小虎|僕を愛して身代わりになってくれた彼が、霊能者になるなんて!!

宇美

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第16章 茶畑の中の学校

茶畑の中の学校(3)

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二郎叔父が行ってしまうと、
教頭先生は寮の先生に挨拶しに行こうと言った。

教頭室を出て渡り廊下をずっと進んだ。

君、
お父さんに似てないね!
とか、
お父さん今もクラリネットやってる?
(父は吹奏楽部でクラリネットをやっていたらしい)
とか話しかけられて、
私は緊張しながらぼつぼつと返事した。

窓の外には傾斜地に合わせて建てられたような高床式の建物が見える。

ペンキ塗りの壁が夕陽を映して赤い。

教頭先生は指差して、
あれは高校生の寮だよ、
中学生の寮はもっと先、
と教えてくれた。

空気はひんやりしていた。

山の中だからだろうか?

暗くてよく見えない大きな額絵を取りすぎたところで、
シンスケ先生!
シンスケ先生!
と言う声がして教頭先生が振り向いた。

後ろを向くと運動着の四十歳ぐらいの先生がいた。

その先生と少し話しこむと教頭先生はすぐに戻るからちょっと待っててね、
と言ってもと来た道を戻って行った。

私は山奥の学校の肌寒い渡り廊下で一人残されて心細くなった。

左の壁の額絵はぼんやり雪のような白い光を放っていた。

ふと灯りがついた。

暗闇から巨大な白い肉体が浮かびあがった。

ふくよかな若い体だった。

白い髭に長髪のしわだらけの老人が嘆きの表情で
腰を薄い布で覆っただけの少年を抱きかかえている。

少年はろうのような肌を天にさらすかのように横たえていた。

暗い油絵の中の右端から光線が落ちている。

少年の体を照らしていた。

光の中にはふてぶてしいほど豊かな体つきの天使が飛んでいた。

私はまた少年の顔に目を向けた。

女性のように優しい顔をしている。

ふっくらとした頬、
赤い珊瑚色の唇、
長く濃い睫毛。

その下の目は閉じられていた。

見覚えのある顔立ちだった。

小虎に似ているようにも思えたが、
なまめかしすぎる。

私はこれは良子だと思った。

顎から肩のラインは雲のように柔らかだ。

深い鎖骨は良子のそれを思い起こさせた。

癖のある黒髪から肉付きゆたかな足指の先まで、
艶やかで生々しい。

それなのに死んでいるように見える。

画面に広がる全身の何処にも力が入っていなく、
首も、
足と手の指も重力に任せるように、
下に垂れている。

絵の下をみると
「197×年
聖コロンバ学園
白砂町校高等部卒業生
木林寛輔作
イサクの燔祭」
と札がある。

ふと歌声が渡ってきた。

聖歌だった。

オルガンに彩られた清流のようなボーイソプラノだった。

私は東京に住んでいたクリスチャンだった母方の祖母の葬式を思い出した。

私はまた絵の中の少年を眺めた。

白い体は下へ下へと、
地へと向かって、
沈んでいくように見える。

この歌はこの子の葬送歌だと思った。

コノエガスキデスカ?
と声がした。

身を滝で清められるような音色の中、
後ろに暖かな空気がかぶさった。

振り向くと、
黒いワンピース姿の白髪の西洋人がいた。

一瞬絵の中の老人が抜け出てきたかと思ったが、
ずっと優しい顔立ちである。

滑らかな皮膚の持ち主で、
鏡のように綺麗な白髪に髭だった。

流暢だがなまりのある日本語でイチロウサンノムスコサンデスカ?
と聞く、
彼はこの学校ができる前、
私の転校前の学校で宗教の先生をしていたという。

父も教えたことがあるそうで、
父のことをよく覚えているそうだ。

教頭先生は急用ができたので、
代わりに寮長の彼が来たという。
絵について尋ねられた私は

「いけにえにされるイサクですね?」

と答えた。

ヨクシッテイマスネ、
とその年老いた神父さん先生は目を細めた。

私は昔、
クリスチャンだった祖母が子供向けの絵入り聖書を送ってくれて、
旧約聖書の途中まで読んだことを話した。

するとソレハスバラシイ、
ゼヒ、
ソノセイショヲ、
スベテオヨミナサイ、
と勧める。

それから
「197×年 聖コロンバ学園
白砂町校高等部卒業生 木林寛輔作
イサクの燔祭」
と書かれた絵の下の札を指差して、
この絵は画家になった、
白砂町校の卒業生が寄贈したものだと教えてくれた。

「パリニリュウガクシテ、
ビダイノセンセイ二ナラレタノデスガ、
ザンネンナコトニ、
ジュウサンネンマエニ、
ジコデカミサマ二メサレタノデス」

この会話の間中もずっと続いていた天上の歌声がぱたりとやんだ。

がたがたと音がして制服姿の少年達が楽譜片手にぞろぞろ歩いてきた。

私と同じ年頃のまだ声変わりしていない少年達が、
ジョアンのやつ!
まじむかつかね!?
まじ!
死ねってやつじゃね!?
とすっかり狎れあった様子で、
肩を押し合っている。

私は身構えた。

お爺さん神父さんは優しげな顔を、
一瞬にしてかっと赤くして怒りを表した。

「ジョアンセンセイハ
リッパナカタデスヨ!
キミタチ!
ソンナワルイコトバヲ
ツカッテハナリマセン!」

少年達はすみませんすみませんとぺこぺこした後去って言った。

「サイキンノ
ニホンノオトコノコ
ヨクアリマセンネ
キミハチガウトオモイマスガ……」
と髭に覆われた口元を尖らせた。
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