悪役令嬢ネウェル・スターブレスは婚約破棄されたい。そのわけは?|王子さま、さっさと婚約破棄してくださいな!!

宇美

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ふくれっ面でらせん階段を降りると、お父さまとお母さまに叱られた

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「まあ、なんですの? 
ワタクシ今日お買い物したドレスを試着中でしたのに」

ふくれっ面でらせん階段を降りると、お父さまとお母さまに叱られた。


「先ほど校長先生からお電話がありました。
あなたがイジメをしていると聞いたのだけれど、なにかの間違いよね」

「いいえ本当ですわお母さま」

「なぜだ! そんな娘に育てた覚えはない」

「だってお父さま。
あのモモカという女は庶民の癖に生意気です。
それにタダで学校に通うなんて税金ドロボー」

「なんということを言うのだ!!
お前は自分の立場をわかっているのか? 
お前は王太子殿下の婚約者、つまり未来の王妃! 
国民の母だぞ!
庶民に対してそんな差別的なことを言ったりして……」


ワタクシは両親にいくら叱られても決して謝らない。

「ワタクシ一つも間違ったことはしていませんわ!」
とバタンと玄関のドアを閉めて外に飛び出す。

その勢いのまま、林に飛び込む。



ヒュンッ!!

ヒュンッ!!

ヒュンッ!!


ワタクシは立ち並ぶ木を巧みによけながら、林の中を進む。

ワタクシは箱入りの令嬢にしては身が軽い。

それはおそらく、ワタクシが前世ではもっと近代的な国で庶民として生きていて、かつスポーツが好きだったからだろう。


こうやって風をきって走ると気持ちがいい。


あら? 

さっき木から木になにか小さな動物が飛んだわ。

モモンガかしら?



ぽん、と誰かにぶつかった。

平べったくて安定感のある感触からして、男性らしい。

「あっ、ハンス」

ワタクシがぶつかった相手はハンスだった。

ランプを片手に見回りをしていたようだ。

明かりに照らされたハンスは顔にうまい具合に影が落ちて、いつも以上に男前だった。

「どうされたのですか? お嬢さま」

「ちょっと、お父さまとお母さまと喧嘩しちゃって」

「……そうでしたか。よけいなことをお聞きして、すみませんでした」

ハンスはりりしい眉を垂れてすまなそうな顔をした。

男らしい彫の深い顔だちで、そんなちょっとなさけない顔をするハンスを、ワタクシはかわいいと思った。




ふわり。

背中に温かいものが、かぶさった。

ワタクシがふと肩に目線をやると、ワタクシは肩にハンスのジャケットを載せていた。

「お嬢様。そのような薄着ではお風邪をひいてしまいますよ」

ワタクシが驚いた顔をしてしばし無言になると、ハンスは
「あっ。すまねえですだ。
こんな汚いものをお嬢様にお着せしたりして」

「いいえ、とんでもないわ。
ハンスは優しいのね」

「お嬢様……」

ハンスがぽうっと頬を赤らめる。

ハンスはワタクシより10歳も年上なのに、純情で本当にかわいい。

「お嬢様、ここから少し行けばおいらの小屋ですので、いらっしゃいませんか?
そこで何か温かいものをお飲みになってから、おいらが屋敷までお見送りします」



その晩はワタクシはハンスの小屋でホットミルクをごちそうになった。

そのあと、ハンスがたずなをひく、ロバに横座りになって、屋敷までもどった。

月明かりの下のハンスのギリシャ彫刻のような横顔、ちらちらと輝く短い金髪を眺めながら、ワタクシは彼はどんな貴公子よりも美しいと思った。


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