
「そうですね兄上。それにしても、どうやって中から凍らせたの?」
「足裏から氷の針をグサッと刺して血管から凍らせるんだよ」
「「「「成る程」」」」

(((((いや、何納得してんの!?て言うかあの子、何か発想が怖い!))))

「良い動きだった」
「そうじゃな。作戦も上手く立ていたのぉ」
「あれ魔法陣か?お前はいつの間に何つうもん教えてんだ」
「教えたのは魔法陣の基礎だけで、あの魔法陣自体はフェリが作ったもだ」
「凄いな~」

(((((凄いな~……じゃない!子どもに何を教えてるんだ!)))))

始終和やかに話す彼女たちに騎士たちはもちろん、ザランまでも状況を忘れて内心でツッコミを入れた。
そんな中、一人の人間の姿が消えたのだが誰も気付いていなかった。











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