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第27章 積年の思い
積年の思い(1)
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ホームに降りると東京より少し寒さは優しかった。
暖かいね、
やっぱり黒潮の影響だろうか?
とペンキで塗り分けられた車体の列車を見送った。
辺りを見回す。
十五年ぶりの故郷は思っていたよりもずっと辺鄙に見えた。
映画のロケに使えそうな、
昭和時代を思い起こさせる駅周辺である。
駅舎は高架に変わっていた。
灰色の階段を上りきる。
茶色い床の向こうに改札口が三つ並んでいる。
急いでモバイルsuica をチャージして、
改札口に向かう。
がらんとした駅舎の中のベンチには、
着物姿のほっそりした若い男がいた。
海老茶色の着物に同じ色の袴をはいている。
腰から下は長くて、
ひょろりという言葉がよく似合っていた。
坊主を少し伸ばしたような短い髪。
色白で遠目にも整った顔立ちだった。
少々大げさな程、
足を開いている。
袖から覗いた黒いミトンを膝の上にのせていた。
まるで針金で固定されたようだった。
と思うとミトンを膝から離して、
顔の前に広げた。
口を尖らせて、
手に息を吹きかけている。
小虎を思わせたが、
彼に会う約束をしたのは、
二日後の夕方六時に駅の近くの居酒屋でだったし……
「でも、
やっぱり似ている」
早く近くで確かめたくて、
いそいそと改札にスマートフォンをくっつける。
ぴっという音が鳴り、
改札口を出た時だった。
ベンチ脇の、
下に降りる階段から人がやってきた。
革ジャンに黒いパンツ、
革靴を履いた、
細身の小柄な男だった。
スマートフォンを耳にあてて、
誰かに電話をしているようだった。
私は彼を見て懐かしい感じがした。
「もしかして……
でもまさか!?」
着物の青年が立ち上がった。
革ジャンの男が近づいてきた。
革ジャンの男も、
着物の男も私の顔に目線を投げている。
私はもう一度男達の顔をまじまじと見て、
人間違えでないことを確認した。
思いきって口を開く、
「ケンイチ!
小虎兄ちゃん!
なんでここに?」
「スグル!?
やっぱりそうか!
やっぱりスグルだったんだ!」
十数年ぶりに見たケンイチは記憶より、
ずっと小柄で華奢だった。
思い出の中の彼は、
私より背が高かったのに、
いま隣に立つと明らかに私の方が目の位置が上だ。
「ずっとスグルじゃないかと思っていたんだけど、
苗字が竹中だからやっぱり違うかなって、
でもやっぱりスグルだったんだ!
でもなんで竹中なんだ?」
相変わらず爽やかなイケメン(当時はこんな言葉はなかったが)だった。
着ている物も、
片田舎では目立つであろう。
あかぬけている。
「本当にすごい偶然だな!
でもまあ、
虎に会ってからずっと不思議なことばかりだからたいして驚かないけど」
真っ白だった白目はすりガラスのように濁っていた。
声は弱弱しく、
かすれていた。
かつてまぶしく見えた、
小麦色の肌も、
今ではかえって不健康に見えた。
「それにしても、
虎!
お前ってやっぱりすごいな!
本当にスグルが改札口から出てきた」
ケンイチは今は小虎と一緒に、
自宅兼仕事場の島の家に住んでいるそうだ。
そこで、
三十分ぐらい前に、
ホームページの更新をしていると、
小虎が急に出かける準備を始めたという。
訳を聞くと、
スグル君がもうじき駅につくから迎えにいこう!
と言ったらしい。
約束は二日後の夜だったのに……
といぶかしくは思ったが、
小虎の今までのこういうことは結構あたっていた。
そこで、
車を走らせて、
駅にやってきたという。
「それで、
本当にお前が出てきて、
しかもあのスグルだし、
もう本当になんというか、
この世の中にこんなことってあるんだというか……」
私は妻をちらりと見た、
妻は不審そうな顔をしている。
小虎はまるでタイムマシンで十数年前からやってきたような姿で私の前で、
私の目の前に手を伸ばした。
風呂上りのようなつややかな顔で微笑みを浮かべ
私を見上げている。
ここまで澄んだ瞳はもうここ何年も見たことがなかった気がする。
スグル君お土産は?
と無邪気な男の子のように聞く。
妻が目を見開いて少し眉をしかめて、
私を見つめている。
暖かいね、
やっぱり黒潮の影響だろうか?
とペンキで塗り分けられた車体の列車を見送った。
辺りを見回す。
十五年ぶりの故郷は思っていたよりもずっと辺鄙に見えた。
映画のロケに使えそうな、
昭和時代を思い起こさせる駅周辺である。
駅舎は高架に変わっていた。
灰色の階段を上りきる。
茶色い床の向こうに改札口が三つ並んでいる。
急いでモバイルsuica をチャージして、
改札口に向かう。
がらんとした駅舎の中のベンチには、
着物姿のほっそりした若い男がいた。
海老茶色の着物に同じ色の袴をはいている。
腰から下は長くて、
ひょろりという言葉がよく似合っていた。
坊主を少し伸ばしたような短い髪。
色白で遠目にも整った顔立ちだった。
少々大げさな程、
足を開いている。
袖から覗いた黒いミトンを膝の上にのせていた。
まるで針金で固定されたようだった。
と思うとミトンを膝から離して、
顔の前に広げた。
口を尖らせて、
手に息を吹きかけている。
小虎を思わせたが、
彼に会う約束をしたのは、
二日後の夕方六時に駅の近くの居酒屋でだったし……
「でも、
やっぱり似ている」
早く近くで確かめたくて、
いそいそと改札にスマートフォンをくっつける。
ぴっという音が鳴り、
改札口を出た時だった。
ベンチ脇の、
下に降りる階段から人がやってきた。
革ジャンに黒いパンツ、
革靴を履いた、
細身の小柄な男だった。
スマートフォンを耳にあてて、
誰かに電話をしているようだった。
私は彼を見て懐かしい感じがした。
「もしかして……
でもまさか!?」
着物の青年が立ち上がった。
革ジャンの男が近づいてきた。
革ジャンの男も、
着物の男も私の顔に目線を投げている。
私はもう一度男達の顔をまじまじと見て、
人間違えでないことを確認した。
思いきって口を開く、
「ケンイチ!
小虎兄ちゃん!
なんでここに?」
「スグル!?
やっぱりそうか!
やっぱりスグルだったんだ!」
十数年ぶりに見たケンイチは記憶より、
ずっと小柄で華奢だった。
思い出の中の彼は、
私より背が高かったのに、
いま隣に立つと明らかに私の方が目の位置が上だ。
「ずっとスグルじゃないかと思っていたんだけど、
苗字が竹中だからやっぱり違うかなって、
でもやっぱりスグルだったんだ!
でもなんで竹中なんだ?」
相変わらず爽やかなイケメン(当時はこんな言葉はなかったが)だった。
着ている物も、
片田舎では目立つであろう。
あかぬけている。
「本当にすごい偶然だな!
でもまあ、
虎に会ってからずっと不思議なことばかりだからたいして驚かないけど」
真っ白だった白目はすりガラスのように濁っていた。
声は弱弱しく、
かすれていた。
かつてまぶしく見えた、
小麦色の肌も、
今ではかえって不健康に見えた。
「それにしても、
虎!
お前ってやっぱりすごいな!
本当にスグルが改札口から出てきた」
ケンイチは今は小虎と一緒に、
自宅兼仕事場の島の家に住んでいるそうだ。
そこで、
三十分ぐらい前に、
ホームページの更新をしていると、
小虎が急に出かける準備を始めたという。
訳を聞くと、
スグル君がもうじき駅につくから迎えにいこう!
と言ったらしい。
約束は二日後の夜だったのに……
といぶかしくは思ったが、
小虎の今までのこういうことは結構あたっていた。
そこで、
車を走らせて、
駅にやってきたという。
「それで、
本当にお前が出てきて、
しかもあのスグルだし、
もう本当になんというか、
この世の中にこんなことってあるんだというか……」
私は妻をちらりと見た、
妻は不審そうな顔をしている。
小虎はまるでタイムマシンで十数年前からやってきたような姿で私の前で、
私の目の前に手を伸ばした。
風呂上りのようなつややかな顔で微笑みを浮かべ
私を見上げている。
ここまで澄んだ瞳はもうここ何年も見たことがなかった気がする。
スグル君お土産は?
と無邪気な男の子のように聞く。
妻が目を見開いて少し眉をしかめて、
私を見つめている。
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