婚約破棄から恋をする

猫丸

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ことの終わりは始まりとなれ!(本編)

閑話 国王夫妻の頭痛

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※少し長めです。
※ご指摘を受け『カイルのデビュタント』をカイルの公式デビューに変更いたしました。

【王妃の頭痛】


「誰の遺伝かしら……ふぅ」
 ここ数年、半ば持病になってるのかしら、頭が痛いわ。
 それもこれも。

 わたくしには息子が三人いるの。
 長男のロイドが十六歳
 次男のオレグが十二歳。
 末っ子のカイルが十歳。
 三人いるのに、なんでかしらないけど、全員くれたわ。
 直近のことから話すとね、先日のカイルの公式デビュー、最悪だったわ。そりゃあね、わたくしも悪かったわよ? カイルにわざと黙ったまま、夜会で婚約者候補を発表するなんて。だけれど仕方なかったの。馬鹿息子が好きなリンジーちゃんは売約済…げふん、婚約済みなんだもの。それも婚約当時生後2カ月目にしてよ? ほんと、連中は意味不明よ……脱線したわね。だから、リンジーちゃんは婚約者がいるから別のご令嬢よ、と何度も諭したのに。
 デビュタントでまさか「リンジー以外は結婚しないっ!」などと叫ぶなんて! 当の令嬢は号泣するし、婚約者候補の伯爵夫妻ご両親は激怒するし、後日リンジーちゃんのには何時間も嫌味言われるし、新しい婚約者候補は辞退ばかりで……国内は無理かも。もう散々。聞き分けの好い息子だったはずなのに。
 
 次男のオレグは……困ったことに婚約者のご令嬢が大好きみたいで。毎日毎日手紙を書いて熱心に求愛するくせに、どうして顔見ると苛めるわけ? かわいらしい、好きな子ほど……の範囲を超えて、「嫌いなの!?」って思うくらい、完全全否定。ご令嬢、十歳にして若干病み始めているみたいなの。
 この間、王宮に来ていて廊下で見かけたら、わたくしたち家族の肖像画の前で「手紙のオレグ様と生きてるオレグ様は別人よ! わたくしは二人のオレグ様の婚約者なのぉぉぉ」って呟いてたわ……仕方ないからオレグはしばらく反省するまで監禁中。紙とペンは没収したけど、血文字で恋文書きそうで怖い…。

 そして長男ロイド。これがねぇ……やってしまったのよ、数年前に、婚約破棄。内輪だけだったし、令嬢ラナエラちゃんの名誉も守りたいと双方合意で、世間的には婚約中。ラナエラちゃんの家の悪魔父親としては「愛娘には今度こそ最上級の男を探す。素行を洗いざらい調べあげて少なくとも数年は観察してから婚約を認める。馬鹿息子とは虫除けとしてしばらく婚約中でいく」ってことみたい。相手が決まったらロイド側の適当な理由つけて破棄するつもりみたい。中々優良物件にあたらないみたいだから、わたくしとしてはこの際ロイドの身の安全も寿命もどうでもよいから、ラナエラちゃんに娘になって欲しいわ。それにしても、ねえ? 馬鹿息子だけど一応まだ王太子候補より最上級って……。しかも、馬鹿だけど、一応は王子に対して馬鹿息子? まあ、「不敬罪? 何それ愉しいねぇ?」みたいな不遜な男だから、仕方ないけど。
 ロイドもねぇ、なまじ真面目で、幼いころからわりと頭の回転の速い子供だったし。うちの息子の中で一番わたくしたち夫婦に見た目似てるのと第一王子だから、打算的な相手ばかりで荒んだのはわかるけど。よりによってアレの娘と子爵の娘なら、わかって欲しかったわよ。
 挙げ句に、破棄してからラナエラちゃんのこと好きになるとか、馬鹿よね!? 馬鹿が過ぎる!! 

 うちの三馬鹿息子たち、恋愛脳すぎない? そこそこ頭脳悪くないのに恋愛絡むとねぇ……。
 
「誰に似たのかしら……あ、あれか」
 いたわ! 元凶!
 わたくしの夫、国王ジェラルド。
 あれも、王子だった頃にらしいけど、当時のマリオン公爵に握り潰されて知ってる人、ほとんどいないのよね。知ってても皆、絶対口割らないし。
 はぁ…、頭が痛いわ。

◇◇

【国王の頭痛】


 長男ロイドは最近メキメキと王太子候補にふさわしい資質を見せ始めている。努力も反省も、姿勢から見てとれる。私も陰ながら応援をしている……恋以外の面で。
「ほんと、馬鹿だよなぁ」
 よりにもよってラナエラ愛娘だぞ? しかも婚約破棄しておいて。仮にラナエラ嬢を自力で説得出来たとしてだ、ギリアム最終関門突破はなぁ? 親類で乳兄弟で盟友だからわかる。ギリアムは、最愛の妻と妻似の容姿の愛娘以外は、息子でさえな愛情しか持ち合わせてないはずだ。ラナエラ嬢の存在は、ロイドの監視役にも指標としてもご意見番としても最良なため、としては恋に助力したい。反面、父親としては、この件は介入拒否する。昔のを王妃にバラされたら私は瞬殺される! 
「頭が痛すぎる」 
 ロイドの恋は問題が山積みだ。

 実際のところ政治面では、あの婚約破棄自体は対した問題ではない。正しく云えば、やらかしたことはアレだが、バレなければ良いだけのこと。もしあの馬鹿が、第三王子末っ子のように夜会などで宣言していたら、ギリアムの息子エリオットが想定した内乱も現実化したはずだ。やらかした場所はない。内輪だけの場で、むしろ助かった。おかげで禍の芽は摘めたし、内乱なんて面倒極まりない事態を避けられた。 
 だからこそ、ロイドの問題は、結果的にお仕置きはするがとして、私とギリアムの間では終わった実になことなのだ。とは云え、我々にとって笑ってすんだタイミングだったにしろ、最悪な事態にならなかったのは単なる幸運--当時のロイドが--だったなのも事実。
 
 幸い恋に惚けてはいても、まず国王たる私に婚約破棄を願い出るという手順を踏めたことは考慮してやれる。この国の王族は、絶対なる支配者ではなく、国家安寧の旗標にすぎない事実を骨の髄までわからせれば、なんとかなる愚かさならば、良し。

 --故に。
 王国内で最もな運営が出来ており、当事者でもあるマリオン公爵領に放り込む。
 期間中ロイドが目を醒まし、自発的にな行動が出来れば--の前提の上で、王太子候補からは外れた王子として直轄領の適当なあたりを運営させることとした。
「そのはずだったと記憶しているんだがなぁ? なんでだ?」
 さあ……とか首を傾げるなよ、貴様が最終判断したんだろうが、ギリアム!?
『お話にならない王子なら他国へ婿に押しつけて、せめて攻略結婚の道具として活用するつもりだったが。は育て方で灰色ぐらいにはなれるだろう』
 現実を知らない純粋思考の王子世間知らずのはな垂れ小僧が現実の荒波に揉まれ黒ずんでいく過程は中々に面白い演目だ--ロイドの処遇を決断する際のギリアムの言だ。おそらくロイドにも僅かながら価値を見いだしたのだろう。
「残りの王子たちやお前の弟妹の血筋からも、スぺアはいる。確かにすげ替える首は幾らでもあるが、絶対的に恩を高値で買う相手がいて、人語が通じるなら楽だろ? 打ち合わせ調教をする余計な手間がかかるなら、妻と娘を愛でるよ。部下駄犬の世話もあるしな」
「……まあ、マリオンお前らに睨まれて長生きできた王はいないからなぁ。父上は胃痛持ちだったし、余生送る前に天に召された。三代前の王は心臓発作、その数代前は心折れて衰弱死……」
 針の筵。チクチクと、しかもラナエラ嬢を捨てた腹いせ分も上乗せするんだろう?
「ロイドの心身、王位継承まで持つかねぇ?」
「六割だ」
「……何が、かな?」
「一族で賭けをしていてね。生存率は六割で私は勝負している。ちなみに他は零だ」
 以外にもお前の息子はしぶとそうなんでねと鬼が嗤う。
「人の息子、しかも王子の生存率を賭けの対象にするか、普通……」
「? 別に困らんだろう?」
「予備はいるから困りはせんがな」
「お前ぐらい黒くなると息子も大変だな?」
「黒を超えてもはや色無しになっている貴様にいわれたくはないな。それで、地位剥奪もせずの本音を聴かせてくれないつもりか?」 
「なまじ中途半端に自他ともに認める優秀な人材勘違い馬鹿より、馬鹿を自覚した馬鹿のほうが色々愉し--いや、使えるからな」
 今、愉しむといいかけたな。別に構わないが。
 思惑はあるのだろうがどうやら云う気はない様子だ。ギリアムが考えてることなど理解したら終わりだ。気まぐれで我が儘で、やると決断すれば迅速かつ容赦しないこの男の胸中を正しく読み取れたら……人として何かを捨てることになる!

「ま、ロイドも拾った寿命だと思って命ある限りマリオンに扱き使われるしかないな。で、あっち小娘は手つかずのようだが?」
 ロイドのマリオン公爵家預かり期間は、実はロイドを惑わす元となった子爵令嬢の、ギリアムによる観察期間でもあった。 、いかなるで、ギリアムのための報復をするのかを決める。
「……ジェラルド、狩りで最も愉しい瞬間はいつだと思う?」
 唐突な台詞だが意味は理解した。
「追い詰めた時だな。先を読み誘導し、獲物が逃げ場を失い硬直するプロセスが私は好きだ」
「同感だ。だが、それは獲物が知性を持っていればの話だろう?」
「単純かつ瞬殺可能な獲物ということだな」
「華々しい小娘の為の舞台で、主役として息絶えるまで踊ってもらう予定だ」
 ギリアムはこの数年あまり見せなくなった、とてつもなく「」と云わんばかりの嗤いを浮かべた。

「後始末をするのは私か。頭が痛い」
 このツケはロイドに請求しよう、私は苦しむ息子を想像し、ひとしきり笑った。
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