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出会い

邂逅

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――シュン

チェイスたちと別れ転移した場所は地下室、まだ此処でやらないといけない事があるからだ。
皆と別れ寂しくなったが、気持ちを切り替えて今後の事を考える。

(そろそろ夜明けだ……獣人の脱走がバレるのは時間の問題だし、チェイスが言ってた魔道具も気になる……魔物を呼び寄せるなんて何をするつもりなの?……今の私に何が出来るか分からないけど、情報だけでも)

その時、足音が近付いてきて鍵が開けられた。

――ガシャン

ドアを開けて入って来たのは、メイド長だった。
何だか空気がピリピリしている。

「起きていますね……食事です。食べなさい」

メイド長は食事を机の上に置いたが、出ていかず私を無表情にジッと見ていた。

「……はい」

不思議に思いつつも食事をするために机に近付くと、衝撃を感じ私は倒れた。

――バシッ!――バタン!

「痛っ!?」

(何!?頬が痛い)

メイド長を見ると手を振り上げていた。

(叩かれる!?もしかしてさっきのも!「障壁」バリア

私は自分の体に薄く「障壁」バリアを展開すると同時にメイド長が手を振り下ろした。

――バシッ!バシン!

「お前がいるから上手くいかない!獣人が逃げ出した!旦那様は明日、戻られるのに何と言えば!お前のせいだ!セスがいるときは、私が祓う前にあの男が先に手を出すから出来なくてこんな事になった!もうあの男はいない!私がまた祓ってやる!消えろ!消えろ!いなくなれ!」

メイド長は狂った様に私を叩き続けた。
しばらくして気がすんだのか、メイド長は部屋を出ていった。

私はゆっくり体を起こし頬に手を当てた。

「痛いなぁ……っ……ぐすっ」

実際、叩かれたのは最初の1回だったが、心が痛くて涙が零れた。

(チェイスは本当に私を庇ってたんだ……泣いてる場合じゃないよね……情報を集めないと、魔法も覚えなきゃ)

私は涙を拭い行動を開始した。
その日の夜、情報を集めるため私は姿を隠し廊下を歩いていた。
どうやら兵士の半数は獣人の捜索に向かったようで、見張りが少なくホッとした。
屋敷の奥に進んでいると、近くの扉が開き子どもが出てきた。

(わぁ!ビックリした……女の子?可愛い子だなぁ)

出てきた子どもは白に近い銀髪で、大きな瞳は紫色をしている可愛い女の子だった。
女の子が歩き出したので、ついていくとある部屋の前で止まり扉を叩いた。

――コンコン

「おかあさま、あけてください……おかあさま」

少しして扉が開き綺麗な女の人が出てきた。
髪や瞳の色が同じだから女の子の母親だろう……そして多分、私の。
子どもを部屋に招き入れたので、私は気になり滑り込むと、女の人は膝を折って子どもに優しく問いかけた。

「どうしたのですエリザベス、怖い夢でも見ましたか?」

「いいえ……ねむれなくて」

「では今日は一緒に休みましょうね。明日はお父様が帰っていらっしゃるから、笑顔で出迎えなくてはいけませんよ」

「はい」

女の人は子どもの手を引きベットへ入った。

「さぁ、お休みなさい……可愛いリズ」

そう言って、子ども額に口付け眠りに落ちた。
私は部屋の外に転移したが動けず、沸き上がる感情に手を握り締めていた。

(この感情は知ってる……これは嫉妬だ……私、あの子に嫉妬してる……それに怒りも)

私は自分に与えられない愛情を受けるあの子に嫉妬し、同時に与えてくれない両親に怒っていた。

(考えてもしょうがない……集中しなきゃ)

気持ちを切り替えて歩いていると、話し声が聞こえた。
声のしたほうを見ると、兵士が2人話していた。

「それにしても、獣人どもはどうやって逃げたんだ?鍵も魔法もかけてたんだろ?」

「知るかよ……どっちにしろ担当したやつらは処分されるさ」

「あ~領主様、機嫌が悪くなるよな~」

「確かに……でも確か、例のものが今夜届いたから少しは大丈夫じゃないか?」

「例のものってマジかよ……大丈夫なのか?危険だろ」

「隷属の首輪を着けているらしいから、大丈夫さ……それに今からそいつの部屋に行くんだよ」

「げっ!これそいつの食事かよ!」

2人が話していた内容が気になり着いて行くと、大きな扉が見えてきた。
鍵を開け緊張した面持ちで部屋に入ろうとしていたので一緒に入った。
部屋は薄暗く、地下室のように窓もなかった。

――ガシャン

金属の音がしてそちらを見ると、そこには――
何重もの鎖に繋がれた、巨大な生き物がいた。

「グゥルルル」

生き物は殺気だってこちらを見ていた。

「ヒィッ!おい、行こうぜ!」

「あっ、あぁ!」

2人は慌てて出ていったが、私は動けなかった。
何故なら、生き物はこちらを――私を見ていたからだ。

(私が見えてる……それにしても、これが……これがドラゴン)

そう、そこにいたのは巨大なドラゴンだった。
いつの間にか殺気を収め私を見ていた。

{人の子よ……貴様、何者だ?}

(念話!?)

{私は……何て言えばいいか……}

{フム……ステータスを見た方が早いな}

{え?}

そう言ったきりドラゴンは黙ってしまった。
少しすると、喋りだしたが私はその内容に驚いた。

{成る程な……双子に生まれ存在を消されたか、憐れな……それに異界からの転生者とは珍しい}

{何で!?}

{ステータスを見たからな……人の子よ1つ頼みたいのだが}

{頼み?何ですか?}

{我を此処から出してくれ……代わりに1つ願いを聞いてやろう}

{……ここから出てどうするんですか?}

{決まっている……ふざけた真似をした人間を殺してやるのさ}

空気がピリピリしだし、冷や汗が流れた。

{……分かりました。ただ、明日まで待ってもらえませんか?}

{何故だ?}

{どうしても手に入れたい物があるんです。でも明日にならないと手に入らないので、今貴方に暴れられると困るんです}

{成る程な……いいだろう……忘れるな、違えれば報いを受けさせるぞ}

{はい……では行きます}

――シュン

私は地下室に転移して座り込んだ。

「はぁ~緊張したなぁドラゴンってあんなに大きいんだ……魔法も効いてなかったし、ステータスも見られちゃったな」

まだ、心臓がドキドキしていたが、明日に備えて寝ることにした。

(そういえばあの子……エリザベス可愛かったな……双子だから私も可愛いのかなぁ……ロイさんは愛らしいて言ってたし、チェイスも顔はいいって言ってたよねぇ明日確認しよ~と……)

私は次第に眠くなりいつの間にか眠っていた。
翌日、目を覚ました私はさっそく自分の姿を確認することにした。
「光」ライトで明るくして、鏡をイメージして魔力を放出した。
すると、目の前に大きな丸い鏡が浮いていた。

「出来た!名前は……『鏡』ミラーでいいかな……どれどれ」

私が鏡を覗き込むと、そこには少し紫がかった銀髪にツリ目がちの大きな瞳、色は深い碧をした可愛い女の子がいた。

「ほえ~これが今の私かぁ……でもやっぱり痩せてるな」

一通り確認して、食事が来るのをまったが誰も来なかった。
おそらく、領主の出迎えで忙しいのだろうと諦め、チェイスにもらった非常食を食べることにした。
入っていたのは干し肉で、初めて食べるので恐る恐る口を付けた。

――パクッ――ガシガシガシガシ

(ショッパイ!……固くて噛みきれないし……でも食べないと持たないしなぁ……うぅ~)

何とか1つ食べきれたが、顎が痛くなったので魔法で水を出して飲んでから食事を終了した。
それから待ち続け、眠くなってきたところで足音が聞こえた。

――ガシャン

そして、メイド長が入ってきた。
その表情は見た事も無いくらい楽しそうだった。

「起きていますね。今日は待ちに待った日です。これから‘森’に移動しますので、此れを着けなさい」

メイド長が渡して来たのは、鎖の付いた手枷と足枷、そして首輪だった。

「…………………」

私が驚き黙っていると、メイド長が手に取り私に装着した。
とても、上機嫌に……。

――カチャン

「さぁ出来ましたよ……とてもよく似合っています。貴女は、最後に旦那様のお役に立てるのです。光栄に思いなさい。……言っておきますが、その首輪は隷属の首輪といって、けして命令には逆らえません。おとなしくついてきなさい」

私はうつむきながら歩いたが、足枷のせいで上手く歩けない。
ようやく階段を上がると、メイド長が私にマントを羽織らせた。

「貴女の姿など見たくないでしょうから、これを着ていなさい」

私はひたすら我慢してついて行くと、外に出た。
そこには、沢山の兵士と豪華な馬車が1台と小さな荷車があった。
私はその荷車に乗せられ布を被せられたので、隙間から様子を伺っていると、扉から1人の男が出てきた。
男は背が高くガッシリした体つき、顔はちょっと強面で、髪は紫で瞳は深い碧。
男に続き、昨日見た妹と男の子を抱いた母親が出てきた。
男の子は男と同じ髪色と瞳の色をしていた。

(多分、あの人が父親で、抱っこされてるのが弟かな)

父親は家族を振り返り笑いかけた。

「では行ってくる」

「はい……お気をつけて」

「おとうさま、いってらっしゃいませ」

父親は妹と弟の頭を撫で、母親の頬に口付けると馬車に乗り込み出発した。
私は荷車に座りながら、唇を噛み締めていた。
どれくらいたったのか、荷車が停車すると降ろされた。
私が立っていると、髪がボサボサの男が降りてきて、続いて父親が降りてきた。

「おぉ~コレが実験体ですか?では早速」

そう言って男がランプみたいな物を私に持たせ、体に紐で結んできた。
その様子を父親は黙って見ていた。

「さぁこれでいいですよ。後は、ディエゴ様が命令すれば実験開始です!これが完成すれば、いよいよ戦争ですよ~」

「そうか……これでやっと厄介者が処分出来るな……命令だ‘森に入り暫く歩くと洞窟がある、そこに着いたらその魔道具に魔力を流せ’以上だ」

私が命令に従い歩き始めると、兵士が何人かついてきた。

「見張りの兵士諸君は、魔力を流したら直ぐに引き返さないと巻き込まれるから気を付けるんだよ~」

「「「「「ハッ!」」」」」

気の抜けた忠告に兵士たちは返事を返した。
ひたすら歩き続けると、洞窟が見えてきたので魔力を流したら兵士たちは走って戻って行った。
魔力を流してしばらくすると、沢山の鳴き声と足音が聞こえてきた。

――ドシン――ドシン
――バキッバキッ

「グルォ―――」
「ギャーギャー」

そして、大小様々な種類の魔物が現れ私に襲いかかった。
魔物どうしでも争いだし、魔物の死骸が溢れ勝ち残ったものが去ると、そこに生きている者はいなかった。
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