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第17章 友との帰省
友との帰省(2)
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小虎にはあの芝居に出た日以来一度も会わずじまいだった。
さすがに私も四十日間ある夏休みには毎年帰っていた。
しかし新しい学校の友達、
難しくなった勉強、
それにクワイヤに夢中だった私は一度も彼に会いに行こうとしなかった。
毎年、
夏休みも終わりいよいよ家を出るという時になって、
わたしは始めて小虎のことを思い出した。
二郎叔父に彼の消息を聞いた。
二郎叔父がうん、
元気にしているらしいよ、
と答えると私はすっかり安心して、
来年会えればいいさ、
と思った。
毎年学校に戻るときに小虎を思い出す、
というのは嘘だった。
去年はロバートが九月の初めに学校に短期間だけやってくることになった。
彼に会う一ヶ月も前から待ち焦がれて、
ほかの事は眼中にないというありさまだったから、
去年の夏は小虎のことなんかつゆとも思い出さなかったのだ。
私が目覚ましをセットして床に入るとケンイチに声をかけた
「君は今回も帰らないの?」
ケンイチは私の知る限り一度も帰省したことがないのだ。
前も言っただろう、
俺の親父インディジョーンズみたいな考古学者なんだ、
世界中飛び回っていて日本になんかいないから家に帰ったってしょうがないさ、
とめんどくさそうにページをめくった。
ケンイチの父親は私の家の近所出身で
「聖コロンバ学園 白砂町校」の卒業生だという。
まったく家庭を顧みない人で母親は彼が幼い頃に出ていった。
イギリスに住んでいた未亡人の大叔母に育てられていたけど、
もう年寄りなので家を売って老人ホームに入った。
横浜駅前にある父のマンションがいちおう彼の自宅ということにはなっているが、
実際そこに彼の部屋はない。
帰るところなんかないのさ!
別にさみしくもなんともないけどね、
というのが一度だけ手短に聞かせてもらったケンイチの身の上話だ。
「あのさ」
私は胸をどきどきさせながら口を開いた、
三年も同じ部屋で寝起きをしてきて兄も同然だった彼にまだ遠慮があったのだ。
「今回はきみもうちにこない?」
ケンイチが暗闇の猫のように目をまんまるくする。
右手を本から離した。
本が開いたまま縦にだらりと垂れた。
「そんな……
家族水入らずの所、邪魔だろ!?」
「ううん、
さっき思い出したんだ。
夏休みに帰ったとき、
父さんも母さんも二郎叔父さんも皆今度はケンイチもつれてきなさいって言ってた」
次の日、
私とケンイチは朝早く寮を出た。
正門前のバス停に向かう。
私は山登り用のリュックに三十リットルのスーツケースをひきずっていた。
スーツケースの車輪の振動が体に響く。
ケンイチはクワイヤの大会の遠征の時にも使っているボストンバッグを肩にかけて、
長い足で軽やかに歩いて行く。
さすがに私も四十日間ある夏休みには毎年帰っていた。
しかし新しい学校の友達、
難しくなった勉強、
それにクワイヤに夢中だった私は一度も彼に会いに行こうとしなかった。
毎年、
夏休みも終わりいよいよ家を出るという時になって、
わたしは始めて小虎のことを思い出した。
二郎叔父に彼の消息を聞いた。
二郎叔父がうん、
元気にしているらしいよ、
と答えると私はすっかり安心して、
来年会えればいいさ、
と思った。
毎年学校に戻るときに小虎を思い出す、
というのは嘘だった。
去年はロバートが九月の初めに学校に短期間だけやってくることになった。
彼に会う一ヶ月も前から待ち焦がれて、
ほかの事は眼中にないというありさまだったから、
去年の夏は小虎のことなんかつゆとも思い出さなかったのだ。
私が目覚ましをセットして床に入るとケンイチに声をかけた
「君は今回も帰らないの?」
ケンイチは私の知る限り一度も帰省したことがないのだ。
前も言っただろう、
俺の親父インディジョーンズみたいな考古学者なんだ、
世界中飛び回っていて日本になんかいないから家に帰ったってしょうがないさ、
とめんどくさそうにページをめくった。
ケンイチの父親は私の家の近所出身で
「聖コロンバ学園 白砂町校」の卒業生だという。
まったく家庭を顧みない人で母親は彼が幼い頃に出ていった。
イギリスに住んでいた未亡人の大叔母に育てられていたけど、
もう年寄りなので家を売って老人ホームに入った。
横浜駅前にある父のマンションがいちおう彼の自宅ということにはなっているが、
実際そこに彼の部屋はない。
帰るところなんかないのさ!
別にさみしくもなんともないけどね、
というのが一度だけ手短に聞かせてもらったケンイチの身の上話だ。
「あのさ」
私は胸をどきどきさせながら口を開いた、
三年も同じ部屋で寝起きをしてきて兄も同然だった彼にまだ遠慮があったのだ。
「今回はきみもうちにこない?」
ケンイチが暗闇の猫のように目をまんまるくする。
右手を本から離した。
本が開いたまま縦にだらりと垂れた。
「そんな……
家族水入らずの所、邪魔だろ!?」
「ううん、
さっき思い出したんだ。
夏休みに帰ったとき、
父さんも母さんも二郎叔父さんも皆今度はケンイチもつれてきなさいって言ってた」
次の日、
私とケンイチは朝早く寮を出た。
正門前のバス停に向かう。
私は山登り用のリュックに三十リットルのスーツケースをひきずっていた。
スーツケースの車輪の振動が体に響く。
ケンイチはクワイヤの大会の遠征の時にも使っているボストンバッグを肩にかけて、
長い足で軽やかに歩いて行く。
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