陰鬼

玉城真紀

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私は何となく落ち着かない気持ちだったが、司は、旅行自体は楽しみだったらしく楽しそうに私やみんなと話をしていたので安堵した。早朝に出発したのだが、涼しかったのはわずかな時間ですぐに車のエアコンをフル活動するほどの暑さがやってきた。
途中、スーパーで食料と花火を大量に買い込みいざ祖母の家へ。

三時間ほどして、幼い頃の記憶とほぼ変わっていない田舎の景色が車の窓から見えてきた。運転しているユウに道を教えながら、私は懐かしい景色に興奮していた。高い建物もなくなり、見渡す限り山が広がる。次第に、人の手が入っていない荒れ果てた畑が見えてきた。畑を囲むようにつながった細い道をくねくねと車で走る。今日は綺麗な満月が空に浮かんでいるので、村全体が薄いライトで照らされているように見える。ユウも運転しやすそうだ。

「なんかすごい所よね。私もう自分がどの方向に向かってるのか分からなくなっちゃった」

由美子が面白がりながら言う。

「俺の父親の実家もこんな感じだよ」

司がそれに答える。私にとっては初耳だった。
少しさびしさを感じながらも、運転席の方に身を乗り出しながら道を教え続けようやく祖母の家が見えてきた。

祖母の家は、村の中でも一番大きく土地も広く持っていた。母が言うには、小さい頃はお手伝いさんが数人家にいたという。
しかし、跡継ぎがいないためお爺ちゃんが亡くなった後は農家を辞め田畑を人に貸したりして、祖母はその収入で暮らしていた。
何でも祖母は、母を産んだ後に病気になりそれ以来子供が産めない体になってしまったらしい。その事でお姑からかなりの嫌がらせを受けたと聞いている。

「凄いでかい家だなぁ」

ユウが感嘆の声を出す。

「由緒正しいお家柄って感じ?」

司のその言葉は、皮肉なのか褒めてるのか分からなかったので何も言わなかった。

家の庭は全体に砂利が敷き詰めてある。じゃりじゃりと音をたてながら車は庭の隅に停まった。四人ははやる気持ちを押さえながら車から降りると、改めて家や周りを見渡す。
何も変わっていない。
大きな平屋の母屋を中心に、右手に蔵が二つ建ち左手には農作業に使う農機具が何台も並んだ納屋が大きく場所を取っている。母屋の裏手は、小さい頃によく遊んだ竹林が今でもこの家を守るように屋根から顔を出していた。

「凄いね。ねっ早く入ろうよ」

由美子は車から荷物を取り、いそいそと玄関の方へ行く。

「うん」

私も自分の荷物を持つと、母親から預かった鍵を取り出し玄関を開けた。
カラカラと小気味いい音をたてて引き戸の玄関を開けた瞬間、祖母の匂いがした。ソレは、一瞬にして私を幼い頃に戻してくれる。

「お邪魔しま~す!」

感傷に浸る間もなく、由美子の元気な声が家中に響き渡る。

「結構綺麗じゃん!」

早々と、居間に入った由美子の満足そうな声が聞こえてきた。
私も早くそっちへ行こうと靴を脱ごうとした時

「何やってんの?早く入ったら?」

司だった。
何となく冷たいその言い方に、寂しくも頭にも来たが

「うん」

そう言うだけで何も言わなかった。
この旅行で、司と修復不可能であれば別れようと思っている。しかし、それは旅行の最後で結論を出す事だ。今喧嘩なんてしてしまったら、元も子もない。

「ちょっとみんな!まだ荷物あるんだぞ?取りに来てくれよ」

ユウが車の所で叫んでる。

「はいは~い!」

由美子は、余程機嫌がいいのかステップを踏みながら庭に走って行った。

誰も住まなくなった家なのだが、母親が管理しているだけあって家の中は綺麗に掃除されていた。

「私が生きている間は、あの家はしっかり守っていくつもりよ」

そう母は言っていた。
お陰で、電気、ガス、水道もきちんと使えるようになっている。
前に、両親が酷い喧嘩をした時母親は一週間返ってこなかった。恐らくここに来ていたのだろう。まぁ、そのために大切にしている訳ではないだろうが。
私も母の代が終わったら、私自身で守って行こうと思っている。
それ程私にとって、この家には良い思い出しかないのだ。

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