婚約破棄から恋をする

ことの裏側（another side）

ピュリナ：苛立ち

※ピュリナ視点　


　あたしはピュリナ・マリア・アンジェ。子爵令嬢。
　十歳の時、王都の街で一枚の紙を拾った。王子様の絵姿と社交界デビューしたっていうビラだった。それを見て、あたしは思い出した。
　あたしは日本人だった。ひとり娘で両親に溺愛されて育った。欲しい物もやりたいことも何でも叶った。裕福な家庭で、お嬢さんとちやほやされて幸せに生きるはずだった。父親の会社が傾かなければ。節約しろと叱られたけれど、なんで我慢しなきゃならないの!?ムカついて家の中の物を換金して売ったら殴られた。その夜、寝てたら胸に激痛があって包丁が刺さっていた。

　ここは遊んだことのある乙女ゲームの世界にそっくりだ。記憶が頭にどっと押しよせた。ゲームの名前はあんまり覚えてない。だって新作出たらすぐ次の買ってたから、タイトルなんて意味ないもん。話もテンプレでさ。
　子爵の当主と飯炊き女の間に生まれたヒロインが、母親と貧しくても一生懸命暮らしてたところ跡継ぎがいない子爵に十三歳のころ貴族にされちゃうの。でも躰の弱い母親に仕送りを条件に頑張るわけ。貧乏は平民に生まれた母親の問題だし、あたしはしないけど。で、二つあるうちの平民とか下級貴族の多く通う学園から、王族とか高位の貴族や成績優秀な平民が通う学園に二年の春から編入するんだ。
　そこで冬の学期末までに色んな虐めを耐えて六人の攻略対象と恋をして一番好感度高いキャラとくっつくの。記憶取り戻して、目が覚めた気分。たぶんあたしは死んで、神様がかわいそうだから転生させてくれたのよ！　だって私がそのヒロインなんだもの。
　攻略は王子にした。容姿と身分で近寄る人間ばかりで捻くれた王子が、天真爛漫で前向きなヒロインを好きになって王太子妃にするのがハッピーエンド。婚約者がいるんだけど、王国の裏で暗躍する公爵の令嬢で、美人だけど冷たくて傲慢な悪役令嬢。ヒロインに意地悪しまくって、あたしが王子落としたら断罪されて一族もろとも破滅ってわけ。前世で天真爛漫っていわれてたから楽勝！

◇◇
十三歳

　王子との最初の出会いは十三歳。お忍びで街に来た王子と出会って、仲良くなる。偶然いつも出会って、子爵に引き取られる前日までにイベントいくつかこなす。王子ルート一番楽だから、マジに楽勝！　ゲームになかったけど、子爵の庶子っていうのと、名前教えておいた。もしかしたら学園入学前に迎えに来るかも知れないから。早いほうが楽だもの。子爵家の継母にいびられるなんてゴメンだもん。補正？強制力？バカじゃないの、あたしのためにあるのよ、この世界！

◇◇
十六歳　春

　学園に編入！　子爵には王子幼馴染みだって話しちゃった。勉強して編入なんて面倒。エライ人のコネで編入よ。裏口？マジメにコツコツなんて絶対にイヤ。攻略対象の三人と仲良くなるつもり！

　なんか様子がおかしい。そもそも悪役令嬢が悪役してなくて、学園のアイドルみたいな状況なんですけど！　ちっとも傲慢じゃないみたいで、悪役のくせに笑顔がかわいいとか、バグかっ!?　王子も、せっかく情報あげたのに結局来なかった。つかえない！　しかも悪役令嬢と仲良しだし、あんたが腐ってないから攻略対象三人も荒んでないじゃん！頑なになる王子を支えられない無力さに三人とも心にそれぞれ傷もってくのに！　
　なんか話噛みあわないから、好感度あがんないのよ。逆ハー無理かな？　金持ちのイケメン男がたくさんいれば贅沢無敵だから狙ってるんだけど。

◇◇
十六歳　夏

　ちょっと、マジにバグかも！　残りの攻略対象二人が現れない！　悪役令嬢の兄とその友人で、超美形なのに。あ～もう!!
やっぱ、悪役令嬢が悪役じゃないからいけないんだよね！　自作自演するっきゃないかしら？

◇◇
十六歳　秋

　悪役令嬢のとりまきが嫌味いってきた。マナーなんて誰が覚えるかっての。脇役のあんたらには必要だけどヒロインのあたしは何やっても平気なの。嫌がらせのネタありがとう～だ。

十六歳　夜会
　
　ファーストダンスをなんで誘わないのよっ！　おかしいおかしいおかしいっ！　しかも、あの女の肩を持った！　急に態度が冷たくなって、なにこれ、訳ワカンナイ！　……でも攻略対象のアンリ様がテラスまであたしのために来てくれた。エリオット様だけね。でもこんなシナリオなかったような？　もしかしたらバグあたしのせいかな……。シナリオにないズルを編入前にしたからかな。まさかね。あんなぐらいでバグ出てたまるか！　断罪は絶対あるもん。バッドエンドで悪役令嬢ざまぁみろ！
　あたしはヒロインなんだから幸せになるの。好きなことだけして、好きなもの全部手に入れる。あたしのための世界だもん！