小虎|僕を愛して身代わりになってくれた彼が、霊能者になるなんて!!

宇美

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第14章 めでたいな

めでたいな

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生暖かい風が肌をなでる。

靴下は夜露でほんのり湿っていた。

お神楽の音は次第に遠ざかり、
今は遠くに微かに聞こえるだけだった。

しかし拝殿の方は明るいので私は怖いという気がしなかった。

左手に見える小さな社にはかつて祖父が寄進した一対の狛犬が鎮座していた。

丸っこい子供っぽい顔立ちの狛犬はお揃いの涎掛けをつけている。

赤っぽい涎掛けは風に吹かれ翻っていた。

小虎と私は神社の石段を降りていく。

うっかり滑り落ちないようにこわごわ降りる私に対して、
小虎は身が軽い。

さっきから私が何を聞いても、
ただにこにこ笑いながらめでたいな!
めでたいな!
とスキップしている。

踊り場まで辿りつくと小虎の動きはもっと激しくなった。

必死で飛び跳ねながら、
大声でさけんでいる。

ただぴょんぴょんしながらがら、
はりあげているだけで、
とてもさっきの子供の軽妙な踊りに似ているとはいえなかった。

私は小虎がへたくそなのを馬鹿にしたくなった。

自分ならもっとうまくできると思った。

私も、
めでたいな!
めでたいな!
と声をあげながら飛び上がり、
手足を覚えている振りで、
曲げたり伸ばしたりしはじめた。

小虎は私のほうがはるかに巧みにできることに何の嫉妬も感じないようだった。

ますます嬉しげにジャンプする。

飛んでいるうちに楽しくなってきた。

私と小虎は手と手を取り合った。

小虎が勢いよく跳躍した。

私の足も石段を離れる。

小虎の手によって上へ上へとひっぱられる。

石段を五段上がった所に着地した。

また小虎に体を持ち上げられて蝶の羽のように宙を舞う。

今度は小さな社の屋根の上に降り立った。

体は重力を失ったかのように軽い。

ゲームの中のキャラクターのように自在に動く。

めでたいな!
めでたいな!
という小虎のがなり声の後に別の少年の声が合唱した。

誰の声であろうと思っていると自分が大口をあけて、
めでたいな!
めでたいな!
と咆哮していることに気がついた。

屋根から石段に降り、
また石段を一蹴りする。

少し前に随分時間をかけて降りた石段を、
紙飛行機のように一っ飛びする。

手水の上に舞い降りた。

コケでぬめった石の手水だなを足が滑る。

私は宙に投げ出された。

落ちる!
と思っていると、
体が宙返りをした。

一回転する間にふもとの町の景色を空から眺めることができた。

白砂神社の山の下はすぐに海岸になっていた。

神社と海岸の僅かな隙間に、
私の家、
いつも買い物に行く商店街、
小虎の団地、
塾のある隣町が収まっているのだった。

灯台が海を照らしている。

建設中の島へと渡る橋が白々と輝いていた。

その先の島が黒いきのこのように海に浮かんでいた。

随分長い間眺めていた気がする。

足がまた固いものに触れる。

赤い鳥居だった。

私と小虎の声のほかにもう一つ、
めでたいな!
を叫ぶ別の声が聞こえた。

私は右手の平に小虎の爪があたるのがやけに気になりだした。

ふと右手を見ると、
つないでいるのは、
平べったい爪の節くれだった手だった。

顔を上げると、
たわしのようなおかっぱの子供がいた。

おかっぱの下には運慶の八大童子像に良く似た顔がある。

「みいちゃん……」

と私はつぶやいた。

みいちゃんの瞳孔は赤く、
炎のように燃えてた。

オレンジ色の唇を大きく開け、
腹に響く太鼓のような声でめでたいな!
とはりあげている。

小虎とみいちゃんは無表情で狂ったようにめでたいな!
めでたいな!
を繰り返している。

私は恐ろしくなった。

しかし、
私もまるで設定された電子目覚まし時計のように口をぱくぱく動かして、
めでたいな!
と叫び続けているのだった。

暗闇からヤマトタケルの扮装を解いてすっかりいつもどおりになった、
直人さんが姿を見せた。

今日はOBとしてお芝居の大道具係をやっていた二郎叔父も一緒である。

必死の形相で全速力でかけてくる。

ああ助けてもらえる、
と思ったとたん、
脳天に衝撃が走った。
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