4 / 6
ふくれっ面でらせん階段を降りると、お父さまとお母さまに叱られた
しおりを挟む
「まあ、なんですの?
ワタクシ今日お買い物したドレスを試着中でしたのに」
ふくれっ面でらせん階段を降りると、お父さまとお母さまに叱られた。
「先ほど校長先生からお電話がありました。
あなたがイジメをしていると聞いたのだけれど、なにかの間違いよね」
「いいえ本当ですわお母さま」
「なぜだ! そんな娘に育てた覚えはない」
「だってお父さま。
あのモモカという女は庶民の癖に生意気です。
それにタダで学校に通うなんて税金ドロボー」
「なんということを言うのだ!!
お前は自分の立場をわかっているのか?
お前は王太子殿下の婚約者、つまり未来の王妃!
国民の母だぞ!
庶民に対してそんな差別的なことを言ったりして……」
ワタクシは両親にいくら叱られても決して謝らない。
「ワタクシ一つも間違ったことはしていませんわ!」
とバタンと玄関のドアを閉めて外に飛び出す。
その勢いのまま、林に飛び込む。
*
ヒュンッ!!
ヒュンッ!!
ヒュンッ!!
ワタクシは立ち並ぶ木を巧みによけながら、林の中を進む。
ワタクシは箱入りの令嬢にしては身が軽い。
それはおそらく、ワタクシが前世ではもっと近代的な国で庶民として生きていて、かつスポーツが好きだったからだろう。
こうやって風をきって走ると気持ちがいい。
あら?
さっき木から木になにか小さな動物が飛んだわ。
モモンガかしら?
ぽん、と誰かにぶつかった。
平べったくて安定感のある感触からして、男性らしい。
「あっ、ハンス」
ワタクシがぶつかった相手はハンスだった。
ランプを片手に見回りをしていたようだ。
明かりに照らされたハンスは顔にうまい具合に影が落ちて、いつも以上に男前だった。
「どうされたのですか? お嬢さま」
「ちょっと、お父さまとお母さまと喧嘩しちゃって」
「……そうでしたか。よけいなことをお聞きして、すみませんでした」
ハンスはりりしい眉を垂れてすまなそうな顔をした。
男らしい彫の深い顔だちで、そんなちょっとなさけない顔をするハンスを、ワタクシはかわいいと思った。
*
ふわり。
背中に温かいものが、かぶさった。
ワタクシがふと肩に目線をやると、ワタクシは肩にハンスのジャケットを載せていた。
「お嬢様。そのような薄着ではお風邪をひいてしまいますよ」
ワタクシが驚いた顔をしてしばし無言になると、ハンスは
「あっ。すまねえですだ。
こんな汚いものをお嬢様にお着せしたりして」
「いいえ、とんでもないわ。
ハンスは優しいのね」
「お嬢様……」
ハンスがぽうっと頬を赤らめる。
ハンスはワタクシより10歳も年上なのに、純情で本当にかわいい。
「お嬢様、ここから少し行けばおいらの小屋ですので、いらっしゃいませんか?
そこで何か温かいものをお飲みになってから、おいらが屋敷までお見送りします」
*
その晩はワタクシはハンスの小屋でホットミルクをごちそうになった。
そのあと、ハンスがたずなをひく、ロバに横座りになって、屋敷までもどった。
月明かりの下のハンスのギリシャ彫刻のような横顔、ちらちらと輝く短い金髪を眺めながら、ワタクシは彼はどんな貴公子よりも美しいと思った。
ワタクシ今日お買い物したドレスを試着中でしたのに」
ふくれっ面でらせん階段を降りると、お父さまとお母さまに叱られた。
「先ほど校長先生からお電話がありました。
あなたがイジメをしていると聞いたのだけれど、なにかの間違いよね」
「いいえ本当ですわお母さま」
「なぜだ! そんな娘に育てた覚えはない」
「だってお父さま。
あのモモカという女は庶民の癖に生意気です。
それにタダで学校に通うなんて税金ドロボー」
「なんということを言うのだ!!
お前は自分の立場をわかっているのか?
お前は王太子殿下の婚約者、つまり未来の王妃!
国民の母だぞ!
庶民に対してそんな差別的なことを言ったりして……」
ワタクシは両親にいくら叱られても決して謝らない。
「ワタクシ一つも間違ったことはしていませんわ!」
とバタンと玄関のドアを閉めて外に飛び出す。
その勢いのまま、林に飛び込む。
*
ヒュンッ!!
ヒュンッ!!
ヒュンッ!!
ワタクシは立ち並ぶ木を巧みによけながら、林の中を進む。
ワタクシは箱入りの令嬢にしては身が軽い。
それはおそらく、ワタクシが前世ではもっと近代的な国で庶民として生きていて、かつスポーツが好きだったからだろう。
こうやって風をきって走ると気持ちがいい。
あら?
さっき木から木になにか小さな動物が飛んだわ。
モモンガかしら?
ぽん、と誰かにぶつかった。
平べったくて安定感のある感触からして、男性らしい。
「あっ、ハンス」
ワタクシがぶつかった相手はハンスだった。
ランプを片手に見回りをしていたようだ。
明かりに照らされたハンスは顔にうまい具合に影が落ちて、いつも以上に男前だった。
「どうされたのですか? お嬢さま」
「ちょっと、お父さまとお母さまと喧嘩しちゃって」
「……そうでしたか。よけいなことをお聞きして、すみませんでした」
ハンスはりりしい眉を垂れてすまなそうな顔をした。
男らしい彫の深い顔だちで、そんなちょっとなさけない顔をするハンスを、ワタクシはかわいいと思った。
*
ふわり。
背中に温かいものが、かぶさった。
ワタクシがふと肩に目線をやると、ワタクシは肩にハンスのジャケットを載せていた。
「お嬢様。そのような薄着ではお風邪をひいてしまいますよ」
ワタクシが驚いた顔をしてしばし無言になると、ハンスは
「あっ。すまねえですだ。
こんな汚いものをお嬢様にお着せしたりして」
「いいえ、とんでもないわ。
ハンスは優しいのね」
「お嬢様……」
ハンスがぽうっと頬を赤らめる。
ハンスはワタクシより10歳も年上なのに、純情で本当にかわいい。
「お嬢様、ここから少し行けばおいらの小屋ですので、いらっしゃいませんか?
そこで何か温かいものをお飲みになってから、おいらが屋敷までお見送りします」
*
その晩はワタクシはハンスの小屋でホットミルクをごちそうになった。
そのあと、ハンスがたずなをひく、ロバに横座りになって、屋敷までもどった。
月明かりの下のハンスのギリシャ彫刻のような横顔、ちらちらと輝く短い金髪を眺めながら、ワタクシは彼はどんな貴公子よりも美しいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます
ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」
王子による公開断罪。
悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。
だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。
花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり——
「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」
そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。
婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、
テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

