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第19章 噂
噂
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高校一年生の夏休みだった。
お盆に親戚達が集まった。
お坊さんが帰った後、
出前の寿司を取り、
酒盛りの時間となった。
サイダーを飲みながら縁側に腰掛けていると、
スグル君は大学は何処に行きたいの?
将来は何になりたいの?
と離れて住む叔父や従兄弟が一族の男の中で一番若い私を囲み、
いろいろ質問する。
私は膝を見つめながら、
ぽつぽつと答えていた。
ガールフレンドいるの?
と聞かれて、
男子校ですから、
と答えると、
叔父さんも男子校だったけれど向かいの女子校の女の子と仲良くなって、
よく映画館とか喫茶店に行ったもんだ、駄目だよ勉強ばかりじゃ、
二郎君みたいになっちゃうよ、
と酔っ払った真っ赤な顔で言った。
二郎叔父はすぐ隣でへらへらと笑っている。
私はいたたまれなくなって、
ちょっと、おつまみ取ってきます、とその場を去った。
古びた濃い茶色の木張りの廊下をぎしぎしさせながら、
台所に向かうと、
女性陣が台所と、
その隣の六畳間で盛り付けと片付けに精を出していた。
ある近くに住む親戚の女性がおにぎりを握りながら
盛んに口を動かしている。
「ほら山口さんの奥さんって、
占いとか神様とか好きじゃない?
それでこの前、
島の拝み屋の鬼塚先生を呼んだのよ。
そしたら小虎君も先生の荷物を抱えて、
ついてきたんですって!
先生はいつものように座布団にどかって座って、
お茶を飲んでお菓子を食べて、
世間話をしだしたんだけど、
それが島の橋の話から、
俳優の不倫の話にまで及んで、
延々と止まらないのよ。
小虎君はずっとその間、
横で正座していて、
一言も話さないんだけど、
たまにオドオドと、
お菓子に手を伸ばしたりすると、
先生が、
ばかやろう!
半人前のただ飯ぐらいのくせに!
とどなって、
手をぴしゃっ!
と打つんですって!
山口さんは可哀想になって先生を宥めて、
これは小虎君の分って、
ケーキ用のお皿にいくつか若い子が好きそうな洋菓子を入れて、
小虎君が座っている前に置いてあげたらしいわ。
先生は、
お昼に来て、
もう夜の八時近いのにおしゃべりとおやつばっかり。
その合間に、
お手伝いさんがお茶のお代わりを持ってきたりすると、
お尻を触ったり、
男はできたのか?
ってからかったりしてなかなか本題に入らないんですって。
それで奥さんがついに痺れをきらして、
あの……息子は今年こそ試験に合格するでしょうか?
って聞くとやっと先生はああと言って、
小虎君を連れて、
奥の部屋に着替えに行ったらしいわ。
先生が着物姿で出てくると、
小虎君も白い着物に鉢巻をして、
両手にお道具を抱えていたそうよ。
先生が鏡に向かってお祈りした後、
小虎君の手を叩くの、
すると小虎君が先生の耳元で何かぼそぼそと言ったというのよ!
すると先生が奥さんの方を向いて、
予備校を変えた方が良いとか、
憲法はもういいから民法を勉強なさいとか言うんですって。
奥さんが言うには、
先生は小虎君に聞いたのをそのまま伝えているだけじゃないかって。
最後に息子さんの参考書を先生の前に出すと、
先生が筆を硯につけた後、
筆を額に当てて気を込めなさった後に、
小虎君におい!
とどなったらしいわ。
するとさっきまで天井の方を向いてにこにこ笑っていた小虎君が先生の筆を取って、
鼻歌を歌いながら、
参考書の裏表紙にお人形さんと熊さんが森で遊んでいる、
可愛らしい絵を描いたそうよ。
前は先生が立派な字で護符を書いてくださったのに、
いつの間に小虎君のお絵かきになっちゃったのかしらね!?」
一連の託宣、祈祷が終わると終わると、
「先生」と、
呪い用具を抱えた小虎は着替えをした部屋に戻ったらしい。
ふすまから
「もたもたしやがって!
このぐず!」
という怒声が響いたそうだ。
山口さんの奥さんは、
先生に謝礼を渡した後、
スラックスとポロシャツの入った紙袋を、
小虎に差し出したという。
スーパーのバーゲンで安かったから息子の為に買ったものの、
息子に
「こんなださいの着れるか!」
とつきかえされた服だったそうだ。
小虎の着ていた洋服があまりにもぼろぼろで体に合っていないのを
見るに見かねてのことだったという。
山口さんによると小虎の着ていたものは、
おそらく、
そのよく肥えた大男の「先生」のお下がりだという。
派手な和柄がプリントされたぶかぶかのトレーナーだったらしい。
先生に、
これ!
お礼をいいなさいと、
背中を押されると、
小虎がぺこりとお辞儀をしたという。
その時に大きく覗いた小虎の胸元には
青あざがあったそうだ。
お盆に親戚達が集まった。
お坊さんが帰った後、
出前の寿司を取り、
酒盛りの時間となった。
サイダーを飲みながら縁側に腰掛けていると、
スグル君は大学は何処に行きたいの?
将来は何になりたいの?
と離れて住む叔父や従兄弟が一族の男の中で一番若い私を囲み、
いろいろ質問する。
私は膝を見つめながら、
ぽつぽつと答えていた。
ガールフレンドいるの?
と聞かれて、
男子校ですから、
と答えると、
叔父さんも男子校だったけれど向かいの女子校の女の子と仲良くなって、
よく映画館とか喫茶店に行ったもんだ、駄目だよ勉強ばかりじゃ、
二郎君みたいになっちゃうよ、
と酔っ払った真っ赤な顔で言った。
二郎叔父はすぐ隣でへらへらと笑っている。
私はいたたまれなくなって、
ちょっと、おつまみ取ってきます、とその場を去った。
古びた濃い茶色の木張りの廊下をぎしぎしさせながら、
台所に向かうと、
女性陣が台所と、
その隣の六畳間で盛り付けと片付けに精を出していた。
ある近くに住む親戚の女性がおにぎりを握りながら
盛んに口を動かしている。
「ほら山口さんの奥さんって、
占いとか神様とか好きじゃない?
それでこの前、
島の拝み屋の鬼塚先生を呼んだのよ。
そしたら小虎君も先生の荷物を抱えて、
ついてきたんですって!
先生はいつものように座布団にどかって座って、
お茶を飲んでお菓子を食べて、
世間話をしだしたんだけど、
それが島の橋の話から、
俳優の不倫の話にまで及んで、
延々と止まらないのよ。
小虎君はずっとその間、
横で正座していて、
一言も話さないんだけど、
たまにオドオドと、
お菓子に手を伸ばしたりすると、
先生が、
ばかやろう!
半人前のただ飯ぐらいのくせに!
とどなって、
手をぴしゃっ!
と打つんですって!
山口さんは可哀想になって先生を宥めて、
これは小虎君の分って、
ケーキ用のお皿にいくつか若い子が好きそうな洋菓子を入れて、
小虎君が座っている前に置いてあげたらしいわ。
先生は、
お昼に来て、
もう夜の八時近いのにおしゃべりとおやつばっかり。
その合間に、
お手伝いさんがお茶のお代わりを持ってきたりすると、
お尻を触ったり、
男はできたのか?
ってからかったりしてなかなか本題に入らないんですって。
それで奥さんがついに痺れをきらして、
あの……息子は今年こそ試験に合格するでしょうか?
って聞くとやっと先生はああと言って、
小虎君を連れて、
奥の部屋に着替えに行ったらしいわ。
先生が着物姿で出てくると、
小虎君も白い着物に鉢巻をして、
両手にお道具を抱えていたそうよ。
先生が鏡に向かってお祈りした後、
小虎君の手を叩くの、
すると小虎君が先生の耳元で何かぼそぼそと言ったというのよ!
すると先生が奥さんの方を向いて、
予備校を変えた方が良いとか、
憲法はもういいから民法を勉強なさいとか言うんですって。
奥さんが言うには、
先生は小虎君に聞いたのをそのまま伝えているだけじゃないかって。
最後に息子さんの参考書を先生の前に出すと、
先生が筆を硯につけた後、
筆を額に当てて気を込めなさった後に、
小虎君におい!
とどなったらしいわ。
するとさっきまで天井の方を向いてにこにこ笑っていた小虎君が先生の筆を取って、
鼻歌を歌いながら、
参考書の裏表紙にお人形さんと熊さんが森で遊んでいる、
可愛らしい絵を描いたそうよ。
前は先生が立派な字で護符を書いてくださったのに、
いつの間に小虎君のお絵かきになっちゃったのかしらね!?」
一連の託宣、祈祷が終わると終わると、
「先生」と、
呪い用具を抱えた小虎は着替えをした部屋に戻ったらしい。
ふすまから
「もたもたしやがって!
このぐず!」
という怒声が響いたそうだ。
山口さんの奥さんは、
先生に謝礼を渡した後、
スラックスとポロシャツの入った紙袋を、
小虎に差し出したという。
スーパーのバーゲンで安かったから息子の為に買ったものの、
息子に
「こんなださいの着れるか!」
とつきかえされた服だったそうだ。
小虎の着ていた洋服があまりにもぼろぼろで体に合っていないのを
見るに見かねてのことだったという。
山口さんによると小虎の着ていたものは、
おそらく、
そのよく肥えた大男の「先生」のお下がりだという。
派手な和柄がプリントされたぶかぶかのトレーナーだったらしい。
先生に、
これ!
お礼をいいなさいと、
背中を押されると、
小虎がぺこりとお辞儀をしたという。
その時に大きく覗いた小虎の胸元には
青あざがあったそうだ。
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