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ことの裏側(another side)
ラナエラ:第一王子様って 2
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※ラナエラのお話
「様子といっても……直接お話をしてません。ですから伝聞ですよ、エル兄様?」
二年生の春に編入してきた少女の顔を思い浮かべて問えば、兄は頷いた。
「そうですねぇ……学園には平民の方々も在籍してるでしょ? その方たちよりマナーを知らないとか、注意を悪口ととったり、困るとよくお泣きになるとか。あと、ご令息の方々にはとてもかわいらしいと評判ですかしら。殿下と側近の皆様にはかなりご迷惑をおかけしているようですわ」
最近は王子の困った表情を見かける、とつけ足せば、エリオットはハッと一声嗤った。
「カルトナー公爵家のシオン、クラメンテ侯爵家のリアム、それにシモンズ辺境伯次男のクリストフと馬鹿王子ねぇ……狙いが浅ましすぎて穢らわしいな」
心底不愉快極まりないと吐き捨てられ、ラナエラは意味をくみ取れず首を傾げる。
「狙い? 殿下たちはお命を狙われているとお考えなの?」
「え、ああ、命じゃないよ。う~ん、あ~夜会の令嬢のようなものだ」
「………よくわかりませんけど」
「ラナわからなくていいよ。うん、ともかくラナは近づかないようにね?」
「そうしてます。ですから必然的に殿下にもお会いできませんけれど」
「……話さないでいい。殿下と話すと減るからね、可愛いラナ」
減る? たまにエル兄様は意味がわからない発言をされるのよね──ラナエラはとりあえず微笑んでその場を誤魔化すのだった。難攻不落な要塞で守られた箱入り娘であることに当然本人は気がついてはいない。
◇◇
夜会の四日前の晩、ラナエラは小さな箱を前に、悩んでいた。
淡い紫の紙と濃い青色リボンに包まれた箱は、
『……夜会にドレスを贈りたいけど絶対に返却されるから、その、せめてこれを贈らせて欲しいんだ』
今日の放課後に学園内でロイドから渡されたものだ。逢えてよかったと、破顔していたロイドは、少し赤い顔をしていた。
「お熱でもあったのかしら……」
手渡すのに照れた男心を体調不良と捉え、どことなく疲れた様子に案じてしまう。
「これって……私の瞳と殿下の瞳の色よねぇ…………」
包み紙はラナエラの、リボンはロイドの瞳の色と同じだ。きっと他意はないに違いないけれど、ソワソワしたような不思議心地になってしまい、中々箱を開けられない。
「お嬢様、じっと見つめても勝手に蓋は開きませんよ?」
茶を入れている侍女にからかられて「だってドキドキするの!」と小さく反論したラナエラは、侍女の生暖かな視線に頬が熱くなった。
(仮の婚約者に贈り物なんてなさらなくてよろしいのに、もうっ。殿下のせいよ!)
理不尽な八つ当たりだが、初めて贈り物をされたのだ。実際にはラナエラの手に渡らずに返品されていた。だから今回は手渡しされたことは理解している。なんとなく恥ずかしいのだ。
「お嬢様、どなたから頂戴した物かは存じませんが、開けてさしあげないとかわいそうですよ」
「……はぁ。わかったわ、開けます」
蓋を外し、中の物をそっと取り出す。糸のように濃く耀く黄金と、柔らかく煌めく白金を伸ばし、刺繍のように編み込まれた細工の繊細なまでの美しさ。シンプルでいて品の良いそれに、ラナエラの頬の熱は増した。
「まあ! 髪飾りですね!」
「え、ええ……夜会にって」
「品の良いお品なのできっとラナエラ様のドレスと合います!」
「ありがとう」
「あらあら、お礼は贈り主様にお伝えなさってくださいね」
微笑ましいと顔に書いた侍女が退出すると、思わずラナエラは両手で顔を覆う。
耳が熱い。もしかしたら赤いのかもしれないわ……
王子からの初めての贈り物は、思いっきり動揺させてくれたのだ。
「どうしたのかしら……まるで、殿下と私の髪色みたいだ……なんて」
そんなことあるはずもないのに。仮にあったとしても王子に他意はないはず。
自分たちは仮初めの婚約者にすぎないのだから。
「……どうしたのかしら、何だかとってもドキドキするわ」
このごろ、王子のことを思えば、時折とても淋しさを覚えることがある。
「せっかくお友達になれたのに……」
春まではよくあれが楽しいだの、面白いだのと笑いを交わすことも多くなっていたが、今は父や兄の命令もあってピュリナが近くにいれば遠巻きにして学園生活を送っている。たまに王子だけを見つけても、疲れた姿を目にしてしまえば、とてもじゃないがお喋りしたいなどと言い出せない。
「夜会に身につけたら喜んでくださるかしら……」
ラナエラは他人からすれば恋わずらいとしか勘ぐれない切ないため息をつくのであった。
「様子といっても……直接お話をしてません。ですから伝聞ですよ、エル兄様?」
二年生の春に編入してきた少女の顔を思い浮かべて問えば、兄は頷いた。
「そうですねぇ……学園には平民の方々も在籍してるでしょ? その方たちよりマナーを知らないとか、注意を悪口ととったり、困るとよくお泣きになるとか。あと、ご令息の方々にはとてもかわいらしいと評判ですかしら。殿下と側近の皆様にはかなりご迷惑をおかけしているようですわ」
最近は王子の困った表情を見かける、とつけ足せば、エリオットはハッと一声嗤った。
「カルトナー公爵家のシオン、クラメンテ侯爵家のリアム、それにシモンズ辺境伯次男のクリストフと馬鹿王子ねぇ……狙いが浅ましすぎて穢らわしいな」
心底不愉快極まりないと吐き捨てられ、ラナエラは意味をくみ取れず首を傾げる。
「狙い? 殿下たちはお命を狙われているとお考えなの?」
「え、ああ、命じゃないよ。う~ん、あ~夜会の令嬢のようなものだ」
「………よくわかりませんけど」
「ラナわからなくていいよ。うん、ともかくラナは近づかないようにね?」
「そうしてます。ですから必然的に殿下にもお会いできませんけれど」
「……話さないでいい。殿下と話すと減るからね、可愛いラナ」
減る? たまにエル兄様は意味がわからない発言をされるのよね──ラナエラはとりあえず微笑んでその場を誤魔化すのだった。難攻不落な要塞で守られた箱入り娘であることに当然本人は気がついてはいない。
◇◇
夜会の四日前の晩、ラナエラは小さな箱を前に、悩んでいた。
淡い紫の紙と濃い青色リボンに包まれた箱は、
『……夜会にドレスを贈りたいけど絶対に返却されるから、その、せめてこれを贈らせて欲しいんだ』
今日の放課後に学園内でロイドから渡されたものだ。逢えてよかったと、破顔していたロイドは、少し赤い顔をしていた。
「お熱でもあったのかしら……」
手渡すのに照れた男心を体調不良と捉え、どことなく疲れた様子に案じてしまう。
「これって……私の瞳と殿下の瞳の色よねぇ…………」
包み紙はラナエラの、リボンはロイドの瞳の色と同じだ。きっと他意はないに違いないけれど、ソワソワしたような不思議心地になってしまい、中々箱を開けられない。
「お嬢様、じっと見つめても勝手に蓋は開きませんよ?」
茶を入れている侍女にからかられて「だってドキドキするの!」と小さく反論したラナエラは、侍女の生暖かな視線に頬が熱くなった。
(仮の婚約者に贈り物なんてなさらなくてよろしいのに、もうっ。殿下のせいよ!)
理不尽な八つ当たりだが、初めて贈り物をされたのだ。実際にはラナエラの手に渡らずに返品されていた。だから今回は手渡しされたことは理解している。なんとなく恥ずかしいのだ。
「お嬢様、どなたから頂戴した物かは存じませんが、開けてさしあげないとかわいそうですよ」
「……はぁ。わかったわ、開けます」
蓋を外し、中の物をそっと取り出す。糸のように濃く耀く黄金と、柔らかく煌めく白金を伸ばし、刺繍のように編み込まれた細工の繊細なまでの美しさ。シンプルでいて品の良いそれに、ラナエラの頬の熱は増した。
「まあ! 髪飾りですね!」
「え、ええ……夜会にって」
「品の良いお品なのできっとラナエラ様のドレスと合います!」
「ありがとう」
「あらあら、お礼は贈り主様にお伝えなさってくださいね」
微笑ましいと顔に書いた侍女が退出すると、思わずラナエラは両手で顔を覆う。
耳が熱い。もしかしたら赤いのかもしれないわ……
王子からの初めての贈り物は、思いっきり動揺させてくれたのだ。
「どうしたのかしら……まるで、殿下と私の髪色みたいだ……なんて」
そんなことあるはずもないのに。仮にあったとしても王子に他意はないはず。
自分たちは仮初めの婚約者にすぎないのだから。
「……どうしたのかしら、何だかとってもドキドキするわ」
このごろ、王子のことを思えば、時折とても淋しさを覚えることがある。
「せっかくお友達になれたのに……」
春まではよくあれが楽しいだの、面白いだのと笑いを交わすことも多くなっていたが、今は父や兄の命令もあってピュリナが近くにいれば遠巻きにして学園生活を送っている。たまに王子だけを見つけても、疲れた姿を目にしてしまえば、とてもじゃないがお喋りしたいなどと言い出せない。
「夜会に身につけたら喜んでくださるかしら……」
ラナエラは他人からすれば恋わずらいとしか勘ぐれない切ないため息をつくのであった。
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