49 / 62
第22章 真冬の夜
真冬の夜(4)
しおりを挟む
校門を出る。
小虎は、
突風のような速さで駆けていく。
私は彼に手を引かれてついていく。
不思議と息が苦しくない。
見慣れた街であり、
確かに足にアスファルトの感触があるが、
空を飛んでいるような心地だった。
小虎が歩みを止めた所は、
私の家の門の前だった。
小虎がオジャマシマス、
とつぶやきながら、
雪の積もった門を押して中に入った。
ポストの蓋をカパリと開けた。
中にぼんやりとした白いものが見えた。
私はひったくるようにそれを取り出した。
白いはがき大の紙には、
受験票、
田中スグル、
○○大学入学試験、
試験日2月×日と書かれており、
受験校の割り印の押された、
緊張した面持ちの私の顔写真が張られていた。
私は冷え切った受験票を握り締めた。
小虎は大きな目で私を見つめた。
安心したような笑顔だった。
もしかして小虎も自分の透視が正確かどうか気になっていて、
いま目的のものが目の前にあるのを見てほっとしたのかもしれない。
小虎はにこにこと私の肩を抱いた。
暖かい体温が伝わってきた所でやっと心が落ち着いた。
小虎にありがとうありがとうと何度も感謝した。
東京でお土産買ってくるからね、
と言って、
家で夕食を食べてから帰るように誘った。
家に戻ると父が帰ってきていて二郎叔父がまだいた。
父と二郎叔父は酷く怒っていて、
母はおろおろしていた。
叔母さん、
直人さんもいた。
私が帰ってこないので、
心配して今から警察に電話する所だったという。
私は小虎に合格祈願の呪いをしてもらいたくて、
会いに行ったんだ、
と苦しい言い訳をした。
皆が納得できないといった顔をする。
とにかく私が見つかってよかった
ということで直人さんと叔母さんは帰っていった。
母が私と小虎にとんかつをだした。
小虎は礼も言わずに獣のようにそれにむしゃぶりついた。
それを哀れがった母は、
デザートのアップルパイも出すとみな自分の分はすぐに平らげてしまい、
私のをマグロの切り身を前にした猫のようにじっと見ている。
私は笑ってもちろんこれぐらい小虎兄ちゃんにあげるよ、
と皿を差し出した。
母は私に小虎に服をあげるように言う。
私はたんすを開けてなるべく新しいものを選び紙袋に入れて、
小虎にやった。
母が「御礼」と熨斗袋に書いて、
三万円を包み小虎に渡した。
タクシーを呼び、
小虎を鬼塚の家まで送り届けるように頼んだ。
タクシーが行ってしまってから父が鬼塚に電話をした。
二郎叔父はその日は家に泊まった。
翌朝、
身支度をして襟巻きを手に家を出ようとすると、
母が幼い時のように襟巻きをしめてくれた。
では気をつけて、
くれぐれも風邪をひかないように、
と言われ、
私はうんうんと適当にうなづいた。
このほうが冷えないからと叔父にもらった、
中に獣毛の張られたショートブーツを履く。
門の前にでる。
門の前にいたのは酒屋の美登利だった。
長く伸びた髪を三つ編みにして、
紺のコートを着て赤いマフラーをしていた。
緑のタータンチェックのプリーツスカートから伸びた足と
ルーズソックスの間の素足が寒々しかった。
怒ったような目つきでこちらを睨んでいる。
おはようの挨拶もせずに美登利はこう聞いた。
「あんた東京に受験しに行くの?」
美登利は私を恐喝するような目で睨んでいる。
「う……うん」
「何処の大学?」
「上智と立教とICUだよ」
私は不思議に思った。
私と美登利は長年まともに口を利いていないのである。
近所だから帰省した時にたまに顔を合わせることはあったが
挨拶ぐらいだった。
それもこちらから社交辞令で美登利ちゃん久しぶり、
元気にしていた?
と聞いても相手には、
ふん!
煩いわね!
とそっぽをむかれるという始末だった。
「何処の学部で学科?」
「法学部××科と外国語学部○○科……
でもなんで急に?」
何でそんなことを急に聞くのかと私がたじたじと尋ねると、
美登利は
「あんたには関係ないでしょ!」
とクルリと向こうを向いて去って行った。
私は家を眺めた、
青々とした生垣の上には雪が積もっていた。
私はなぜか感慨深くなった。
受験が終われば合格にせよ、
不合格にせよ家に戻ってくるはずなのに、
もう永遠に家をでたきり戻らないような気がした。
二郎叔父の車に乗り込む。
駅までの道を走りながら窓の外を眺めていると、
子供の頃からの思い出が走馬灯のようによみがえった。
二郎叔父が言った。
「君は本当にいい子に育ったと思うよ」
昨晩小虎が家に来て、
夕食を食べていったことを二郎叔父は持ち出した。
あのような知恵遅れの幼馴染に親切にしてやる、
私の優しさに感動したとのことだった。
胸がサツマイモのてんぷらを食べ過ぎたときみたいに苦しくなった。
タクシーを降り、
列車が出る。
列車は上り方面へと走り出した。
小虎は、
突風のような速さで駆けていく。
私は彼に手を引かれてついていく。
不思議と息が苦しくない。
見慣れた街であり、
確かに足にアスファルトの感触があるが、
空を飛んでいるような心地だった。
小虎が歩みを止めた所は、
私の家の門の前だった。
小虎がオジャマシマス、
とつぶやきながら、
雪の積もった門を押して中に入った。
ポストの蓋をカパリと開けた。
中にぼんやりとした白いものが見えた。
私はひったくるようにそれを取り出した。
白いはがき大の紙には、
受験票、
田中スグル、
○○大学入学試験、
試験日2月×日と書かれており、
受験校の割り印の押された、
緊張した面持ちの私の顔写真が張られていた。
私は冷え切った受験票を握り締めた。
小虎は大きな目で私を見つめた。
安心したような笑顔だった。
もしかして小虎も自分の透視が正確かどうか気になっていて、
いま目的のものが目の前にあるのを見てほっとしたのかもしれない。
小虎はにこにこと私の肩を抱いた。
暖かい体温が伝わってきた所でやっと心が落ち着いた。
小虎にありがとうありがとうと何度も感謝した。
東京でお土産買ってくるからね、
と言って、
家で夕食を食べてから帰るように誘った。
家に戻ると父が帰ってきていて二郎叔父がまだいた。
父と二郎叔父は酷く怒っていて、
母はおろおろしていた。
叔母さん、
直人さんもいた。
私が帰ってこないので、
心配して今から警察に電話する所だったという。
私は小虎に合格祈願の呪いをしてもらいたくて、
会いに行ったんだ、
と苦しい言い訳をした。
皆が納得できないといった顔をする。
とにかく私が見つかってよかった
ということで直人さんと叔母さんは帰っていった。
母が私と小虎にとんかつをだした。
小虎は礼も言わずに獣のようにそれにむしゃぶりついた。
それを哀れがった母は、
デザートのアップルパイも出すとみな自分の分はすぐに平らげてしまい、
私のをマグロの切り身を前にした猫のようにじっと見ている。
私は笑ってもちろんこれぐらい小虎兄ちゃんにあげるよ、
と皿を差し出した。
母は私に小虎に服をあげるように言う。
私はたんすを開けてなるべく新しいものを選び紙袋に入れて、
小虎にやった。
母が「御礼」と熨斗袋に書いて、
三万円を包み小虎に渡した。
タクシーを呼び、
小虎を鬼塚の家まで送り届けるように頼んだ。
タクシーが行ってしまってから父が鬼塚に電話をした。
二郎叔父はその日は家に泊まった。
翌朝、
身支度をして襟巻きを手に家を出ようとすると、
母が幼い時のように襟巻きをしめてくれた。
では気をつけて、
くれぐれも風邪をひかないように、
と言われ、
私はうんうんと適当にうなづいた。
このほうが冷えないからと叔父にもらった、
中に獣毛の張られたショートブーツを履く。
門の前にでる。
門の前にいたのは酒屋の美登利だった。
長く伸びた髪を三つ編みにして、
紺のコートを着て赤いマフラーをしていた。
緑のタータンチェックのプリーツスカートから伸びた足と
ルーズソックスの間の素足が寒々しかった。
怒ったような目つきでこちらを睨んでいる。
おはようの挨拶もせずに美登利はこう聞いた。
「あんた東京に受験しに行くの?」
美登利は私を恐喝するような目で睨んでいる。
「う……うん」
「何処の大学?」
「上智と立教とICUだよ」
私は不思議に思った。
私と美登利は長年まともに口を利いていないのである。
近所だから帰省した時にたまに顔を合わせることはあったが
挨拶ぐらいだった。
それもこちらから社交辞令で美登利ちゃん久しぶり、
元気にしていた?
と聞いても相手には、
ふん!
煩いわね!
とそっぽをむかれるという始末だった。
「何処の学部で学科?」
「法学部××科と外国語学部○○科……
でもなんで急に?」
何でそんなことを急に聞くのかと私がたじたじと尋ねると、
美登利は
「あんたには関係ないでしょ!」
とクルリと向こうを向いて去って行った。
私は家を眺めた、
青々とした生垣の上には雪が積もっていた。
私はなぜか感慨深くなった。
受験が終われば合格にせよ、
不合格にせよ家に戻ってくるはずなのに、
もう永遠に家をでたきり戻らないような気がした。
二郎叔父の車に乗り込む。
駅までの道を走りながら窓の外を眺めていると、
子供の頃からの思い出が走馬灯のようによみがえった。
二郎叔父が言った。
「君は本当にいい子に育ったと思うよ」
昨晩小虎が家に来て、
夕食を食べていったことを二郎叔父は持ち出した。
あのような知恵遅れの幼馴染に親切にしてやる、
私の優しさに感動したとのことだった。
胸がサツマイモのてんぷらを食べ過ぎたときみたいに苦しくなった。
タクシーを降り、
列車が出る。
列車は上り方面へと走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾書籍発売中
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる