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第22章 真冬の夜
真冬の夜(3)
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小虎は私を私が元来た道へと引っ張っていった。
小虎の歩みはしだいに速くなる。
橋を抜け、
昔の武士の子供の学問所の跡地を通る。
石段を降りる。
石段を通ったところでは竹の葉が風に吹かれざわざわと音を立てている。
石段の半ばで私は小虎に待ってくれるようにたのんだ。
息をぜいぜいさせた。
運動はあまり好きではなくて文学少年だった私にはここまで小虎のスピードについてくるのは結構きつかったのだ。
小虎はまるで走るように歩く。
この辺りはかつて私が正太や美登利にいじめられていたのを小虎に助けてもらった場所だった。
幼かった私がもう大学を受験する年になったというのに、
ここは何も変わらない。
私はざわざわと言う音を聞きながら、
小学生の頃、
毎日時が流れるのがあんまりゆっくりなので、
大人たちが言うように、
自分もいずれは近所のお兄さんのように中学生になるなんて嘘で、
永遠に小学生のままではないか?
と疑っていたことを思い出した。
そして今自分が十八歳だというのは妄想で
本当は自分はまだランドセルをしょった小学生なのではないかという
錯覚のような思いが頭をよぎった。
冷たい空気が喉に入り込む。
小虎が私の瞳をのぞきこみ、
やさしく手を引っ張った。
私はうなずくと、
歩き出した小虎に従った。
小虎に手を引かれるままにたどり着いたのは
家から歩いて十分の水産高校だった。
門で小虎が少し止まった。
小虎の口元から白い息が煙のように昇っていく。
小虎は私に顔を傾け、
けぶるような表情を見せる。
電灯の光に照らされた小虎の顔は際立って白く見えた。
小虎は私の手を握ったまま、
走り始めた。
門を抜け少し行くと、
校庭に入った。
校舎の一階の左端と体育館風の天井の丸い建物だけあかりがついている。
小虎は体育館と校舎をつなぐ腰の高さの渡り廊下によじのぼり、
中に入った。
私もついていく。
校舎側に廊下を進むと入り口の鍵は開いていたので、
校舎に入った。
小虎は私の肩を組み、
身をかがめた。
私を向き指を口にあて、
しいっのしぐさをした。
あかりのついた部屋の廊下の前を
そろりそろりと通りすぎる。
つれていかれた場所は真っ暗だった。
目が慣れると、
小さなロッカーが並びそれぞれの扉に名札が書かれている。
小虎がぴたりと止まった。
私が呆然としていると、
小虎がロッカーの一つに指さした。
「木田美登利」、
そういえば美登利はこの水産高校に通っていると聞いていた。
小虎が皸だらけの手を美登利の下駄箱の取っ手にそえる。
金属音とともに戸が開く。
深い深い闇の中に小虎が手を差し込んだ。
「あれ!?
ない!」
小虎が初めて声を発した。
私はそうさ、
なんだって美登利の下駄箱なんかにあるっていうんだ!?
と心の中で思った。
小虎は、
ついさっきまでここにあったのに、
とぶつぶつと言っている。
小虎は目をつぶった。
手は合掌している。
その瞑想をする姿はお寺の暗いお堂の中の仏像のような趣があった。
周りがほんのり白い光で包まれているように見えた。
私は冷え冷えとした空気がかえってここちよいと思った。
小虎が目を開けた。
私の手をまた引っ張る。
電灯がともった部屋の前を通ると、
誰かいるのか?
と言う若い男の声が聞こえた。
慌てて紳士マークのある便所にすべりこんだ。
人影が近づいてきたが、
入り口の前で止まり、
また遠ざかっていった。
私達はそろそろと便所から出て、
その後は一目散に校舎から抜け出した。
小虎の歩みはしだいに速くなる。
橋を抜け、
昔の武士の子供の学問所の跡地を通る。
石段を降りる。
石段を通ったところでは竹の葉が風に吹かれざわざわと音を立てている。
石段の半ばで私は小虎に待ってくれるようにたのんだ。
息をぜいぜいさせた。
運動はあまり好きではなくて文学少年だった私にはここまで小虎のスピードについてくるのは結構きつかったのだ。
小虎はまるで走るように歩く。
この辺りはかつて私が正太や美登利にいじめられていたのを小虎に助けてもらった場所だった。
幼かった私がもう大学を受験する年になったというのに、
ここは何も変わらない。
私はざわざわと言う音を聞きながら、
小学生の頃、
毎日時が流れるのがあんまりゆっくりなので、
大人たちが言うように、
自分もいずれは近所のお兄さんのように中学生になるなんて嘘で、
永遠に小学生のままではないか?
と疑っていたことを思い出した。
そして今自分が十八歳だというのは妄想で
本当は自分はまだランドセルをしょった小学生なのではないかという
錯覚のような思いが頭をよぎった。
冷たい空気が喉に入り込む。
小虎が私の瞳をのぞきこみ、
やさしく手を引っ張った。
私はうなずくと、
歩き出した小虎に従った。
小虎に手を引かれるままにたどり着いたのは
家から歩いて十分の水産高校だった。
門で小虎が少し止まった。
小虎の口元から白い息が煙のように昇っていく。
小虎は私に顔を傾け、
けぶるような表情を見せる。
電灯の光に照らされた小虎の顔は際立って白く見えた。
小虎は私の手を握ったまま、
走り始めた。
門を抜け少し行くと、
校庭に入った。
校舎の一階の左端と体育館風の天井の丸い建物だけあかりがついている。
小虎は体育館と校舎をつなぐ腰の高さの渡り廊下によじのぼり、
中に入った。
私もついていく。
校舎側に廊下を進むと入り口の鍵は開いていたので、
校舎に入った。
小虎は私の肩を組み、
身をかがめた。
私を向き指を口にあて、
しいっのしぐさをした。
あかりのついた部屋の廊下の前を
そろりそろりと通りすぎる。
つれていかれた場所は真っ暗だった。
目が慣れると、
小さなロッカーが並びそれぞれの扉に名札が書かれている。
小虎がぴたりと止まった。
私が呆然としていると、
小虎がロッカーの一つに指さした。
「木田美登利」、
そういえば美登利はこの水産高校に通っていると聞いていた。
小虎が皸だらけの手を美登利の下駄箱の取っ手にそえる。
金属音とともに戸が開く。
深い深い闇の中に小虎が手を差し込んだ。
「あれ!?
ない!」
小虎が初めて声を発した。
私はそうさ、
なんだって美登利の下駄箱なんかにあるっていうんだ!?
と心の中で思った。
小虎は、
ついさっきまでここにあったのに、
とぶつぶつと言っている。
小虎は目をつぶった。
手は合掌している。
その瞑想をする姿はお寺の暗いお堂の中の仏像のような趣があった。
周りがほんのり白い光で包まれているように見えた。
私は冷え冷えとした空気がかえってここちよいと思った。
小虎が目を開けた。
私の手をまた引っ張る。
電灯がともった部屋の前を通ると、
誰かいるのか?
と言う若い男の声が聞こえた。
慌てて紳士マークのある便所にすべりこんだ。
人影が近づいてきたが、
入り口の前で止まり、
また遠ざかっていった。
私達はそろそろと便所から出て、
その後は一目散に校舎から抜け出した。
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