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ことの裏側(番外編)
番外編:IF ~婚約破棄成功……
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※act.1 王子の浅慮の婚約破棄が、もしも成功していたら……
【庭園での婚約破棄で、マリオン公爵家以外にもたくさんの侍従が近くにいた場合】
「父上。私、ランスロット王国第一王子ロイド・レイ・ランスロットは、ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢との婚約を破棄いたしたく存じます」
一瞬の沈黙。
まるで時が凍りついたかのような静寂が、突如消え失せたかと思えば、その場は蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。
「なっ、何をする!? 父上ッ、母上ツ!?」
ロイドはすぐさま拘束された。
王宮の最地下にある、重罪を犯した貴族専用の特別な地下牢へと引き摺られていく。
「ああ、貴重な人材が………」
国王はひとり、ふたり、さんにんと、その場の人間を数え、思いっきりため息をついた。近衛騎士によってその場から動くことを許されない侍従と、運悪く通りがかって一部始終を目撃してしまった貴族を含めると、実に三十人弱。
ちらりと国王とマリオン公爵は視線を交わす。言葉には出さずとも通じあう。彼らの目線での会話は「粛清する?」「面倒だろ?」「威しとく?」「そうしよう」というものだった。
「──これは現実ではない。君たちは夢を見ているだけだ。夢だと思えば楽しい日々は続く」
とのマリオン公爵の言葉に、
「もし現実だと信じる者がいるなら遠慮なく言いなさい。良い医師を紹介しよう」
公言したら末路はわかるよね? と国王にも釘を刺され、その場の面々はギクシャクと頷いた。
余談だが、後日全ての者へ差出人不明の手紙が届く。中身は花びらが一枚。その花アンモビウムの花言葉は「不変の誓い」という。
その後、第一王子は廃嫡。当然のごとく、王位継承権を剥奪され平民となる。突然の平民落ちに、初恋の少女を頼ってアンジェ子爵家にすがりに行くが、当のピュリナ嬢に門前払いをされ、何処かへとふらふらと去っていったという。
当のピュリナ嬢は裕福な豪商の息子へ嫁ぐ際に「真実の愛? そんなものあるわけないじゃない」と言ったとか……。
真実の愛とは?
◇◇
【もし、夜会の場だったら】
「父上。私、ランスロット王国第一王子ロイド・レイ・ランスロットは、ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢との婚約を破棄いたしたく存じます」
沈黙。
まるで時が凍りついたかのような静寂が、大広間を包んだ。
視線が国王へ、それから五公爵へ集まる。誰ひとり物音一つたてない異常な静寂だった。
ゆっくりとコルバン公爵が「常勝公に栄光を!」と、マリオン公爵の隣に並ぶ。
残りの三公爵はコルバン公爵に出遅れたことに悔しさを滲ませながらも、「我ら五公爵家は常に共にある」と、彼らへと歩み寄った。
その後、無言のまま、民族大移動のようにジリ…ジリ…と貴族たちが五公爵のいる方へと移動し、あっという間に右側に国王と現国王に恩がある貴族の数人──いずれも号泣している──が、左側に五公爵とほぼ全ての貴族が、明らかな大差をつけて別れた。
「これはいったい?」
ロイドだけが、この展開に目を白黒させ、何が起きつつあるのか気がついていない。今この場で、ランスロット王国の未来をかけてどちら側に与するかの、貴族たちの意思表明がなされた事実を。
「このギリアム・グレイン・マリオンは、我が娘とロイド王子の婚約を破棄することを宣言する」
マリオン公爵の戦慄するほど静謐な声に、貴婦人たちはバタバタと倒れていく。ガクガクブルブルと立っていられるのが不思議なほどの当主たちは、妻のもとへ駈けよることも出来ない。
『怖すぎる──ッ!!』
大広間の大多数の心の声は、この一言につきる。
「殿下はどこぞに居るだろう子爵令嬢と真実の愛とやらを育まれるがよろしい。ただし。マリオンは王家と同じ船には乗らぬ。護るべき矜恃は私にもある、お忘れになるな」
袂を分かつことを覚悟しろと、明確すぎる宣言だった。
正しく意味をくみ取った国王は、とりあえず盟友マリオン公爵にまだ交渉の余地があることに気がついていた。馬鹿息子を切り捨てるだけでは済まないだろうが、たとえ王位を要求されたとしても王族の一員でもあるマリオン公爵に王位を譲ることは妥当だ。たまたま王家には生まれただけで、国王は地位に執着はない。暢気な隠居生活は彼の夢でもある。
「わかった、要求をのもう」
「まず、我が娘は婚約破棄をされたのではない。マリオン公爵家から愚昧な王子との婚約を破棄したと各々ご承知いただきたい」
「──同意する。ラナエラ嬢にはもとより過失は何も無い」
当然の要求に国王も頷く。
「オレグ第二王子、カイル第三王子は王位継承権を持たない王族とする」
これも、まあ当然だ。帝王学を学ぶ第一王子の暴挙なのだ。弟たちへの信頼は持ちにくい。
「現国王ジェラルド陛下の後継は四公爵家のいずれかへ委ねる」
「………承知するが、お前が継承しないのか?」
これには怪訝になった。いや、むしろお前がなってくれれば私は退位できるんだが──そんな目を向けた国王へ、
「なぜ私が愚か者の尻ぬぐいをせねばならん。面倒は御免被るよ。四公に任せろ」
マリオン公爵は心底嫌そうに丸投げをした。
「………と言ってるが?」
有力候補のまさかの辞退に四公爵を見ると、彼らも深いため息と共に、
「コルバン家は無理。アンリは遊び人だからね。尻ぬぐいは嫌だ」
「ずるい! ジルファス家だって娘に婿養子とるから辞退する。私は後見人なんてやりたくない」
「お前ら……。ラモンド家の息子たちは王には向かんよ」
「………みんなで私を見るな。カルトナー家も面倒は御免だ。それに、被害者のマリオン公爵家が継承するならば誰も異論はない。そうだな、諸君」
同意しろ、と圧力を込められ、貴族たちは折れんばかりに首を上下に振った。
「………四公爵いずれも辞退はあるまい。決めてくれ」
わかっていたが、そんなに王位を嫌がるなよ……と国王は疲れ切っていた。「愚息のせいで糺弾される立場にお前らもなれ!」と目まで据わっている。
四公爵は目線を交わし、
「「「「マリオン家のエリオットで!」」」」
声を揃えた。
その後、ラナエラ令嬢はマリオン一族の優秀な青年を婿に迎え、女公爵となる。
マリオン公爵家の前嫡男エリオットは、本人の意志を無視され、王太子として擁立をされた。いつの日か稀代の名君となる彼が時折「ふざけるな、やってられるかッ!」と発作を起こすことも、その為にある人物が献上されたことも、トップシークレットである。
元第一王子ロイドは全ての権利を剥奪され、新王太子への生贄として生涯をエリオットの傍で、名も無き者として八つ当たりを受けて生きることとなった。
件のアンジェ子爵令嬢は、「いつの間にか前王子を誑かした」との罪でランスロット王国より追放されるが、他国の貴族を誑かし後妻におさまり幸せに暮らしたという。
【庭園での婚約破棄で、マリオン公爵家以外にもたくさんの侍従が近くにいた場合】
「父上。私、ランスロット王国第一王子ロイド・レイ・ランスロットは、ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢との婚約を破棄いたしたく存じます」
一瞬の沈黙。
まるで時が凍りついたかのような静寂が、突如消え失せたかと思えば、その場は蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。
「なっ、何をする!? 父上ッ、母上ツ!?」
ロイドはすぐさま拘束された。
王宮の最地下にある、重罪を犯した貴族専用の特別な地下牢へと引き摺られていく。
「ああ、貴重な人材が………」
国王はひとり、ふたり、さんにんと、その場の人間を数え、思いっきりため息をついた。近衛騎士によってその場から動くことを許されない侍従と、運悪く通りがかって一部始終を目撃してしまった貴族を含めると、実に三十人弱。
ちらりと国王とマリオン公爵は視線を交わす。言葉には出さずとも通じあう。彼らの目線での会話は「粛清する?」「面倒だろ?」「威しとく?」「そうしよう」というものだった。
「──これは現実ではない。君たちは夢を見ているだけだ。夢だと思えば楽しい日々は続く」
とのマリオン公爵の言葉に、
「もし現実だと信じる者がいるなら遠慮なく言いなさい。良い医師を紹介しよう」
公言したら末路はわかるよね? と国王にも釘を刺され、その場の面々はギクシャクと頷いた。
余談だが、後日全ての者へ差出人不明の手紙が届く。中身は花びらが一枚。その花アンモビウムの花言葉は「不変の誓い」という。
その後、第一王子は廃嫡。当然のごとく、王位継承権を剥奪され平民となる。突然の平民落ちに、初恋の少女を頼ってアンジェ子爵家にすがりに行くが、当のピュリナ嬢に門前払いをされ、何処かへとふらふらと去っていったという。
当のピュリナ嬢は裕福な豪商の息子へ嫁ぐ際に「真実の愛? そんなものあるわけないじゃない」と言ったとか……。
真実の愛とは?
◇◇
【もし、夜会の場だったら】
「父上。私、ランスロット王国第一王子ロイド・レイ・ランスロットは、ラナエラ・サラ・マリオン公爵令嬢との婚約を破棄いたしたく存じます」
沈黙。
まるで時が凍りついたかのような静寂が、大広間を包んだ。
視線が国王へ、それから五公爵へ集まる。誰ひとり物音一つたてない異常な静寂だった。
ゆっくりとコルバン公爵が「常勝公に栄光を!」と、マリオン公爵の隣に並ぶ。
残りの三公爵はコルバン公爵に出遅れたことに悔しさを滲ませながらも、「我ら五公爵家は常に共にある」と、彼らへと歩み寄った。
その後、無言のまま、民族大移動のようにジリ…ジリ…と貴族たちが五公爵のいる方へと移動し、あっという間に右側に国王と現国王に恩がある貴族の数人──いずれも号泣している──が、左側に五公爵とほぼ全ての貴族が、明らかな大差をつけて別れた。
「これはいったい?」
ロイドだけが、この展開に目を白黒させ、何が起きつつあるのか気がついていない。今この場で、ランスロット王国の未来をかけてどちら側に与するかの、貴族たちの意思表明がなされた事実を。
「このギリアム・グレイン・マリオンは、我が娘とロイド王子の婚約を破棄することを宣言する」
マリオン公爵の戦慄するほど静謐な声に、貴婦人たちはバタバタと倒れていく。ガクガクブルブルと立っていられるのが不思議なほどの当主たちは、妻のもとへ駈けよることも出来ない。
『怖すぎる──ッ!!』
大広間の大多数の心の声は、この一言につきる。
「殿下はどこぞに居るだろう子爵令嬢と真実の愛とやらを育まれるがよろしい。ただし。マリオンは王家と同じ船には乗らぬ。護るべき矜恃は私にもある、お忘れになるな」
袂を分かつことを覚悟しろと、明確すぎる宣言だった。
正しく意味をくみ取った国王は、とりあえず盟友マリオン公爵にまだ交渉の余地があることに気がついていた。馬鹿息子を切り捨てるだけでは済まないだろうが、たとえ王位を要求されたとしても王族の一員でもあるマリオン公爵に王位を譲ることは妥当だ。たまたま王家には生まれただけで、国王は地位に執着はない。暢気な隠居生活は彼の夢でもある。
「わかった、要求をのもう」
「まず、我が娘は婚約破棄をされたのではない。マリオン公爵家から愚昧な王子との婚約を破棄したと各々ご承知いただきたい」
「──同意する。ラナエラ嬢にはもとより過失は何も無い」
当然の要求に国王も頷く。
「オレグ第二王子、カイル第三王子は王位継承権を持たない王族とする」
これも、まあ当然だ。帝王学を学ぶ第一王子の暴挙なのだ。弟たちへの信頼は持ちにくい。
「現国王ジェラルド陛下の後継は四公爵家のいずれかへ委ねる」
「………承知するが、お前が継承しないのか?」
これには怪訝になった。いや、むしろお前がなってくれれば私は退位できるんだが──そんな目を向けた国王へ、
「なぜ私が愚か者の尻ぬぐいをせねばならん。面倒は御免被るよ。四公に任せろ」
マリオン公爵は心底嫌そうに丸投げをした。
「………と言ってるが?」
有力候補のまさかの辞退に四公爵を見ると、彼らも深いため息と共に、
「コルバン家は無理。アンリは遊び人だからね。尻ぬぐいは嫌だ」
「ずるい! ジルファス家だって娘に婿養子とるから辞退する。私は後見人なんてやりたくない」
「お前ら……。ラモンド家の息子たちは王には向かんよ」
「………みんなで私を見るな。カルトナー家も面倒は御免だ。それに、被害者のマリオン公爵家が継承するならば誰も異論はない。そうだな、諸君」
同意しろ、と圧力を込められ、貴族たちは折れんばかりに首を上下に振った。
「………四公爵いずれも辞退はあるまい。決めてくれ」
わかっていたが、そんなに王位を嫌がるなよ……と国王は疲れ切っていた。「愚息のせいで糺弾される立場にお前らもなれ!」と目まで据わっている。
四公爵は目線を交わし、
「「「「マリオン家のエリオットで!」」」」
声を揃えた。
その後、ラナエラ令嬢はマリオン一族の優秀な青年を婿に迎え、女公爵となる。
マリオン公爵家の前嫡男エリオットは、本人の意志を無視され、王太子として擁立をされた。いつの日か稀代の名君となる彼が時折「ふざけるな、やってられるかッ!」と発作を起こすことも、その為にある人物が献上されたことも、トップシークレットである。
元第一王子ロイドは全ての権利を剥奪され、新王太子への生贄として生涯をエリオットの傍で、名も無き者として八つ当たりを受けて生きることとなった。
件のアンジェ子爵令嬢は、「いつの間にか前王子を誑かした」との罪でランスロット王国より追放されるが、他国の貴族を誑かし後妻におさまり幸せに暮らしたという。
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