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第27章 積年の思い
積年の思い(2)
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ケンイチは家に向かう車の中で話してくれた。
彼は小虎の遠縁にあたるそうだ。
大学一年生の時、
良子の法事に父親の代理で出席した。
その時に明らかに鬼塚から虐待を受けている様子の小虎を見かけ、
それ以来、
気にかけていたという。
ただその頃は彼はまだ学生で、
何もできなかった。
大学を何回か転校と転部を繰り貸して、
人より倍近くの時間をかけて、
卒業した。
卒業後、
アルバイトを続けながら起業をしたものの、
経営は軌道に乗らなかった。
生計のほとんどをアルバイトに頼る生活が続いた。
あることをきっかけに、
先祖の墓参りの為に白砂町にやってきた時だった。
かつて小虎の稼ぎをろくすっぱ彼に還元せず
自分一人楽な暮らしをしていた鬼塚が死んだことを親戚から耳にした。
それを聞いたケンイチはふと思い立ち、
「鬼塚霊術」の後をついだ小虎の後見をすることにしたそうだ。
「宗教法人にしたら随分税金が節約できたんだよ。
WEBマーケティングに力を入れたら全国から依頼がくるようになり
信者さんも増えたんだ。
忙しさにとりまぎれて、
つい自分は小虎の世話をしてやってるなんて思いあがってしまう時もある。
けれども俺もWEB製作の会社は上手くいかなかったわけだし、
大学で学んだことも今こうして生かせているわけだし、
俺こそ彼によりかかっているようなもんだよ」
「そんなことないよ。
すごく感謝している。
本当は僕がやらないといけないことだったのに……」
ミラーに映るケンイチが少し眉を上げて、
目を見開いた後に
「悪かったな。
ぜんぜん音沙汰なしで……
でもいろいろあってお前に近況知られたくなかったんだ。
お前、俺を崇拝していたようなところがあったから……
こんなしょぼくれた姿見せたくなくて。
本当は宗教やっているなんて知られたくなかったけど、
もう知られちゃったからしかたない。
逃げやしないよ」
そんなことを話しているうちにさっきからご機嫌で鼻歌を歌っていた小虎が大声でめでたいな!を絶唱しだした。
妻がびっくりした顔で私をじっと見上げている。
あまりに音が車内に響くので窓を開けた。
車内を冬の風が吹き抜ける。
窓一杯にススキ畑が広がり、
視界には他には何もない。
「めでたいな!
めでたいな!」
小虎の声がススキ野原を渡っていく。
「めでたいな!
めでたいな!」
朗々とした声が、
ススキの海に吸い込まれていく。
冷たい風が私の頬を洗う。
ススキの向こうから青々と茂る防風林が見えた。
林とススキは海風に吹かれ陸側に倒れている。
小虎は瞳をらんらんとさせて荒野を見つめている。
私は時折顔を輝かせ、
こちらを振り向く小虎を見つめてその美少年ぶりに感心した。
最近会社の女の子達が騒いでいる、
若手俳優なんか目じゃないほどだ。
昔から見た目は良い方だったけど、
ここまでだっただろうか?
そりゃあ良子おばさんに瓜二つなのだから、
美男子でないはずがないのだけれど……
と叫びまくる小虎の背中を眺めていた。
あるひらめきが沸き起こった。
「彼が変わったわけじゃない。
自分が若さのきらめきを失ったのだ。
美しくない者から美しい者はより一層まぶしく見えるのだ」
私は小虎に、
うんめでたいね、
いままで離れ離れになっていた友達がまた会えたんだから、
と笑いかけた。
妻が複雑そうな顔で私を眺めている。
彼は小虎の遠縁にあたるそうだ。
大学一年生の時、
良子の法事に父親の代理で出席した。
その時に明らかに鬼塚から虐待を受けている様子の小虎を見かけ、
それ以来、
気にかけていたという。
ただその頃は彼はまだ学生で、
何もできなかった。
大学を何回か転校と転部を繰り貸して、
人より倍近くの時間をかけて、
卒業した。
卒業後、
アルバイトを続けながら起業をしたものの、
経営は軌道に乗らなかった。
生計のほとんどをアルバイトに頼る生活が続いた。
あることをきっかけに、
先祖の墓参りの為に白砂町にやってきた時だった。
かつて小虎の稼ぎをろくすっぱ彼に還元せず
自分一人楽な暮らしをしていた鬼塚が死んだことを親戚から耳にした。
それを聞いたケンイチはふと思い立ち、
「鬼塚霊術」の後をついだ小虎の後見をすることにしたそうだ。
「宗教法人にしたら随分税金が節約できたんだよ。
WEBマーケティングに力を入れたら全国から依頼がくるようになり
信者さんも増えたんだ。
忙しさにとりまぎれて、
つい自分は小虎の世話をしてやってるなんて思いあがってしまう時もある。
けれども俺もWEB製作の会社は上手くいかなかったわけだし、
大学で学んだことも今こうして生かせているわけだし、
俺こそ彼によりかかっているようなもんだよ」
「そんなことないよ。
すごく感謝している。
本当は僕がやらないといけないことだったのに……」
ミラーに映るケンイチが少し眉を上げて、
目を見開いた後に
「悪かったな。
ぜんぜん音沙汰なしで……
でもいろいろあってお前に近況知られたくなかったんだ。
お前、俺を崇拝していたようなところがあったから……
こんなしょぼくれた姿見せたくなくて。
本当は宗教やっているなんて知られたくなかったけど、
もう知られちゃったからしかたない。
逃げやしないよ」
そんなことを話しているうちにさっきからご機嫌で鼻歌を歌っていた小虎が大声でめでたいな!を絶唱しだした。
妻がびっくりした顔で私をじっと見上げている。
あまりに音が車内に響くので窓を開けた。
車内を冬の風が吹き抜ける。
窓一杯にススキ畑が広がり、
視界には他には何もない。
「めでたいな!
めでたいな!」
小虎の声がススキ野原を渡っていく。
「めでたいな!
めでたいな!」
朗々とした声が、
ススキの海に吸い込まれていく。
冷たい風が私の頬を洗う。
ススキの向こうから青々と茂る防風林が見えた。
林とススキは海風に吹かれ陸側に倒れている。
小虎は瞳をらんらんとさせて荒野を見つめている。
私は時折顔を輝かせ、
こちらを振り向く小虎を見つめてその美少年ぶりに感心した。
最近会社の女の子達が騒いでいる、
若手俳優なんか目じゃないほどだ。
昔から見た目は良い方だったけど、
ここまでだっただろうか?
そりゃあ良子おばさんに瓜二つなのだから、
美男子でないはずがないのだけれど……
と叫びまくる小虎の背中を眺めていた。
あるひらめきが沸き起こった。
「彼が変わったわけじゃない。
自分が若さのきらめきを失ったのだ。
美しくない者から美しい者はより一層まぶしく見えるのだ」
私は小虎に、
うんめでたいね、
いままで離れ離れになっていた友達がまた会えたんだから、
と笑いかけた。
妻が複雑そうな顔で私を眺めている。
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