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第25章 インターネット時代

インターネット時代(1)

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「ただいま」

パソコンでニュースサイトを見ていると、
カチャリとアパートのドアが開いた。

妻のゆり子が入って来る。

編み込みにした髪をアップにしてビーズのへアクセサリーをつけている。

ロングブーツを脱ぎ、
フェイクファーの白いコートを取ると、
ドレスはふわふわとしたバレリーナを思わせるようなピンクのスカートだった。

いつもに増してかわいい。

高校時代の友達の結婚式だったそうだ。

ああ疲れた!
と床に大きな紙袋を置いた。

式場で使ったのをもらったの、
と紙袋からいく塊かの花束を取り出す。

根元に巻かれていたティッシュを取って、
少し茎を切り、
花瓶に生けていく。

あまり花が多いので花瓶が足らず、
コップにも生ける。

テーブルの上がカーネーションやスイトピーの花だらけになった。

冬の夜、
我が家のダイニングにだけ春が訪れたかのようだった。

「あのカップルなんだか親近感持つわ。
あの人たちもネットで知り合ったんですって」

「僕達はネットで知り合ったんじゃなくて、
小学校の時の同級生じゃないか?」

「でもSNSがなければ私達、
卒業以来二度と会わなくて、
結婚なんかしなかったわ」

確かに彼女の言う通りである。

彼女、
竹中ゆり子とは小学三年生から卒業までのクラスメートだ。

女の子とばかり遊んでいるのをからかわれた時、
かばってくれたあの背の高い少女である。

就職して数年後の、MIXIが流行っていた頃だった。

友達から招待状を受け取って登録した私は出身小学校のグループを見つけた。

早速グループに加わると、
職場の近くのレストランでOFF会が開かれるという知らせをもらった。

そこで私は妻と十数年ぶりに再会したのである。

当時体が大きく、
姉のように私を守ってくれた彼女はいつのまにか私より頭一つ小さくなっていた。

話し方や立ち振る舞いも少女のようで可憐だった。

淡いオレンジの花柄の膝上のスカートから白い網タイツにまとわれた綺麗な足が伸びていた。

ふんわりとしたクリーム色のブラウスから華奢な手を覗かせ、
少しうつむいて、
頬を赤らめていた。

「田中君たら、
男らしくなっちゃって見違えたわ」

私は彼女に一目惚れした。

それまで彼女いない暦イコール年齢で女性に対してはシャイだったのに、
まるで別人になったかのように積極的にアタックした。

彼女はにっこりと私を受け入れてくれた。

再会して二年目に結婚式を挙げた。

結婚と同時に私は田中から竹中姓になった。

一人娘である彼女の家の婿養子になったのである。

実家の方は研修医の期間を終えてすぐに妹と結婚した酒屋の直人さんがついでいた。

この話をするとわざわざ息子さんを養子に出して、
お婿さんもらうなんて変わったお家ですね、
と人は言う。

「ねえインターネットって私たちの生活を劇的に変えたと思わない?
今までなら二度と会わなかった人とまた会って結婚することになったり……」

という妻に何をいまさら……、
と答えつつ、
私は急にあることを思い立った。

GOOGLE の検索BOXに「武藤健一」とケンイチの名前をタイプして検索ボタンをクリックした。

いくつか彼と同姓同名の人の記事がでてきたが、
年齢や顔立ちからいって赤の他人だった。

今度はFACE BOOKにログインして同じ事を試してみた。

検索する名前をカタカナにしたり、
ローマ字にしたりしてケンイチを探したがやはり見つからない。

私はふと急に思い立ち、
GOOGLEの検索ページに戻った。

木林虎之助、
と入れた。

これで漢字が合っていただろうか?
と疑いながらクリックする。

出てこない。

今度は鬼塚霊術、
で検索してみた。

一番上のページに
『宗教法人鬼塚霊術 ○○島の自然に包まれて、日本国の安寧と人々の幸せを祈る』
という青い文字が見える。

鼓動を早めて文字をクリックした。

ニューエイジミュージック風の音楽が流れる。

見覚えのある島の景観の写真に彩られたグリーンを基調としたホームページが現れた。

着物姿の坊主頭の青年の写真があり、
下に「代表鬼塚虎之助」と書かれている。

写真をクリックすると写真が大きくなった。

紺色の羽織袴の坊主頭の美少年がほんのり笑みをたたえている。

私は、
「こっ、
ことらっ!」
と声を上げた。

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