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第23章 さよなら故郷
さよなら故郷(1)
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電車を降りてホームに降り立った。
電車の中にも私以外一人しかいなかったが、
ホームの上には誰もいない。
向こう側の上りのホームも同じだった。
空気が出てきたときよりも大分暖かくなっていたのを感じた。
もう三月なのだ。
スーツケースをごろごろさせながら、
踏み切りを渡る。
野草がぽつぽつと芽を出していた。
森閑とした駅舎に入る。
ぱちんという切符を切る音が響いた。
私は久しぶりの自由に戸惑っていた。
待ち望んでいたことなのに嬉しいというよりも
これからどうしようという思いの方が強い。
東京で試験をすべて終え、
第一志望の合格を知ったところで、
私はインフルエンザで寝込んでしまった。
二週間近く寝てすごした後に、
急いで学校に直行し卒業式に出席した。
そして今、
故郷へと戻る。
出発した時の緊張とは正反対の呆けた気分だった。
ふわふわとして何だか不安である。
もう受験勉強しなくていいだなんて信じられなかった。
バスの座席についてから、
大学に入ったって英語は必要なんだ!
とひとりごちた。
鞄から英単語帳をとりだした。
読みはじめると、
気分が落ち着いてきた。
いつものように商店街の停留所で下りて、
家に戻った。
家に帰ると、
母が怒っていた。
なんでも私が出発した次の日に鬼塚から電話がかかってきて、
ご祈祷料が三万円では少なすぎるというのである。
普通は少なくても五万円です、
と言い張ったらしい。
それで少し腹を立てながらも二万円を現金書留で送りつけてやったそうだ。
その後、
私が合格したことを誰かから聞いたらしい。
鬼塚がまた電話してきて
合格したなら謝礼五十万円が必要だという。
父が高校生の息子が頼んだものだから、
高校生のお小遣いの範囲で払えないような金額は払わない、
と反論すると、
払わないなら神罰をあててやるというのである。
「それでママったら恥ずかしいんだけど、
ちょっとおかしくなっちゃったのよ。
夜も眠れなくなっちゃって、
次の朝お父さんにも相談せずに、
決意を固めて銀行に行く所だったの」
そこに偶然にも二郎叔父が現れて、
お義姉さん怖い顔してどこに行くんですか?
まるで何かに取り憑かれているようですよ、
と声をかけた。
そこで、
はと目を覚まして鬼塚氏に五十万振り込むのはやめることにしたという。
「まったく危ない所だったわ!
山口さんの奥さんもよくあんなのと付き合っているわね!」
日頃は少女のようにおっとりふんわりした母が
声を荒げているのを私は幾年振りかに聞いた。
次の日、
白砂神社に連れて行かれた。
父の知り合いの宮司さんに祈祷をしてもらった。
父が、
今後いっさい小虎と関わるな!
と私に強く言う。
私が強欲なのは小虎じゃない、
鬼塚だ!
と主張すると、
父が渋い顔をした。
最後に五十万の催促電話をしてきたのは小虎だったという。
「合格したんならちゃんと五十円、
あ!
間違えた。
五十万円払わないとだめですよお!
でないとスグル君に神罰があたっちゃいますって師匠が言ってましたあ!」
と脅すので、
いい加減にしろ!
と怒鳴ってガチャンと受話器を置いたそうだ。
父は、
親に秘密であんな狐付きの祈祷師に呪いを頼むなんてとんでもない息子だ、
今後一切、
ちゃんとした神社以外の祈祷者に関わってはいけない、
とすごい剣幕だった。
電車の中にも私以外一人しかいなかったが、
ホームの上には誰もいない。
向こう側の上りのホームも同じだった。
空気が出てきたときよりも大分暖かくなっていたのを感じた。
もう三月なのだ。
スーツケースをごろごろさせながら、
踏み切りを渡る。
野草がぽつぽつと芽を出していた。
森閑とした駅舎に入る。
ぱちんという切符を切る音が響いた。
私は久しぶりの自由に戸惑っていた。
待ち望んでいたことなのに嬉しいというよりも
これからどうしようという思いの方が強い。
東京で試験をすべて終え、
第一志望の合格を知ったところで、
私はインフルエンザで寝込んでしまった。
二週間近く寝てすごした後に、
急いで学校に直行し卒業式に出席した。
そして今、
故郷へと戻る。
出発した時の緊張とは正反対の呆けた気分だった。
ふわふわとして何だか不安である。
もう受験勉強しなくていいだなんて信じられなかった。
バスの座席についてから、
大学に入ったって英語は必要なんだ!
とひとりごちた。
鞄から英単語帳をとりだした。
読みはじめると、
気分が落ち着いてきた。
いつものように商店街の停留所で下りて、
家に戻った。
家に帰ると、
母が怒っていた。
なんでも私が出発した次の日に鬼塚から電話がかかってきて、
ご祈祷料が三万円では少なすぎるというのである。
普通は少なくても五万円です、
と言い張ったらしい。
それで少し腹を立てながらも二万円を現金書留で送りつけてやったそうだ。
その後、
私が合格したことを誰かから聞いたらしい。
鬼塚がまた電話してきて
合格したなら謝礼五十万円が必要だという。
父が高校生の息子が頼んだものだから、
高校生のお小遣いの範囲で払えないような金額は払わない、
と反論すると、
払わないなら神罰をあててやるというのである。
「それでママったら恥ずかしいんだけど、
ちょっとおかしくなっちゃったのよ。
夜も眠れなくなっちゃって、
次の朝お父さんにも相談せずに、
決意を固めて銀行に行く所だったの」
そこに偶然にも二郎叔父が現れて、
お義姉さん怖い顔してどこに行くんですか?
まるで何かに取り憑かれているようですよ、
と声をかけた。
そこで、
はと目を覚まして鬼塚氏に五十万振り込むのはやめることにしたという。
「まったく危ない所だったわ!
山口さんの奥さんもよくあんなのと付き合っているわね!」
日頃は少女のようにおっとりふんわりした母が
声を荒げているのを私は幾年振りかに聞いた。
次の日、
白砂神社に連れて行かれた。
父の知り合いの宮司さんに祈祷をしてもらった。
父が、
今後いっさい小虎と関わるな!
と私に強く言う。
私が強欲なのは小虎じゃない、
鬼塚だ!
と主張すると、
父が渋い顔をした。
最後に五十万の催促電話をしてきたのは小虎だったという。
「合格したんならちゃんと五十円、
あ!
間違えた。
五十万円払わないとだめですよお!
でないとスグル君に神罰があたっちゃいますって師匠が言ってましたあ!」
と脅すので、
いい加減にしろ!
と怒鳴ってガチャンと受話器を置いたそうだ。
父は、
親に秘密であんな狐付きの祈祷師に呪いを頼むなんてとんでもない息子だ、
今後一切、
ちゃんとした神社以外の祈祷者に関わってはいけない、
とすごい剣幕だった。
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