婚約破棄から恋をする

猫丸

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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)

act.7 王子の覚悟

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「こんな場でする内容ではないんだが、どうしても伝えたいことと、訊いておきたいことがあるんだ」
 ダンスの後、次の相手が現れる前にロイドはラナエラと共にテラスへ脚を運んでいた。
「私は貴女が誰よりも恋しい」
 婚約破棄を国王に願い出た時よりも遙かに緊張しているせいか、心なしか早口になっていた。
「--!?」
 ラナエラからは驚きこそあっても、嫌悪は感じとれない。
「愚かな子供の戯言で貴女を傷つけた私だ。こうやって接してくれるのは、マリオン令嬢の王太子である私への慈悲だとわかっていても、貴女を想っている」
 一息に心をさらし、
「だから、貴女を傷つけてきた自分が許せないんだ」
 それは忌憚の無い本音だ。苦しかったこと、辛かったことでも、何でも構わないから教えて欲しいと願った。
「わたくしは」
 ラナエラは一度言葉を切り、だが、迷いなく続けた。
「わたくしは。ずっと怒っておりました。初顔合わせから、婚約破棄まで。貴方は何も聴こうとせず、言わず、見ない。我が儘で人の気持ちも頓着しないにずっと」
「今は……どうだろうか?」
「怒りはありませんわ。今のあなたは別人みたいですもの。それに、捕獲して強引にでも口を割らせれば良かったし、頭を掴んで無理やりにでも聴いていただけば良かったのに。わたくし、しませんでしたわ、面倒ですもの。ロイド殿下がなさったように、わたくしも放置をしました。ですから赦すも赦さないも、ないのですわ」
 ラナエラの真摯な言葉に、ロイドは微笑み感謝を示した。教えてくれて、ありがとうと。
「自分のしでかしたことは理解しているんだ。簡単に赦されないことは承知の上で、今はただ、君を少しずつ知り惹かれた、それだけを伝えたかった」
 足掻き悩みつつ前進する姿は、駄々をこねる子供から大人の男へと成長していた。
「ロイド殿下の行く末は過酷を極めるでしょう。生涯、マリオンの厳しい視線に堪え続けねばなりません。……我々は、王族に連なっておりましても、大事は国と民のみですから」
「はは。やっぱり貴女もマリオンだ、道を踏み…いや、仕えるに価せずと判断されれば、即座に動くのだろう?」
「王家の味方にして最大の敵であれ--初代より代々継承しておりますから。そうなるのでしょうね……」
「何で生かされているんだろうね」
 二人の弟はまだデビュタントの十歳を迎えておらぬ時期に未来の王として育てられた第一王子のまさかの暴挙。残り弟王子も同じことになるのではないか。目を瞑れる有り様になった愚か者ロイドを暫定的に生かしておき、じっくり次の候補を育てる--理由を、ロイドはマリオン公爵の人となりから推測してはいたが、それだけとは相手があの人物なだけに微妙に物足りなさを覚えているのだ。
「父の深謀はわたしにはわかりませんわ。何しろ、国王陛下ですらマリオン公爵の心は闇の淵、と仰っておられますもの。ただ、為すと定めればやれるのですわ、わたくしたちマリオンには。……あの時、あの場に侍女長以外にも貴方のお言葉を耳にしていたら、そうしたら--」
「あの場で私は始末されていたね」
「いいえ?」
 にっこり笑んで、
「決して口外しないと真に信じられる者を除いて、が、ですわ。ああ思い出しました。わたくし、そのことにも怒ってましたわね」
 何でもないようにさらりと怖ろしいことを云ってのけるラナエラは、やはりあのマリオン公爵の娘だ。情だけでは揺らがない信念。内乱の芽を芽吹かせないための非情。
 甘く柔らかいだけの言葉よりよほど、魂に染み入り、糧となる。
「--本当に、マリオンだ」
 おかしくなってロイドは笑う。
「あら? 先ほどのお言葉、撤回なさいます?」
「まさか、撤回なんてしないさ」
 更に破顔してみせたロイドの耳に、囁くように小さな「あなたは本当にずるい」ラナエラの恨み言が聴こえた気がした。

「さて、そろそろ戻ろうか?」
 ロイドが言いかけた時、
「ここにいたのね、ルイ!」
 招かれざる者の甲高い声が空気を震わせた。

◇◇

「ここにいたのね、ルイ!」

 招かれざるピュリナの甲高い声が空気を震わせた。
「ルイと呼ばないでくれと云っているよね、ピュリナ・マリア・アンジェ子爵令嬢?」
「ダンスを踊って欲しくて探してたの。いきましょ?」
 相変わらず話を聴かず、腕に抱きつかれた。ラナエラに腕を組まれた際の高揚とは異なる気持ちの悪さ。返した声音は傍らのラナエラが表情を強張らすほど冷ややかになっていた。
「残念だけれど、君とは踊れない。先にお相手しないとならないご令嬢がいるから。さ、腕を放しなさい」
 引き離そうとした。
「酷いです、ラナエラ様!!」
 ピュリナが叫ぶようにラナエラの名を呼んだ。
 まるで人目を引くように。いや、わざとに違いない。
 テラスにほど近い位置の貴族らが、このような公の場王家主催の夜会らしからぬ声音に、何事かと注目し始めていた。
 婚約者であるラナエラ。
 王子であるロイド。
 ロイドの腕にしがみつく子爵令嬢。
 
 ---!!

 マリオン公爵の鋭い眼光がロイドと、傍目から見れば寄り添うピュリナに注いでいた。
 
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