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ことの裏側(another side)
ラナエラ:少しの意地悪。
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※ラナエラのお話
ロイドが王太子となってまもなく丸四年を迎えようとしているころ、マリオン公爵家では一大事が起こっていた。
マリオン公爵夫人エレノアが妊娠して、なんと二十近く年の離れた末っ子が誕生する──その一報を受けてマリオン公爵は王都をしばらく留守にすることになった。
王都の屋敷や、職務の引き継ぎのあれこれを兄エリオットと手分けして手配に奔走していたある日、ラナエラは父に呼ばれた。
「王太子妃として殿下と生きるつもりはあるか」
「──!?」
「私としては喜ばしくはないが、ラナエラを託すには最良な人材だと思う」
「ロイド様をお赦しになった……そのように考えてもよろしいのですか?」
「いや? 未婚で権力と地位を行使可能な王太子が転がっているならば、使わぬ手はないということだ」
優先順位の問題だ、と。
「お前が厭でなければ、国王陛下と王太子殿下に打診する。異論は?」
射貫くように見据えられ、ラナエラは頷いた。
◇◇
ラナエラはこのところすっかり癖になったため息をもらす。
(───わからない)
考えても、考えても、わからない。
想っている、と云われた。人伝に「ラナエラしか望まない」とも聴いた。
何より、告白したのだ。
『わたくしは貴方が好きですわ、殿下…いいえ、ロイド様』
この数年の間に少しずつ大きく、形を変えて心の中に積もったロイドへの好意を。
(……好いてくださってると勘違いしていたの? それとも、他にお好きな方がいらっしゃるのかも……)
告白した日から変わらない、そう、何も変化の無い状況に、あの時ロイドの言葉を遮ってしまったことを後悔していた。
ラナエラにしてみれば、恋心なんて面倒なものを抱えた経験もなく、恥ずかしさもあり。なんとなく、婚約破棄したいほど好きな少女がかつていたロイドを、ずるいと感じた。初恋の自分とは違って、恋のかけひきをするなんて──ずるいと。そんなこともあっての、意趣がえしでロイドには敢えて告白させなかっただけなのに。
(どうしましょう……父上様をお止めしたほうがよいのかもしれない。殿下のお気持ち次第とはお答えしたけれど、お友達としての好意だったら恥ずかしすぎるわ……)
突然動き出した事態にラナエラはかなり動揺した。ロイドの本音がわからず、目を合わせるのも、声を聴くのも、怖い。すっかり挙動不審になっていた。
ラナエラが動揺しているように、ロイドも別方向に思い詰めていたのだが、不器用なすれ違いに気がつくのは数日後のこと。
◇◇
呼ばれて赴いたロイドの執務室は、思い詰めるあまりとんでもない方向に行きかけた後の、非常に気まずい空気が漂っていた。
先ほどまでいた、マリオン公爵とコルバン家のアンリは既に退室し、ロイドとラナエラの二人が残されていた。
ふうっ……と息を吐き、項垂れるロイドを見つめながら思う。
この方はまったく──
互いに言葉足らずでおかしさが込み上げてきて、仕方ない。
とりあえず、ものすごく驚いた仕返しをしたくなった。
「でも、わたくしのことは諦められるのですわよね……ロイ様」
吹きだすのを隠すため、扇を広げる。
「好きと申しましたのよ。なのに一年間ロイ様は何のお言葉もくださいませんし。ため息だってつきますわ。まさか誤解されてるなんて…」
そう。待っていたのだと、今さらながら知る。まさかまさか、ロイドが「告白を拒まれた」などと思い詰めていたなんて、笑うしかない。
ロイドが跪いて、
「ごめん、幾らでも謝る。だから、だから、私の妃になって欲しい!」
焦ったように求められても、簡単には頷いてあげませんわ──と、意地悪はやめれない。
「──嫌ですわ」
「頼むから!」
「───駄目ですわ」
「ラナエラを、君だけを、愛してるんだ!」
くすくすくす……
ロイドが叫んだ途端、もう限界だった。ついに吹き出してしまった。
「ようやく云っていただけましたわね、ロイ様に」
扇をずらして目をあわせれば、ロイドが泣き笑いのような表情を浮かべる。
「君が……大好きだ」
嬉しくて信じられない、と呟くロイドがかわいい。
かわいいなんて不敬かしら……?
ラナエラは初恋に振り回してくれた恋しい王太子を抱きしめ返す。
甘やかしてしまいそうね──
唇に微笑みを浮かべる。
ロイドが王太子となってまもなく丸四年を迎えようとしているころ、マリオン公爵家では一大事が起こっていた。
マリオン公爵夫人エレノアが妊娠して、なんと二十近く年の離れた末っ子が誕生する──その一報を受けてマリオン公爵は王都をしばらく留守にすることになった。
王都の屋敷や、職務の引き継ぎのあれこれを兄エリオットと手分けして手配に奔走していたある日、ラナエラは父に呼ばれた。
「王太子妃として殿下と生きるつもりはあるか」
「──!?」
「私としては喜ばしくはないが、ラナエラを託すには最良な人材だと思う」
「ロイド様をお赦しになった……そのように考えてもよろしいのですか?」
「いや? 未婚で権力と地位を行使可能な王太子が転がっているならば、使わぬ手はないということだ」
優先順位の問題だ、と。
「お前が厭でなければ、国王陛下と王太子殿下に打診する。異論は?」
射貫くように見据えられ、ラナエラは頷いた。
◇◇
ラナエラはこのところすっかり癖になったため息をもらす。
(───わからない)
考えても、考えても、わからない。
想っている、と云われた。人伝に「ラナエラしか望まない」とも聴いた。
何より、告白したのだ。
『わたくしは貴方が好きですわ、殿下…いいえ、ロイド様』
この数年の間に少しずつ大きく、形を変えて心の中に積もったロイドへの好意を。
(……好いてくださってると勘違いしていたの? それとも、他にお好きな方がいらっしゃるのかも……)
告白した日から変わらない、そう、何も変化の無い状況に、あの時ロイドの言葉を遮ってしまったことを後悔していた。
ラナエラにしてみれば、恋心なんて面倒なものを抱えた経験もなく、恥ずかしさもあり。なんとなく、婚約破棄したいほど好きな少女がかつていたロイドを、ずるいと感じた。初恋の自分とは違って、恋のかけひきをするなんて──ずるいと。そんなこともあっての、意趣がえしでロイドには敢えて告白させなかっただけなのに。
(どうしましょう……父上様をお止めしたほうがよいのかもしれない。殿下のお気持ち次第とはお答えしたけれど、お友達としての好意だったら恥ずかしすぎるわ……)
突然動き出した事態にラナエラはかなり動揺した。ロイドの本音がわからず、目を合わせるのも、声を聴くのも、怖い。すっかり挙動不審になっていた。
ラナエラが動揺しているように、ロイドも別方向に思い詰めていたのだが、不器用なすれ違いに気がつくのは数日後のこと。
◇◇
呼ばれて赴いたロイドの執務室は、思い詰めるあまりとんでもない方向に行きかけた後の、非常に気まずい空気が漂っていた。
先ほどまでいた、マリオン公爵とコルバン家のアンリは既に退室し、ロイドとラナエラの二人が残されていた。
ふうっ……と息を吐き、項垂れるロイドを見つめながら思う。
この方はまったく──
互いに言葉足らずでおかしさが込み上げてきて、仕方ない。
とりあえず、ものすごく驚いた仕返しをしたくなった。
「でも、わたくしのことは諦められるのですわよね……ロイ様」
吹きだすのを隠すため、扇を広げる。
「好きと申しましたのよ。なのに一年間ロイ様は何のお言葉もくださいませんし。ため息だってつきますわ。まさか誤解されてるなんて…」
そう。待っていたのだと、今さらながら知る。まさかまさか、ロイドが「告白を拒まれた」などと思い詰めていたなんて、笑うしかない。
ロイドが跪いて、
「ごめん、幾らでも謝る。だから、だから、私の妃になって欲しい!」
焦ったように求められても、簡単には頷いてあげませんわ──と、意地悪はやめれない。
「──嫌ですわ」
「頼むから!」
「───駄目ですわ」
「ラナエラを、君だけを、愛してるんだ!」
くすくすくす……
ロイドが叫んだ途端、もう限界だった。ついに吹き出してしまった。
「ようやく云っていただけましたわね、ロイ様に」
扇をずらして目をあわせれば、ロイドが泣き笑いのような表情を浮かべる。
「君が……大好きだ」
嬉しくて信じられない、と呟くロイドがかわいい。
かわいいなんて不敬かしら……?
ラナエラは初恋に振り回してくれた恋しい王太子を抱きしめ返す。
甘やかしてしまいそうね──
唇に微笑みを浮かべる。
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